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帝都への鉄路

 朝の通勤ラッシュのヴィーネスノイシュタット駅。近郊都市でもあり、軍関係の学校だけでなく他の学校を抱えるヴィーネスノイシュタットは帝都近郊でも割と乗降数の多い駅だ。


 帝都中央駅方面ホームは帝都への通勤客が列車の到着を待っている。俺たちも数分後に到着する快速列車に乗車するわけだが、出発を前にするとやはり遠征実習といえども遠出するという気分が盛り上がってくる。実際、移動距離を考えると結構な旅行と言える。なにせ、帝国領の南東と北西という対角線を走り抜けるのだから。


「やっぱり初めての遠征は緊張するわ」


 ヴィクトリアがため息混じりに言うと、オリヴァーがにっこり笑って応えた。


「えっ? なんで? ノルドグレンツェ門に行くんだぜ? 俺は楽しみでならない。それに帝国の最新鋭の装甲列車に便乗出来るなんて最高だぜ、ヒャッホゥ!」


「次の課外実習先が北辺、そして装甲列車に便乗というのも興味深いですわね」


 丁度空いていたベンチに腰掛けているリリーがそっと日程表を閉じ顔を上げて言った。彼女は少し顔が紅潮していた。


「おっ、リリー、君はイケるクチか?」


 オリヴァーが同類を見つけた表情でリリーに話し掛ける。だが、彼女はどっちの意味で問われているのか、非常に迷っているのか視線が左右している。


「おい、オリヴァー、リリーが困っているだろう。君と一緒にするなよ」


 俺はオリヴァー(鉄オタ)の本性に巻き込まれるリリーが憐れに思えて助け船を出す。あからさまにほっとした表情を見せるリリーだった。


「なんだよ。北辺という浪漫溢れる大地について語れる同志だと思ったのによう」


――調子が良い奴だ。どうせ隠しても無駄だろうに。そのうちバレるぞ。


 オリヴァーの調子の良い返事に俺はジト目で応じた。


 しばらくしてホームに快速列車が入線し、俺たちは順に乗車、士官学校が手配した指定席へ向かう。1分後、ヴィーネスノイシュタットを発つ合図が鳴り列車が動き出した。発車時の振動が俺たちの乗る車両に伝わった。導力機関車が客車を引き出す衝撃だ。運転士の腕によってこの衝撃振動は大きく違う。


「おぉ、今日の運ちゃんは腕が良いな」


 アレクサンダーがそんなことを言い出した。オリヴァーはその隣でウンウンと頷いている。最近、アレクサンダーは導力機関車の乗務訓練を通して良い感じに染まり始めていると俺は感じているが、当の本人は気付いておるまい。


 外野だと言わんばかりの態度である俺も窓の外に広がる景色を眺めながら、旅の始まりを感じていた。オリヴァーほどではないが、俺も鉄道の旅、というより列車の車窓を眺めるのは割と好きなのだ。


「北辺の遠征は俺の人生史において大きなイベントになりそうだ。どんな出来事が待っているのか、楽しみだよ」


 アイザックが俺の隣で心底楽しそうな表情でそう言った。


――アイザックお前は染まらないでいてくれよ。お前は俺たちの良心の一人だからな。


 俺はそう思わずにいられなかった。


 途中で車掌がやってくると、乗車指定券の確認を行った。彼らの制服は袖に三本の銀帯が入った濃緑色のダブルボタンジャケット、ブラックスラックスという出で立ちだ。これに左胸に銀色の帝国の紋章が輝いていた。


 最近の少年臣民の憧れの制服だと言われているが、確かに格好良く、また着ている彼らも誇らしそうにしている。実際、帝国軍の軍服と双璧をなしているとファッション誌では度々評価されているのだ。


「ヴィーネスノイシュタットから帝都中央駅までは約30分です。ごゆっくりお過ごしください」


 車掌は年下である俺たちに脱帽して敬意を示している。無論、それは俺たちという人間ではなく、帝国軍人というそれに対する敬意だ。座っているため略式であるが、俺たちも敬礼を返して彼に敬意を示す。


 実際、鉄道省と帝国軍の関係はとても良い。鉄道省にとって上御得意様であり、帝国軍にとってはかけがえのない戦友と言った関係だ。お互いに切っても切れない関係なのだ。


 ただし、鉄道憲兵隊は別だ。あれは別である。鉄道省にとっては新参者に泥を塗られたという印象を持たれているのだ。そう、他の誰でもない、エレノアの従姉(鉄衛の紫幻)によって。かの車掌も組織の宿敵とも言える相手の従妹がここにいたとは思いもしていないだろう。


 列車が緩やかなカーブを描き、次第に速度を上げていく。俺たちは窓の外に広がる風景を楽しみ興奮と期待に胸を躍らせていた。列車は近郊都市の高架橋をくぐり、ビルの谷間を進んでいく。


「ここからが都会のはじまりね」


 列車が近郊の駅に停車し、乗客の出入りが慌ただしく行われている光景を見ながらヴィクトリアが呟く。ヴィーネスノイシュタットから15分が経過する頃、車窓から見える景色は一変していた。高層ビルが林立し、そのビルの隙間にある通りを人々が忙しなく行き交っている。


「帝都中央駅に近づいている。この区間は本当にあっという間だな」


――割としょっちゅう用もないのに帝都に行っているだろうに。それも帝都中央駅の改札から出ずに帰ってくる酔狂めが。


 アレクサンダーが惜しいと言わんばかりの表情で呟いている。俺は変態めという視線を送ってやった。


 列車はヴィーネス川に架かる壮大な鉄橋を渡る、水面に映る太陽光がキラキラと輝く。俺たちは窓の外を見つめながら、新しい景色に驚きと感動を覚えていた。


 やがて、帝都中央駅の高いビルが遠くに見え始めた。しかし、まだ到着までの時間が残されている。列車は都会の喧騒を背に、次第に速度を緩めていく。窓の外では高層ビルが増え、進行方向左手の奥の方に帝都のシンボルである帝国政府ビルが見え隠れする。中央省庁のビルがその周囲に建ち並んでいる。右手には商業高層ビルや国際展示場などが建ち並んでいる。


「もうすぐだ」


 アイザックが興奮気味に言った。帝都ほどではないが地方の帝国直轄都市もこういった光景が増えてきているが、やはり帝都の壮大さには劣る。そして、アイザックは帝都に訪れた回数も多くなくお上りさん特有の反応だとも言えるが、実際、車内の乗客の一定数は彼と同じ反応を示している。


 俺は窓から外を見つめ、興奮が高まっていくのを感じていた。これから乗り換える装甲列車はそれそのものが実習先であり、期待と緊張が入り混じった気持ちで一杯だった。いや、帝都中央駅が近づくにつれて膨れ上がっていると言っても良い。


 都心に入って各駅に停車するようになった列車が途中最後の駅に到着し、ドアが開く音が響く。駅には多くの人が行き交い、新たな乗客が列車に乗り込んできていた。


「これで最後の駅。帝都中央駅まであと少しね」


 セリーナがそう言った後、俺は仲間たちと席を立ち、列車の通路に並ぶ。


「さて、この30分の旅も終わりか」


「でも、これからが本番だよ。装甲列車、楽しみだな」


 オリヴァーが懐かしむように呟くとアイザックがにやりと笑いながら応えた。


 列車が再び動き出し、駅から遠ざかっていく。窓の外では帝都中央駅が見え隠れし、その巨大な姿がますます近づいてきた。

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