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宰相執務室

 帝国宰相エドゥアルト・フォン・ローゼンタールは、朝日に照らされた宰相府の書斎で報告書を読み込んでいた。彼の前には密輸組織デクレセントムーンと呼ばれる組織について最新の情報が並んでいる。


「ダイアメトロンの密輸組織は未だに摘発出来ぬと・・・・・・」


 エドゥアルトは眉間にしわを寄せ、報告書をなぞる手を止めた。


 内務省の捜査は進行中だが、捕らえたデクレセントムーンの構成員は口をつぐんでいるか、情報を保持していないかのどちらかだった。彼らの真の目的は、まだ帝国にとっては謎に包まれたままであり、それが故に帝国政府、いや帝国宰相としての彼の立場を不安定にさせている。


 窓から差し込む陽光が、書斎の空気を幾分かは穏やかにさせていたが、その陽光の中にも、帝国を覆う影が微かに感じられる。春の麗らかな日差しであるが、雲がそれを邪魔しているのが帝国宰相の心情を表しているかのようでもあった。


 エドゥアルトは机に手を置き、内務省との連絡を取るために通信端末を取り出した。宰相秘書官でもある内務官僚ルイーズ・ダンマーシュを呼び出すためだ。ルイーズを呼び出すのも、アルディア共和国との外交策を練る必要性を感じていたからである。


「ルイーズ、何か新たな手掛かりは見つかったかね?」


 通信端末から返ってくる声は期待を裏切るような恐縮したものだった。


「残念ながら、デクレセントムーンの構成員はかなり手強く、これといった成果は出ていません、ただ、密輸されたダイアメトロンはアルディア共和国からの定期海上航路によってもたらされたことがほぼ確実であると、捜査報告が上がってきております」


 エドゥアルトは深いため息をつきながら、外交政策の方針を決定する必要が迫られていることを自覚した。未知の組織が帝国に影を落とし、外交交渉によってどれだけ譲歩を引き出せるか、それを試される時が近づいていることを感じていた。


 ルイーズの声が通信端末から響く。


「宰相閣下、新たな情報が入手できれば速やかにお知らせいたします。しかし、デクレセントムーン方面からは恐らく期待できるような情報は引き出せないかと思います。内務省としては捜査結果を地道に積み上げるしかないと結論づけております」


 エドゥアルトは頷きルイーズにねぎらいの言葉と同時に発破を掛ける。


「苦労を掛けるが、慎重に進めてくれ、ルイーズ。帝国の安寧こそ、我らのなすべき仕事だ。頼むぞ」


 通信が切れた後、エドゥアルトは窓の外を見つめた。帝国内に潜む影が、帝国という存在を揺さぶるように感じる。しかし、エドゥアルトはその影を払いのけ、そして、その影を操るであろうアルディア共和国との外交交渉に集中せざるを得なかった。

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