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新たな仲間たち-1-

 風が吹き抜ける士官学校の門をくぐるの俺の名はエドウィン・アシュモア、伯爵家の御曹司であり、士官学校の新入生だ。俺の視線は周囲に広がる壮大な庭園や重厚な建物に引かれつつも、同時に初対面の仲間たちに向けられていた。


 最初に目に留まったのは艶やかな黒髪と洗練された服装を纏った少女であり、彼女は俺がよく知る存在であった。


 ヴィクトリア・エリス。アシュモア家の分家筋である子爵家の令嬢で、一学年分を前年度に修了して同期入学した彼女は、上品な物腰と気品を持ちながらも、どこか芯の強さが感じられた。どうやら、エドウィンの知らないところでずいぶんと成長したのだろう。


「お従兄様」


 優雅な笑みを浮かべ、ヴィクトリアがエドウィンに声をかけた瞬間、彼の心には親しみと同時に緊張感が走った。彼女の存在は、学園内での俺の生活に新たな一章を刻みつけそうだった。そして、同時にかつての彼女と過ごした時間から導かれる一つの答えが俺の表情を引き攣らせる。


「ヴィクトリア、君も元気そうでなにより。この学園での生活も、君と一緒なら楽しくなりそうだ」


 俺は精一杯の虚勢と微笑みを浮かべて応じる。


 俺の言葉に微笑むヴィクトリア。だが、彼女の表情には”してやったり”と言わんばかりの笑みがあった。これが俺に引き攣らせた笑みを浮かべさせる原因だ。だが、そんなことは周囲の誰にもわかることはない。


 俺たちの関係は従兄妹というだけでなく、共に新たな環境で学び成長する仲間としての絆を育んでいく関係にある。だが、俺の視線は目の前にまでやってきた満面の笑みを浮かべるヴィクトリアだけに留まらなかった。


「エドウィン、ようやく来たか」


 高らかな声が響き渡り、背後から近づいてきたのは同じく新入生の仲間たちだ。


 最初に現れたのは、重工業メーカーの跡取りであるアレクサンダー・アイアンサイド。力強い肩幅と堂々とした態度が、彼の家族が経営する産業に対する誇りを物語っていた。実際、彼は御曹司であるが、自分用の工房を持ち、そこで”日曜大工”と称して銃鍛冶師(ガンスミス)顔負けの職人技で拳銃を製造し護衛用に持ち歩いている。


「エドウィン、お前ともようやく仲間になれたな。期待しているぞ」


 アレクサンダーの握手は力強く、その笑顔は友情の始まりを予感させた。以前に彼の実家が主催するパーティーで顔合わせして以来だが、そのときから妙になれなれしくて対応に困ったものだ。


 次に、職業軍人としての道を歩むことになったリリー・ストライドウェル。彼女はしっかりとした眉間に決意を宿し、エドウィンに向けて敬意を込めた視線を送ってきた。


「アシュモア伯爵公子閣下、リリー・ストライドウェルでございます。どうぞよろしくお願いいたします」


 職業軍人の家系でもあり、上下関係にうるさいのだろう。立場をわきまえた口調で挨拶する彼女に、俺は礼儀正しく微笑みを返し頷く。


 続いて登場したのは、貴族出身のオリヴァー・ウィンザービル。彼の血筋は新旧貴族をつなぐ橋渡しのような存在であり、物腰の柔らかさと気品が彼の立ち居振る舞いを彩っていた。


「ウィンザービル伯爵公子閣下、お会いできて光栄です」


 最後に、高級官僚の家系からの出身であるエレノア・スティール。彼女が、オリヴァーに挨拶をしている姿はとても印象深く思えた。しっかりとした知的な眼差しと、まとめ役のような風格が彼女を主役たちの中でも際立たせていたからだ。


「アシュモア伯爵公子閣下、これからよろしくお願いいたします」


 こちらの視線に気づいたのか、オリヴァーに会釈をしてからエレノアは俺に声をかけてくる。彼女の表情は穏やかで、彼女が率いることになるであろうクラスメイトたちとの調和を感じさせた。


 彼女の挨拶を最後にホームルームの時間となったため他の旧友たちとの挨拶を交わす時間はなくなった。だが、新たな仲間たちとの出会い。士官学校での新しい生活が、まさにこの瞬間から始まったことを実感するには十分であった様に思える。

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