厳しい野戦実習-12-
第1,第2分隊が行動を開始してからヴィクトリアはエレノアと共に双眼鏡を覗き込みながら、無人銃座の配置を確認していた。彼女の眉間には一筋の皺が寄り、状況を冷静に分析している様子が窺えた。
「セリーナ、鉄塔の位置はエレノアが伝え通りだけれど」
「ええ、地図上に無人銃座の配置と鉄塔の位置を記録しました。あとはお二人が観測した情報と第1,第2分隊の報告を反映させることで、無人銃座の可動範囲や鉄塔からの導力波の有効範囲が割り出せると思いますわ」
セリーナの返答にヴィクトリアは満足そうに頷いた。
「セリーナさん、無人銃座とは別に妙な動きをしている個体があります」
「エレノア、その個体を注意深く観察し続けてください。ヴィクトリアさんは引き続き無人銃座と各分隊の観察を」
「ええ、任せて」
ヴィクトリアは頷くと双眼鏡を覗き込み、時折メモをとりながら全体の情勢を見守り続ける。エレノアも観察対象をセリーナの指示通り別個体の動向を報告し続ける。その報告と無人銃座の動きをヴィクトリアもメモして相関関係を探っているようだ。
「頃合かしらね」
行動を開始してから1時間程度経った頃、ヴィクトリアは信号弾を打ち上げた。赤白1発ずつ打ち上げると、塹壕内で散開して無人銃座の情報収集をしていた第1,第2分隊は素早く退路を確保しつつ撤退を開始した。
あくまで小手調べでしかない第2ラウンドで消耗しても困る。この1時間あまりで十分に情報は集まってきた。特にエレノアが注視していた個体の動きが大きく戦況に影響していることが判明したのだ。
「エレノア、あなたが見つけたあの個体、移動基地局と以後は呼称します。戦術目標の最優先破壊対象としておくわ」
セリーナはそう宣言すると、破壊する対象と無視するをそれぞれリスト化していった。各分隊が戻ってくるまでの間、セリーナは分析結果をヴィクトリアとエレノアに伝えていった。
ヴィクトリアはセリーナと作戦の詳細を詰めていくために討議に集中するが、その一方でエレノアは自分が作った警戒装置に改造を始めていた。
彼女は移動基地局を観察し始めると同時に自身の携帯端末で導力波の計測も行っていた。その課程で一つの仮説を導き出していた。そして、セリーナの戦況分析と合わせて一つの推論に至り、すぐにその推論を実証するべく、警戒装置に機能を追加し始めたのである。
元々警戒装置は受信機と送信機に分かれていて、今彼女が改造しているのは送信機である。この受信機に導力波の中継機能を追加しているのだ。
推定概念としてはこうだ。
移動基地局は鉄塔から送信される導力波を無人銃座へ中継転送する役割を担っている。そのため、これが鉄塔のサービスエリアの死角をカバーする役割を担って、結果的に無人銃座はある程度自由に行動出来ている。
特に防御設備が多い通用門や遮蔽物の多い回廊などは無人銃座の移動にタイムラグが発生している傾向があり、そのときに移動基地局が補助するべく移動し、サービスエリアを補完しているようであった。
そして、エレノアの携帯端末はそのタイミングのみに特定の導力波を感知していることがわかったのだ。よって、この導力波を各方面から同時に放ち、無人銃座のコントロールに障害を与えようというものである。
そして、送信機に中継機能を追加することで導力波を中継して、無人銃座へ多重に指示が届くようにしまおうと考えたのだ。そしてその導力波の周波数はエレノアの携帯端末で記録されているため、必要に応じてエレノアが不正アクセスすることが可能になるのだ。
ただし、この導力波は移動基地局による補完時にしか機能しないだろうとエレノアは同時に考えていた。そのため、あくまでこれによって足止め出来るタイミングはわずかであろうとも割り切っていた。
エレノアは準備が整うとヴィクトリアに向かって宣言する。その表情はやりきったような表情もあったが、挑戦してやろうという野心的な表情でもあった。
「ヴィクトリアさん、今度は私が前線に出ます。これは私の仕事ですから」
「何か出来たみたいね。さっきからずっと機械をいじっていたみたいだけれど」
「ええ、これが私の戦い方ですから」
伊達眼鏡の奥がキラッと光った。そんな風にヴィクトリアとセリーナには見えた。そしてエレノアの後ろに何か危険なオーラが揺らぐような気がした瞬間だった。




