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厳しい野戦実習-2-

「アシュモア卿」


 監視哨の方向への道筋を把握するために丘周辺の偵察から戻ってきたリリーが硬い表情をして声をかけてきた。


「監視哨方向に塹壕がいくつか構築されているのが見えたわ。どうやら東部地区は私たち第1分隊を誘導するための罠っぽい感じがするの。あなたはどう感じますか?」


「この塹壕を突破するのは難しいと思うかい?」


「そこまで堅固な様子ではないですけれど、避けた方が良いとは私個人としては考えていますわ」


 俺は不足する東部地区の情報や塹壕の意味について考え込み、同時に、アイザックが橋の確認を終えて元の場所に戻ってくるのを待っていた。いずれにしても判断材料が多くなくては安易に行動は出来ない。


 暫くすると斥候から戻ったアイザックが斜面から顔を出した。


「エドウィン、アイザックだ。今戻った。橋の状況は確認出来た」


「了解、アイザック。帰ってきて早々悪いけれど、君の報告と考えを聞きたい」


「橋は渡れるが、そこで待ち伏せている可能性も考えられる。特に俺が戻ってきている間に第2分隊がこのあたりに陣取っても不思議はない」


 アイザックは地図に陣地となりうる場所をいくつか書き込んだ。


「では、北東に進んで監視哨を確保するために塹壕を突破するのかしら?」


「リリー、それは少し早計だ。敵が第2分隊と第3分隊だけなら問題がないが・・・・・・クソッ・・・・・・どちらにしても情報が足りないか」


 アイザックはリリーに反論するが、結局は情報が足りないことで否定も出来ない状況に悪態をつくしかない。


「そうだな、でもここを通らないと、他の分隊に差をつけられるかもしれない。リリー、君は今の時点ではどう考えている?」


「監視哨の周りの塹壕を確認するべきだと思うわ。監視哨を手に入れることが出来れば格段に情報の精度が改善出来るわけだから、第四勢力が存在すると仮定して慎重に近づくのであれば、橋を渡るよりはリスクが引くと思うわ」


「俺もリリーに賛成する。というか、そうするしか手がない。もう少し、そうだな、あと2人居れば別働隊を作って陽動や索敵とかを積極的に出来るのだけれどな」


 俺はリリーとアイザックのアドバイスから次の行動の指示を出した。彼らはお互いを信頼して助け合ってくれるに違いない。だったら、彼らの言葉と経験を信じるのが俺のするべきことだろう。


「了解した。リリー、アイザック、我々は塹壕を確認するために北へ進む。鬼が出るか蛇が出るか、わからないが、俺たちは他の分隊とはひと味違った冒険が味わえるぞ」


「アシュモア卿と一緒ならそういった出来事も楽しめそうですわね」


 リリーは楽しそうに笑みを浮かべてそう言ってくる。時折彼女は無邪気な笑みを浮かべ、それを俺にだけ向けているように錯覚するときがある。今もそうだ。だが、今はそんなことに気をとられているわけにはいかない。


 俺たちは陣取っていた小高い丘から北へ進軍を開始した。リリーが先行し、俺が真ん中、アイザックが最後方で周囲を警戒しつつ歩みを進める。


 時折高所を見つけるとアイザックが後方、そして第2分隊が進軍してくるであろう橋の方向を注視して少しでも最新の情報をフィードバックしてくる。


「エドウィン、橋の方は特に異状はない。第2分隊はどうやら予想より進軍速度を上げていないようだ。こっちとの鉢合わせを警戒しているのだろう。こっちが東部地区を抜けて中央地区に進むことが出来れば、連中を出し抜けるぞ」


 アイザックの状況把握によって後方の安全が現状確保出来ていることから、俺とリリーは前方にだけ注意を向ければ良い。リリーは既に塹壕手前の茂みに潜んで様子をうかがっている。俺はリリーの後方の安全確保のために少し離れた岩の上でうつ伏せになって小銃を構えている。いつでも、彼女の背後を狙う存在を撃退出来る位置取りだ。


「アシュモア卿、塹壕は意外にも無人みたいですわ。ただし、見張りがいるかもしれないから油断は出来ない。塹壕側からは死角になっている場所を見つけたからアイザックと合流次第、そこから突入するべきと私は思うのだけれど、どうかしら」


「了解。アイザックが追いついたようだ。合流して、死角に忍び込むとしよう」


 頷くリリーは再び茂みに潜み、アイザックが合流するのを待った。アイザックはリリーと合流すると北に広がる塹壕を自分の目で丹念に観察し、その構造や敵の気配がないことを確かめていた。3人しか居ない分隊だけに思い込みで行動するのは危険だと彼は思っているのだろう。


「塹壕には誰もいないようだ。これで北は安全だ。リリーを信じていないわけではないのだが、見落としで仲間を失うわけにはいかないからな。慎重に行動させて欲しい」


「いえ、あなたがそうやってくれることで私たちが生き残れるなら、反発なんてしないわ。これで、安心して死角から強襲出来そうね」


「ああ、エドウィンに合図を送るぞ、いいか」


 リリーはアイザックに頷くと俺に手旗信号を赤2回振って寄越した。


「今行くぞ」


 岩から飛び降りて彼らに合流するべく走り出した俺は彼らに聞こえないだろうが力強く言い放った。


 彼らの連携した行動により、俺たちは予想外の障害を乗り越え、次なる目標へと進むことが出来た。士官学校の訓練は、単なる体力向上だけでなく、リーダーシップや連携の大切さを彼らに教えていたのだ。


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