新たな仲間たち-3-
士官学校のある学園都市は入学式の熱気と興奮に包まれいた。真新しい制服を纏った新入生たちは中世風の石畳や古い建物が建ち並ぶ士官学校の校舎群の中を期待に胸を膨らませて歩いている。建物の一角では、上級生が訓練している剣戟やまた射撃音などが響き一方で楽しそうな笑い声もまた学園全体に響いていた。
士官学校の中央校舎は巨大な塔がそびえ、銀の帝国紋章が校舎の正面に誇らしげに輝いている。校舎の中庭には美しい庭園が広がり、放課後である今は学生たちが集まり各々の時間を過ごしている。
新入生たちそれぞれの教室で楽しそうな話し声が聞こえてくる中でヴィクトリアとセリーナも隣り合わせの席に座り、再会の嬉しさを分かち合っていた。どこにでもある入学式後のシーンだと言えるだろう。
「セリーナさん。女学院卒業後、暫くお会いしていませんでしたがお元気そうで何よりです」
「ヴィクトリアさん、お久しぶりです。あなたこそ、お元気そうで何よりですわ」
セリーナの口調は相変わらず、いつものようにヴィクトリアに優しくそして敬意と親しみが感じられるものだった。ヴィクトリアとしては自分が年下であるのだから、もう少し砕けた感じでも良いのにと思っているが、彼女はヴィクトリアに対してはいつもこうで変わらないのだ。
二人は再会を喜び合いながら、実力試験や新生活への期待を語り合う。その中で、セリーナはヴィクトリアに思い出したように話題を振ったのであった。
「それにしても、ヴィクトリアさん、エドウィン様を入学式前に驚かせるアイディア、上手くいきましたね。大成功、してやったりというものでしたわ」
セリーナはヴィクトリアの成功を祝福し、顔をほころばせる。ヴィクトリアもこれに応じてしてやったりという笑顔を見せた。
「はい、思いがけず彼を驚かせることが出来ました。セリーナさんと一緒に考えた甲斐がありましたわ」
夕陽が学園都市を柔らかな光に包み込むなか、教室の中ではクラスメイトであるオリヴァーが同級女学生たちに囲まれて賑やかに交流しているのが見え、オリヴァーは少々引き攣った表情でセリーナに助けを請う視線を送っていたがセリーナはそれに気付かない振りをしてヴィクトリアとの談笑を続けている。
窓からは大講堂に設置された新入生歓迎の横断幕が風に揺れ、士官学校における新生活を感じさせる空気が漂っている。周りの雰囲気に身を委ねつつ、エドウィンについての思い出話や今後の士官学校生活について熱く語り合っていたが、そんな空間がヴィクトリアにとってもとても心地よかったのだ。
「それにしても、セリーナさん。私が従兄様を驚かせた時、本当に楽しかったですね。あの従兄様でも、あんな表情するのですね。実は私もそういう意味では驚いていたんですよ」
「はい、あの時の彼の顔は忘れられません。まさに鳩に豆鉄砲という表情で。あの様子を写真に残せなかったは本当に惜しいと思いますわ。けれど、ヴィクトリアさん、そしてエドウィン様との素敵な思い出になりました」
ヴィクトリアが思い出して笑いかけると、セリーナもまた思い出して笑みを浮かべた。
「悪巧みの醍醐味というのは、こういう後で笑って話せる内容こそだと、私、改めて思いましたわ」
「ええ、セリーナさんという悪巧み仲間がいたことは生涯の誇りになりそうです」
「それにしても、エドウィン様もそうですが、士官学校での新しい仲間たちも素敵ですね」
「はい、皆さん個性的で面白そうですわ。一緒に訓練や実習をこなして、絆を深めていけたらいいですね」
実力試験や入学式後の賑やかな時間を経て、ヴィクトリアとセリーナは友情と期待に胸を膨らませながら、教室を出て夕陽に染まる学園内を歩き始めと中庭では学生たちが自由な時間を楽しんでいるのが見えた。
「おや、ヴィクトリアさん、セリーナさんではありませんか! ご一緒してもよろしいかしら?」
丁度そのとき、向こう側から元気な声が聞こえてきた。彼女たちは先程の実力試験で一緒だった仲間たちだ。
ヴィクトリアとセリーナに気付いた他クラスの新しい友人たちが合流し、二人は彼女たちと交流しながら、庭園の小道を歩き始めたところで折良く空いているテラスの席が見つかった。セリーナが促すと彼女たちも同意して並んで腰を掛けたのである。
腰を落ち着けたばかりの彼女たちだが、二人に色々と聞きたそうな表情をしてうずうずしてたまらない様子だ。
「そういえば、エドウィン様に内緒でヴィクトリアさんが飛び級進学して彼を驚かせたって本当ですか?」
ヴィクトリアとセリーナは笑みを浮かべながら、その秘密に触れることなく照れくさい表情で頷きます。
「はい、それは元々私たち二人だけの小さな秘密がスタートだったのですよ」
「従兄様を驚かせるために秘密で色々と動いていたのですが、ある日、セリーナさんに知られてしまいまして、秘密を共有する仲間になったのです」
「秘密を知ってしまった以上、私はヴィクトリアさんに付きっきりであれこれ教えて差し上げたのですよ。でも、思えば、それが自分のためにもなったのでヴィクトリアさんには感謝しているのです」
セリーナがクスクスと笑いながら暴露話を続けるが、ヴィクトリアは困った表情を浮かべるけれどもそれを止めなかった。なぜなら、セリーナと過ごした時間がとても楽しく貴重な時間であったからだ。そして、それをセリーナも大事に思ってくれているのが嬉しかったのである。
「ねえ、三人ってどんな関係なの?」
興味津々な声が上がり、同級生たちの視線がセリーナ、ヴィクトリアの方へ向けられると二人ははくすくす笑いながら、その興味津々な問いにセリーナは微笑みながら語り始めたのだ。
「実は、エドウィン様と私、領地が隣接する貴族同士なのです」
「へえ、それって幼馴染みって奴? 面白い! どんな領地なの? その辺りもっと詳しく!」
近くにいた別の同級生話に加わり尋ねると、セリーナは彼女の領地について簡単に説明した。一方で、ヴィクトリアも微笑みながら彼女たちの質問に応じる。
「ご存じかも知れませんが彼と私は従兄妹なのです。私たちの本邸はゴルトハーフェンにあり、子供の頃は同じ学校に通っていたのですよ」
同級生たちは驚きの声を上げつつ、さらなる質問を投げかける。
「でも、ヴィクトリアさんとセリーナさんは同じお嬢様学校の出身だって聞いたよ?」
「そうなの。女学院での思い出もたくさんあるの。でも、ここではそれとは別のたくさんの思い出が出来そう」
ヴィクトリアは軽く笑って今後の抱負も語ると話はますます盛り上がり、三人の関係や彼らの過去について色々と話が続いていくのだった。




