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厳しい野戦実習-13-

 塹壕から戻った後、少しの休憩を挟んで作戦会議が再び行われた。その席上で情報のすりあわせと共有が行われたが、それは最終的にはセリーナが予測した通りのものだった。これによってヴィクトリアは事前にセリーナと詰めていた作戦案に沿って第3ラウンドを開始することを決断、全員にそれを伝えて了解を取り付けたのだった。


 無論、エレノアによる導力波妨害作戦も行われることになったが、その際、フェリクスの目がいつも以上に輝いていた。


 作戦内容が決まると本陣も移動することとなり、要塞第二層の安全圏に橋頭堡を築くためにエレノアとフェリクスが先行して忍び込んだ。


 彼女は観測及び分析結果に基づいて鉄塔のサービスエリア外の比較的高所に送信機を次々と設置していく。


 また、同じく改造した受信機も数が少ないが設置していく。これは導力波を感知するための警報装置としての役割だ。そして、送信機を通して妨害導力波を送るためのタイマー的な役割も果たす。


 これらの機械は静かに起動し、きちんと稼働していることを確認したエレノアは信号弾白1発を打ち上げるとすぐに引き上げていった。途中で護衛兼機材のバックアップ要員として帯同していたフェリクス分かれてヴィクトリアとセリーナが待つ、塹壕に設置した橋頭堡に向かう。


 フェリクスと分かれてからの彼女の表情はやりきった満足感が溢れ、自信に満ちていた。


 第1,第2分隊が、作戦指示通りに無人銃座をサービスエリア外に誘導し、移動基地局による中継指示が送信され始めるとエレノアの仕掛けた装置が作動し、無人銃座が一瞬にして停止した。その隙間を見逃さず、第1,第2分隊は迅速に接近し、無人銃座を無効化していった。


 俺たちは無駄弾を打つのも勿体ないと考えてスコップで徹底的に無人銃座の受信機と思われる場所を叩き壊していく。また、フェリクスは工具を使って一体の無人銃座から軽機関銃を取り外して、壊していった無人銃座から演習弾を根刮ぎ奪っていく。


「いや、だって勿体ないでしょ。これ、折角あるなら、僕たちも軽機関銃を装備して対抗しても良いと思うんだ。演習指示書には鹵獲兵器を使っては駄目とは一言も書いていないからね」


「あー、そうだな。じゃあ、俺も捥ぎ取っていこうか。軽機2挺あれば戦いやすいぜ」


 アイザックもノリノリでフェリクスの工具を借りて無人銃座をばらしていく。


「軽機は2挺あれば良いだろう。だが、演習弾は根刮ぎ持ってくぞ。弾はいくらあっても困ることはない。軽機と小銃は同じ実包だからな。クリップがないからちと面倒だが、まぁ、問題ない」


 オリヴァーはそう言うと、リリーもアレクサンダーもそれに従って鹵獲品をありがたくいただいていく。まるで盗賊団と一緒だぞこれ。酷い追い剥ぎもいたもんだ。


 追い剥ぎ行為もとい、戦利品を装備し直した俺たちは再び行動を開始する。俺たちは無人銃座の停止を利用して、塹壕第三層に迫る。しかし、まだフラッグに手を伸ばすこと叶わない。塹壕第三層を超えた先にそれはあるからだ。


 ◇◆◇


 一方、橋頭堡にて本陣を設置したヴィクトリアは慎重に状況を見守っていた。


「いい感じね」


 ヴィクトリアは双眼鏡を通して第1,第2分隊の様子を見つめ、成功を確信して微笑む。彼女たちは安全圏にある倉庫の屋上に陣取っている。また、参謀役であるセリーナは少し離れたところで同じように双眼鏡で監視を続けている。


 ヴィクトリアが双眼鏡から目を離したその直後、塹壕第三層から急に機関銃の掃射音が轟き、無人銃座が再び作動を始めた。


「ヴィクトリアさん、エレノアが戻りました」


「二人とも、こっちに来て、思っていたより早く動き始めたみたい」


 ヴィクトリアは少し焦った様子である。


「大丈夫です。彼らを信じましょう」


 エレノアはそう返したが、それでもヴィクトリアは心配であった。


 ヴィクトリアが不安そうな表情を浮かべて戦況を見守っている中、当事者である俺たちは突然集まって来て火を噴き出した無人銃座に泡を食っていた。


「もうあいつら動き出した。予想より早かったな。暫くはここのバリケードに隠れて奴らが散開するまで様子見をしよう。それでどうだい、オリヴァー?」


「あぁ、そうだ。だが、もう動き出したと言うよりは、死体漁りに時間を掛け過ぎたというべきだろう」


 率先して死体漁りをしていた頭目がなんか言っている。


「くっ、またか!?」


 アイザックが隠れたバリケードには無人銃座が容赦なく銃撃を加えている。


「おい、アイザック、少し顔出して挑発してやれ、さっきの死体漁りであいつらの残弾はそこまで多くないはずだ。ちょっと挑発したら撃ち尽くすんじゃないか?」


 オリヴァーは違う分隊に属しているアイザックに指示を出している。言っていることは間違っていないが、そういうのは俺を通してから言えよ。


「うちの大将の判断は?」


「アイザックの判断に任せる。君も死体漁りしていただろう? オリヴァーの判断は間違ってないと思うが、アイザックはどう考えた?」


「オリヴァーの旦那と同じだ。奪った軽機で一連射してやれば、あいつら気が狂ったように撃ってくると思うぜ」


「よし、じゃあやってくれ」


 その瞬間、俺の声がかき消されるように、隣のバリケードから軽機関銃が無人銃座に向け火を噴く。今まで撃たれっぱなしだっただけにアイザックは景気よくぶっ放している。一連射と言いながら三連射くらいしている。まぁ、とは言っても、三点射撃の三連射だが。全力連射で撃つと弾があっという間になくなるからね。


 予想通り、挑発に乗った無人銃座は遠慮なく全力連射でこっちを狙ってくる。それから暫くすると弾切れになったらしく退いていった。


「よし、追いかけっこだ」


 俺は即断すると退却していく無人銃座に向かって走り出す。アイザックもリリーも俺に続いてバリケードから踊り出す。


「大将に続け! ヒャッハー!」


「アイザックには後れをとりません!」


 軽機関銃を連射してテンションが上がったアイザックだけでなくリリーも積もり積もった鬱憤を晴らすかのようなテンションである。


「あいつら、なんなんだ?」


 オリヴァーは置いてけぼりを食った感じでポカンとしていたが、フェリクスとアレクサンダーが集合してくると仕方なく言った。


「あいつらを追いかけるぞ」

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