表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

最初の試練-1-

 規則正しく並ぶシャンデリアが幻想的な光で士官学校の広い石畳の廊下を照らしている。建築様式によるのかも知れないが、士官学校の廊下はどこも少し薄暗い感じだが、このシャンデリアの輝きを魅せるための仕様なのかも知れない。この廊下にはバロック様式の芸術的な装飾が施された壁面が続き、その重厚さは歴史を、そして足下の美しい石畳には先人たちの足跡が刻まれているようだった。


 緋色の制服に身を包んだ俺たちは、そんな士官学校の校舎群のある場所を目指して歩いている。


 目的地である中央校舎が姿を現すとその優美な姿に改めて感動する。帝国でもこの手の建築物はそれなりの数があるが、その中でも群を抜いて美しいと言われるだけはある。


 新古典様式の柱が真っ白に輝き、その上には大理石の装飾が施されていた。正面玄関ホールには巨大なシャンデリアが天井から優雅に垂れ下がり、光と影が壁面に踊っているようだった。


 この誇り高い学び舎に入ると、まるで歴史の書物が実体を持ったかのような気分になって、不思議な感じがするがそれも気のせいではないだろう。


 石段を上る際、靴音が石畳に響く――その音はまるで過去の物語を喚起させるかのようだった。一歩一歩進んでいくたびに、学び舎への緊張感が胸に迫る。


「何だかわくわくするような、それでいてとても背筋が伸びるような、不思議な気分だ」


 俺はぴったり隣を歩くヴィクトリアに話し掛けるが、彼女は俺ほどは緊張はしていないみたいだ。


「そうね、生きている歴史に触れる――そんな素敵な経験になりそうで、とても心が弾むますわ」


「でも、その実態は講義という普通のありふれた出来事なんだが、さて、何が待っているんだろうな?」


「わからないことが、また一つ楽しみでもあるわね」


 オリヴァーはヴィクトリアの言葉に水を差すように言うが、彼もまたそわそわしているのは間違いない。そしてセリーナもまた同じ様だ。


「初講義って、きっと難しいだろうな」


「難しいかどうかは分からないが、楽しいことに違いはないだろう」


「困難や苦労することがあっても、大丈夫」


 フェリクスが不安そうにしているが、アイザックはそれも楽しみであると言わんばかりの態度だ。逆にリリーはフェリクスを励ましている。アイザックもリリーも前向きだが、アレが軍人家系の特性なのかなと思ってしまう。


「さあ、新たなる歴史の扉を開こう」


 俺は先頭に立って歴史学講義室の扉を開き、堂々と中に足を踏み入れた。


 中央校舎の他の講義室と同じく、この歴史学講義室は新古典様式が見事に調和し、高い窓から差し込む陽の光が床に光の絨毯を敷き詰めていた。講義室の奥には歴代皇帝の肖像画が飾られ、その瞳には引き込まれそうな何かが宿っているように見えた。


 講義室内の通路側の壁には、特殊スクリーンが設置されていた。金属製の歯車が時折駆動音をたてながらスクリーンを切り替え、歴史上の出来事に関する映像や画像が流れていく。この規則正しい音は、技術の進化と歴史の絶え間ない歩みを感じさせる。


「すごいな、ここは文字通り歴史が生きている」


「この講義室、まるで時空を超えた図書館みたい」


 俺とヴィトクトリアは同じような感想を抱く。二人してただただ圧倒され、引き込まれていた。


「歴史の中で自分たちの足跡を残す――いや、残すことを求められているということなのね」


「帝国の歴史の重みが感じられる。先人たちとともに歩めと言わんばかりに」


 セリーナとリリーは士官学校、いや帝国が求めている義務を感じ取っているようだった。


 それぞれに感じるものは違うが、そこにある大きな何かに圧倒されていたのは違いない。そんな魂を揺さぶられている中で教官が講義室に入ってくる。教官が教壇に立つと、俺たちの注目が一点に集まった。


 そこにいたのは本来の歴史学教官ではなく、学長であった。


 彼の名はレオンハルト・クラウゼンベルク。氷狼戦役と呼ばれた10年前のアルディア共和国との間で行われた戦争で巧妙な策略と鋭い判断力で氷狼戦役を勝利に導き、帝国の英雄となった予備役中将だ。


「学長!?」


 オリヴァーが驚きの声を上げる。


「驚かせてしまったようだな。君たちの教官役はこの儂が務める。そこのオリヴァーとは浅からぬ縁があるでな。また、儂だけではなく、君たちには特任教官が講義を行うこともあるから覚えておくと良い」


 学長はそう言うと着席を指示する。俺たちはそれに従い、席に着くが、驚かされるのはそれだけはなかった。


「そして今回は通常の講義ではない。今回は帝国史の試験を最初に行う」


 突然の試験宣告に俺たちはどよめく。


「どういうことかしら?」


 セリーナは首をかしげる。


「試験!?」


「またかよ・・・・・・」


 アレキサンダーとフェリクスはうへぇと言わんばかりの表情を浮かべている。


 俺たちの反応をよそに特殊スクリーンが一斉に切り替わり、世界地図が浮かび上がった。その瞬間、俺たちは興奮と緊張の入り混じった感情に包まれた。


「地球儀及び世界地図が示す歴史的な出来事や地点に基づいて、各自考察と解答をしたまえ」


 学長は教壇の装置を操作すると特殊スクリーンが切り替わり、歴史的な出来事やそれに関する内容が次々と現れる。


 俺たちは真剣な眼差しで学長の言葉に耳を傾け、知識との戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ