表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/49

分隊結成

 士官学校の教室棟は普段通りの賑わいで充満していた。士官候補生たちは様々な雑談や授業についての質問で話題に花を咲かせている。それは人数の少ない俺たちのクラスでも同じだ。


「おい、今週末の実習ってどこ行くんだろうな?」


「ああ、まだ発表されていないからな。どうせまた戦術論教官(戦場観光客)が古戦場へフィールドワークとか企んでるんだろう。先週だけで2回、今週はまだ1回だからな」


 俺はアイザックと他愛もない会話を楽しんでいた。そんな中、校内放送が鳴り響いた。


『エドウィン・アシュモア、オリヴァー・ウィンザービル、ヴィクトリア・エリスの三名は直ちに学長室に出頭せよ。繰り返す。エドウィン・アシュモア、オリヴァー・ウィンザービル、ヴィクトリア・エリスの三名は直ちに学長室に出頭せよ』


 俺たち三人は驚きながらも、顔を見合わせるが、ここは軍の士官学校だ。兵は拙速を尊ぶという。実際、件の戦術論教官(戦場観光客)が講義中やフィールドワークで何度も口にしている。取る物も取り敢えず教室を後にする。


 学長室の扉を開けると、学長の座る机の前には地図や文書が散らばっていた。学長は厳かな表情で俺たちを見据えていた。


「エドウィン、オリヴァー、ヴィクトリア。よく来た。皆、座ってくれ。話がある」


 学長は俺たちに着席を促す。


「君たちに大事な任務がある。先週、帝国軍の上層部からの通達があった。野戦演習を行うことになったのだ」


 学長が重要な情報を明かし、俺たちの表情が固まった。野戦演習は野外実習の延長であるとは言え、わざわざ学長が俺たちだけを呼び出して伝えているのだ、余程のことであろう。隣のオリヴァーは突然のことには驚きが隠せていない。


「その野戦演習において、私は諸君に特別な指示を与えることになる。君たち三人はそれぞれ分隊を編制し、野戦演習に臨むんでもらう」


「俺たちが分隊を?」


 オリヴァーが驚きを抱えた表情で言葉を漏らす。


 学長は微笑みかけながら続けた。


「そうだ。君たちがそれぞれ指揮官として、部隊をまとめ上げるのだ」


「しかし、そんな経験など今の私たちには・・・・・・」


 ヴィクトリアが心配そうな表情で口にした。


「君たちには現時点においてそれが求められている。君たちはこれからの帝国を担う若者たちだ。自分たちの部隊を指揮し、連携をとることは、戦場での経験となり、大いなる学びとなるだろう。遅かれ早かれ経験するのだから、良い機会だと思って存分に腕を振るうと良いだろう」


 学長の言葉は期待を賭けると同時に義務を果たせと要求しているようであった。


「さて、ここからが本題だ。君たちには、各分隊に所属する仲間と一体となって演習に臨んで欲しい。分隊編成は今日中に行う。仲間たちを上手く使いこなすと同時に彼らの信頼を勝ち取ることを期待する」


 学長の言葉に、俺たちの心が揺れる。俺たち三人が自分で仲間を選べるなら、どんなチームになるだろうか。しかし、学長の意図は彼らしい考え抜かれたもので、そうは甘くはないぞとその目は語っていた。


「そうだ、言い忘れていたが、この演習には帝国軍の将官たちが視察に来る。将来の指導者たちが示す成果がどれだけのものか、彼らは注目している。無論、その結果がもたらすことが相応の影響を与えることは言うまでもない。頑張りたまえ」


 学長の言葉に、自分たちの肩にかかる重圧を感じた。しかし、同時に、これが帝国軍の信頼を勝ち取るチャンスでもあることを理解していた。


 学長が言い終わると、俺たちは教室に戻るべく学長室を後にした。


「まさか、こんなことになるとは思わなかったな」


 教室に戻る道中、オリヴァーがこぼすように呟くと、俺とヴィクトリアも同じ気持ちで頷くしかなかった。


 再び教室棟に戻り、賑やかな雰囲気が戻ってきた。だが、今はこれからの分隊編成に向けて、重要な選択をしなければならない。今回の選択が、将来の戦場での信頼と絆を築くきっかけになることは間違いないだろう。


 覚悟を決めると俺たちは分隊編成に向けて動き出すことになった。


 オリヴァー、ヴィクトリア、そして俺の三人は指揮官として選ばれ、それぞれの分隊をまとめることになった。だが、学長は一つ条件をつけていた。部下は自分たちで選ぶのではなく、残りのクラスメイトが自由意思で各分隊に加わることになっていたのだ。これが、俺たちの試練の始まりだった。


 分隊編成のために、俺たちは教室で待っていたクラスメイトを集める。リリー、アイザック、フェリクス、エレノア、アレクサンダー、セリーナ、それぞれが自分の意思でどの分隊に所属するかを決める瞬間だ。


「皆、聞いて欲しい。学長から野戦演習が行われるという話を聞いてきた。そして、俺、オリヴァー、ヴィクトリアの三人が指揮官として各分隊を率いることになった」


 俺はそう言うとオリヴァーへ視線をやって後を続けさせる。


「各分隊は指揮官と合わせて3名構成だ。よって、俺たちは二人の部下を持つことになる。そして、それは俺たちが指名することは認められなかった。よって、自由意志で各分隊長の下に集って欲しい」


 オリヴァーの言葉に皆が驚きの声を上げるが、真っ先に行動を開始したのは意外にもリリーだった。


「アシュモア卿、私はあなたと共に一緒に戦えることを楽しみにしていますわ。無論、あなたを見事サポートしてご覧に入れます」


 微笑みながら彼女は当然と言わんばかりに俺の横に立つ。その瞬間、どこかから視線を感じたが気のせいだろう。そして、彼女はアイザックに視線を向けた。


「アイザック、あなたはどうしますか? 先日の訓練でもアシュモア卿と組んでいたけれど、今回はどうするのかしら?」


「リリーはエドウィンと組むのか、なら、俺もエドウィンと轡を並べるとしようか。その方が楽しそうだ」


 アイザックは腕をぶんぶんと振り回しながらアピールしている。俺と彼のコンビネーションはこれまでの訓練で上々の結果を出してきただけに、それを戦場でも発揮できるなら頼もしいことこの上ない。


 フェリクスとエレノアはオリヴァーの元に参じるようだ。


「オリヴァー、君の理論的なアプローチがあれば、エレノアの発想力という武器、そして僕の計算や分析力による裏付けのある作戦を考案できるだろう。期待してくれ」


 フェリクスは自信満々の表情で嘯く。オリヴァーは満足げに微笑んでいる。フェリクスが言うように、彼らの分隊はこれでこれで他の分隊にない強みを持っている。彼の分隊も侮れるものではない。


 最後に、ヴィクトリアの元にはアレクサンダーとセリーナが集まった。


「お互いを信頼し合い、協力して戦いましょう。私たちは他の分隊とは違い、前に見える戦力としては最弱かも知れない。けれど各自の得意分野を最大限に活かすことで逆転できると信じているわ」


 ヴィクトリアの言葉にアレクサンダーとセリーナも頷き、やる気に満ちた表情を見せている。ヴィクトリアの言葉ではないが、目に見えない何かが彼女たちにはあり、足下を掬われないように気を引き締めなくてはならないと心に刻んだ。


 これで各分隊の編成が整った。学長の指示に従い、これからの野戦演習に備えていく。そして、この経験が俺たちの絆を深め、未来の戦いに備える力になることを期待していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ