厳しい野戦実習-3-
俺たちが北に進む一方で、南西に向かって流れる小川に架かる橋に第2分隊がようやく到着した。この分隊はオリヴァーがフェリクス、エレノアの2人を指揮している。
「フェリクス、エレノア、この小川を渡る前に橋の下を確認してくれ。安全かどうか見極めないとな」
オリヴァーは慎重に周囲を偵察して第1分隊がここに居ないことを把握してから橋を渡る算段をしていたのだが、第1分隊が居ないなら居ないでいくつかの不安を感じていたのだ。
「了解しました。行くぞ、エレノア」
フェリクスとエレノアは小川のほとりに近づき、静かに橋の下を覗きこんだ。オリヴァーが危惧していたのは第1分隊に軍人家系のリリーとアイザックが固まって配置されていたことだった。彼らなら橋に何らかの工作を行う可能性があったからだ。
特にアイザックはリリーと違って生粋の軍人家系というわけでもない。小細工をするとしたらアイザックだろうと予測していたのだ。まして木製の橋であることがわかってからはその警戒感がより強まったと言える。
「特に異常は見当たりませんね。でも、気を引き締めておきましょう」
エレノアもオリヴァーと同様に第1分隊を最も警戒していた。彼女の場合、オリヴァーと違い、アイザックが自身の特技の一端を垣間見ていたことから、彼が最も警戒しているのは自分ではないかという判断をしていたからだ。特にアイザックの提案はエレノアに天啓をもたらした部分もあり、同時にフェリクスやアレクサンダーとは違い具体的に応用する方法を提示していた。それもエレノアがアイザックを警戒している理由であった。
あのときに一緒に居たフェリクスは見方として第2分隊に属しているから問題ないとしても、アレクサンダーは第3分隊としてこれもまた敵部隊に属している。しかし、彼の場合は問題ないだろう。何しろ、お嬢様二人のお守りをしないといけないだろうから、彼個人なら兎も角、今は脅威にならないと考えていたのだ。
「二人とも考え過ぎじゃないかな。エドウィンたちはそこまで陰険なことしてまで妨害しないと思うよ?」
フェリクスは二人の反応過敏なところに級友としての感情でそう言ったが、二人の反応は違った。
「今は戦場なんだ」
「油断したら私は真っ先にやられてしまうんです」
「ああ、そう」
それぞれの思惑が違っているのに警戒感だけは合致している奇妙な連携力にフェリクスは呆れを感じていたが、慎重であることは時に蛮勇であることより重視される特質でもある。特に今みたいに誰か一人でも欠けたらその時点で即敗北となりうる状況ならば、自分の生存確率を上げることにつながるとも感じていた。
「僕は君たちの判断に従うよ。最後に笑うのが僕たちであることを願っている。さぁ、指示をくれないか、オリヴァー隊長、エレノア参謀」
安全を確認した橋の上を進む第2分隊。同時に、北に進む第1分隊も様子をうかがいながら進んでいた。この小川が物語の中で何らかの意味を持つのかもしれない。
◇◆◇
一方で、北西からスタートした第3分隊では、ヴィクトリアが指揮をとり、アレクサンダーとセリーナが彼女の周りに控えている。
「あまり気が進みませんが沼地を天然の障害として活用しつつ、西へ進みます。アレクサンダー、セリーナ、横に広がる森に注意。第2分隊が進行してくるであろうルートは森林地帯でしょうからね」
「分かりました、ヴィクトリアさん。沼地は行軍速度が遅くなりますが、鉢合わせにならないでしょう。けれど気を抜かず進みましょう。こういう場所は危険がいっぱいですからね」
セリーナはヴィクトリアの指示に従い、ルート算定を急いだ。彼女は自身の領地で幾度か狩猟に出掛けていた。そうした経験から、行動しやすいルートや害獣などとの遭遇の可能性が低いルートをある程度理解していた。
こういった事情からヴィクトリアはセリーナを参謀役として扱うことにしたのだ。尤も貴族令嬢である二人にとって単独での斥候などは荷が勝ちすぎる点もあったことから、その役割をアレクサンダーが積極的に担っている。
セリーナの指示でアレクサンダーが行軍ルートを啓開していくことで、低下している進軍速度をカバーするという方針は戦力的な偏りがある第3分隊にとっては適切な判断であると言えるだろう。
第3分隊はセリーナとアレクサンダーのコンビが周囲の地形に注意を払いつつ、第2分隊を迂回するように進んでいく。彼らの連携とリーダーシップの重要性がここでも浮き彫りにしていた。




