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新たな仲間たち-2.5-

 アレクサンダーが厳しく警告した言葉が私の心を震わせた。彼の指摘が私にとっての現実を突きつけ、夢に向かって進む中で避けて通れない課題がそこにあることを理解させられた。


「進路間違えている」


 その一言が、私の技術という未知なる力が抱えるリスクを胸に突き刺していた。


 こういうのが出来ると良いな、作れると便利だなと思って作っていたものだから、彼らが驚くほど凄いものを作っていたなどという自覚はなかった。私は純粋に軍務官僚になることを望んでこの士官学校に入校したのだ。


 それは父が中央官庁の高級官僚であり、中央官庁が女性の進出を極端に嫌う世界であることからいくら出世の道どころか登用すら厳しいと聞いていたからだ。


 しかし、軍務官僚ならば割と女性の進出に寛容であると聞いてもいた。実際に従姉が士官学校を卒業して鉄道憲兵隊に配属されてから男性の牙城である鉄道省相手に丁々発止のやりとりを演じていることを知っている。鉄道省が女相手だからと舐めてかかって、とんだ大恥をかかされたという醜聞が帝都日報に出ていたのは記憶に新しい。


 そういったこともあり、父や従姉の勧めで士官学校に入校したのは良いけれど、入学初日から旧友に進路を間違えていると言われるとは思わなかった。


 だが、同時に趣味全開で作っていた代物が実は帝国どころか世界的に相当にヤバめなモノであり、それが故に級友たちが心配して忠告してくれたこと、特にアレクサンダーの言葉の中には、私を守りたいという気遣いも感じられた。そして、同時に彼の冷静な表情の奥に宿る、私に対する期待を示してくれたのだ。


 なぜなら、彼はやめるなとは言わなかった。そして惜しいとまで言ってくれた。これは同時に私の夢や技術の可能性に対する情熱も再確認させてくれたのであった。役立つものを生み出すという夢が、私を前に進ませる力となっていた。


 フェリクスやアイザックとの議論で、彼らの提案が私の中に新たなアイディアを生む瞬間があった。彼らの知識と経験から生まれる意見が、私の技術をより洗練されたものにできる可能性を示唆していた。アイザックの冷静な提案や、フェリクスの興奮と期待が、私の中で新たな視野を広げていった。


 私はアレクサンダーのその照れくさい微笑みに心を打たれた。彼の表情からは、私に対する不器用ながらも真摯な感情が伝わってきた。それが私にとって特別なものであることを感じ、心の中で微笑む余裕が生まれた。


 全ての感情と葛藤を抱えつつも、私は自分の進むべき道を強く感じた。


 アレクサンダーの忠告が私を揺り動かし、仲間たちの提案が未来への新たな可能性を照らし出し、私は夢に向かって進む覚悟を新たにし、同時に技術の進化に伴う責任を真剣に考えるようになった。


◇◆◇


寮の中庭には静けさが広がり、月の光が銀色の光を投げかけていた。リリーの部屋の窓から月明かりが差し込み、寝台に腰かけた彼女の肢体を照らしている。彼女は心に抱えた思いに耽っていた。


入学式直後に行われた実力試験を終えた後、彼女はエドウィンと放課後に一緒にいたときのことである。


 エドウィンとの会話を振り返りながら、リリーは彼に対する印象を思い巡らせる。彼女にとって、エドウィンはただの同期や仲間ではなかった。


 エドウィンのリーダーシップと情熱は、彼女の心に深い感銘を与え、彼の指揮の下で困難な課題に挑んだこと、そして彼とともに乗り越えたことは、彼女にとっては誇りとなったのだ。そして、彼女は彼とともにあることを使命だとすら感じていた。


 一方で、彼女の実家から有力な新興貴族への接近を指示されたことは彼女にとって葛藤の種であった。彼女はその命令には従いつつも、心の奥底でモヤモヤするものを抱いていた。エドウィンとの絆を考えると、新興貴族との交流実家からの指示は簡単なものではなく、心に苦しみを残すものだった。


「アシュモア卿が私に向ける眼差しを裏切るのは、私にとても辛い。だが・・・・・・」


 寮部屋の窓辺に座りながら、リリーはエドウィンとの関係と実家からの指示に対する危惧を考えていた。彼女は実家の指示を断るつもりはなく、帝国の繁栄のためには軍部と新興貴族の接近が一つの方法であるとも理解していた。


 現在の帝国は名門貴族、新興貴族、軍部、中央政界、財界の各勢力が主導権を握ろうと暗躍している。特に軍部は財界と結び、新興貴族を取り込もうとしているのだ。こういった派閥争いに彼を巻き込むことは、彼女にとっては心の痛みとなっていた。


 また、リリーの心を揺さぶるのは実家の指示だけではなかった。ヴィクトリアの存在だ。リリーはヴィクトリアとは面識はなかったが、エドウィンの従妹であり名前だけは知っていた。


 そのヴィクトリアがエドウィンに飛び級入学を黙っていて入学式当日に彼を驚かせた一件に思い巡らせると、リリーは複雑な感情に揺れ動かされるのであった。リリーはヴィクトリアに対して嫉妬心を抱くわけではなかったが、エドウィンとの過去の思い出が彼女の心を刺激していたのだ。


 リリーは日記にエドウィンとの出会いや彼と共有した思い出を綴っていて振り返る度に懐かしさと哀愁が胸をいっぱいにする。しかし、彼がそれを覚えていないことはリリーを悲しくさせた。


「一度失った絆を、今度は失いたくない」


 一度断絶した絆を再び築き上げることは容易ではないと理解していた。


 寮の中でリリーは、これから先もエドウィンとの絆を大切にしながら、実家の指示との葛藤と向き合わなければならないと決意した。彼女の心は静かな夜に包まれながら、未知の未来という不安に揺れ動くのだった。

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