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新たな仲間たち-2-

 帝国士官学校の入学初日、ホームルームの後に続いて行われた入学式を終えたばかりだというのに、新入生たちはクラスごとに別れてロングホームルームという名の体力測定を兼ねた実力試験が行われた。


 初日だというのに容赦なく次から次へと試験項目が襲ってくる。元々士官学校に入校する存在であるため通常の官学校などで行われる類いの体力測定など存在しない。あるのは純粋に軍人としてたたき上げるための必要な素養のチェックというべきだろう。


 俺は怒濤のごとく襲い来る士官学校の洗礼を緊張とそれを越えた先の興奮という異常な精神状態の中でなんとかクリアすることに成功したようだ。それもあって、放課後くらいはのんびりしたいと訓練場脇の遊歩道を歩いていた。初めての実力試験が終わり、学園内を歩く彼は、リリーと出会った。


 リリーは軍人家系の子女であるのに優雅な立ち居振る舞いで俺に近づき、微笑みながら言葉をかけてきた。


「アシュモア卿、お疲れ様でした。初日の試験は順調にクリアなさったようですね」


 俺は疲れてはいたが、彼女に微笑みながら頷き言葉を返す。


「そうだな、緊張感もあったが、何とかなるさ。人間追い込まれると変な興奮で突っ走れるものなんだな。君はどれくらいの経験があるんだい、ストライドウェルさん?」


「リリーで結構ですわ。アシュモア卿、軍人の家系に育ち、小さい頃から武芸の修練を受けてきていましたから、どうということはありません。ですが、新しい仲間たちと一緒にこういったことをできるのは初めてのことでとても楽しく思えました」


 とても気持ちの良い笑顔でそう応じるリリーが少しまぶしく思える。俺ももう少し精進するべきなのかも知れない。彼女は良い目標となりそうだなと感じられるのは彼女がまっすぐな性格をしているからなのだろう。


 それと同時に俺はリリーが何かを期待しているような気配を感じてもいた。だからこそ、立ち入ったことになるかも知れないとは思ったが遠慮なく聞くことにした。


「どうして一緒に訓練や試験をやるというのが初めてなんだい?」


 リリーは視線を逸らしながら恥ずかしそうに語り出した。


「以前の私の環境では、家族や家の教育係が私の訓練を指導してくれたのみで、同年代の仲間たちと戦える機会はあまりありませんでした。だからこそ、皆さんとの交流が楽しみでもあり、新たなステップとなるのです」


 俺はリリーの背後にある努力と新しい仲間たちへの期待を感じ、心の中でリリーの姿勢に感銘を受けていた。


――そうか、だから彼女をまっすぐで心地よいと感じたんだな。


 内心でそう思いつつ俺は会話を楽しむために、リリーに向かって言葉を継いだ。


「なら、これから一緒に助け合って成長していこうじゃないか。君の武芸にも期待しているぞ。君の御家流もそのうち拝めるんじゃないかと楽しみにしている」


 リリーは俺の言葉に嬉しさを隠せずにいるようで、握手を求めてきた。


「お互いに励まし合い、成長していきましょう。」


 俺とリリーは固く握手を交わす。彼女との距離はより縮まり、士官学校におけるこれから日々に助け合って進んでいくことを心に刻んだ。


 リリーはこの後は寮に戻るというのでそこで別れたが、清々しい気持ちで遊歩道を歩いて訓練場の奥の方まで来たところでクラスメイトたちが何かやっているのが見えた。どうやらエレノアがトラップ装置を使って自主訓練をしているようだ。


 遠くからであったが彼女のトラップ発生装置は導力回路から発せられた導力通信によって設置されたトラップが一斉に起爆する無線地雷タイプのものであるらしかった。


 近づいていくとエレノアは興奮気味に野次馬をしている仲間たちに向けて説明していた。


「皆さん、これが私の最新のトラップ発生装置です。導力回路を介して、設置したトラップが一斉に起爆する仕組みなんです」


 野次馬の一人であるアレクサンダー・アイアンサイドは興味津々の表情でエレノアに尋ねた。


「無線地雷の概念は帝国軍でも実証されているが、実用段階には達していないはずだが?」


「はい、そうなんです。私はそれを応用して、独自の改良を施したんです」


 エレノアは自信たっぷりに答えた。


 実証段階にない技術を実用化したという話に、フェリクス・クロムウェルとアイザック・ブレイズウッドも加わり、興味津々でトラップの仕組みについて語り合い始めたようだ。


 だが、そのとき、アレクサンダーはエレノアに近づき、鋭い視線で彼女を見つめながら言葉を発した。


「君の発想は面白いな。ただし、その危険性も考慮しておいた方がいい」


「もちろんです。安全面にも気を配っていますが、アイアンサイドさん、これに何かアドバイスがあれば聞かせてください」


 エレノアは素直な笑顔で頷き、同時にアドバイスを求める。彼女は自分の発明をただ自慢したり誇示したいわけではなく、使う上での危険性も考えていて、それに対して適切なアドバイスをしてくれる存在には素直に従うようだ。


 アレクサンダーは考え込んだ表情で続けた。


「このトラップ、そしてその応用で無線地雷が実用化成功するなら、注目を集める可能性がある。帝国軍や軍需産業、場合によっては外国の勢力までが、君のことを狙うかも知れない。だから、このトラップについては当面秘匿した方が良いだろうね。ただ、封印するには惜しい技術なんだ」


エレノアは彼の言葉に真剣な表情でうなずいた。


「確かに、考えておくべき点ですね。アイアンサイドさん、ありがとうございます」


「いや、ほら、技術を愛する人間としては闇に葬るのが惜しい・・・・・・けれど、君自身の安否を考えると・・・・・・」


 アレクサンダーの言葉は色んな感情がせめぎ合っているようで、エレノアは彼に心の底から頭が下がる思いだったらしく、実際に深々と頭を下げて謝意を示している。


「やめてくれ、俺はただ当然のことを言ったまでさ。ほら、これから仲間としてやっていくんだからな」


「アレクサンダーが照れている。なかなか面白い見世物だったよ」


 フェリクスも会話に加わり茶々を入れるが、アレクサンダーはにらみ返すだけで何も言わない。


「しかし、惜しいよなぁ。これ、国境に配備出来れば無人警備も実現出来てその分だけ別に国防予算を使える様になるよな。例えば正規軍が今進めている歩兵師団の機械化なんかに回せば・・・・・・」


 アイザックは軍人の家系でもあるだけに他の誰よりもこれを用いることによるメリットや運用方法について頭の中で算段が出来ているようだった。


「俺は思うのだけれど、起爆しないなら当面正規軍や軍需産業、外国勢力などから目をつけられないんじゃないかな。ほら、センサーでって言っていただろう? だったら、対人感知で警報とか、他にも応用は出来ると思うから」


「それだ! アイザック、お前、冴えてるな!」


 フェリクスはアイザックにそう言うと、メモ用紙を取り出して書き出している。


「エレノア、君の言っていたことを概念図にして、それから警報装置として改良したものだけれど、再現出来るか?」


「えっ? え、ええ。出来ると思います。ですが、よくこんな概念図書けますね、私こんなの書いたことないんですよ。これわかりやすいですね」


 エレノアのその言葉に技術的な理屈のわかるアレクサンダーとフェリクスはポカンと口を開けて呆けている。


「どうしたのですか、二人とも」


 エレノアは二人の様子から何かやらかしたのかと不安になって尋ねるが、二人は揃ってエレノアの言葉をスルーしている。


「なぁ、フェリクス、エレノアって」


「あぁ、マジでいるんだな、こういう感覚だけの天才って」


「そんなにすごいのか?」


 アイザックは一人蚊帳の外だが、兵器を扱うことで図面を見ることもあるだけあって、なんとなく事情を察したのだろう。


「エレノア、絶対進路間違えている」


 アレクサンダーは断言した。俺はそっとその場を離れることにした。


――今のは聞かなかったことにしよう。

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