上下峠
チリン チリン
風鈴の鳴き声が響く。8月初旬の昼。俺は居間でうちわを扇ぎながらただただだらけていた。
玄関から電話が鳴り響いている。
ー誰からだろう
ここ最近、家族は昼はどこかへ行ってる。なので電話を取れるのは俺しかいない。
「はい、もしもし 川上です」
「ハル! 久しぶり!」
電話越しで大きな声を出すこいつは一瀬 大稀。同じ高校に通っている友達だ。いつも明るくクラスの中心によくいることが多い。春っていうのは俺、川上 春樹のことだ。家族とか親しい人にはよく春と言われる。
「大稀か どうした?」
「今からいつもの場所 来れる?」
ー何か企んでるのか?
大稀は突拍子もないことを言うことがたまにある。夏休みだから浮かれてるのかな。
「行けるよ」
「よし なら、2時くらいに集合な!」
「は〜い」
電話が切れる。時計を確認すると1時を回る前だ。
「30分後に出るか」
俺は自室に簡単に準備をしに歩いた。自室は階段を登った先の手前の部屋だ。奥は兄弟の部屋。
準備がすめば後は時間が来るのを待つだけ。
・ ・ ・
公園の端にある一本の木の下。そこがよく集合場所にする場所だ。
「ハル〜 きたぞ〜」
「久しぶり! で、どしたの?」
大稀は、ふっふっふと笑う。
「肝試しをしよう」
低い声で大稀はそう言った。
「どこ行くの?」
「あれ!? 怖がったりしないの!?」
「夏に肝試しって定番でしょ」
大稀は不満を隠そうともせずブーブー言ってる。
「まぁいい ちなみに後2人呼んだから」
「誰呼んだの?」
「リトとシン」
「りょーかい」
リト、本名は石居 唯璃堵と言い、友達内でリトと言われている。ゲームの種族が由来だったと思う。ゲーム好きでゲームの話でよく盛り上がってる。
シン、本名荒神 刀真《とうま》は、、、
優等生だ。そして頭がいい。ただし勉強嫌いでろくにしてないそうだ。羨ましい限りだ。
「早いね2人とも」
先に来たのはシンだった。それに大稀が答える。
「そう?」
シンはまだ5分前だよ?と笑いながら言う。
「後はリトだね」
「「だね〜」」
「なに声合わせてるの?」
「あ! 来た!!」
大稀が答えた。
「久しぶり」
「リト、来たし肝試しについて聞いていい。」
シンが大稀に聞く。
ーそういえば俺たち何も聞かされてなかったな...
「そういえば説明してなかったね」
そこから大稀が話し始めた。ことの発端は大稀の叔父にあった時に肝試しをしたいと言ったところ、ある場所をお勧めされたそうだ。
リトが大稀に聞く。
「それってどこ?」
「秘密〜 ついてからのお楽しみ〜」
「今から行くの?」
聞いてみる。流石に夜になるなら親に伝えないと。
「大丈夫だよ! ハルが心配してるほど遠くに行かないから! 夕方には帰れるよ」
「そう? ならいいか」
「それじゃ出発しよう! 僕に着いてきて!」
・ ・ ・
「とうちゃーく」
「ここって自殺スポットの?」
「そう! *峠!」
シンが後ろで息を上げながら愚痴を言ってくる。
「なんで2人は平気そうなの!?」
同じく息をあげてるリトも文句を言ってくる。
「ハルはこっち側じゃないの!?」
「2人とも、、 俺も運動ぐらいするよ 2人も体動かした方がいいよ」
「「うぐっ」」
大稀が笑う。
「いわれてやんのw」
「「お前は勉強しろ!!!」」
リトとシンの声が揃う。
「大稀 ここの曰くとかある?」
「無視する...」
「えーとね」
シンを遮って大稀が答える。
「自殺した人の霊が出るって噂がある 燃えた車が走って来るとか、人が落ちていくところを見たとか」
「確かにここってだいぶ高いよね」
リトに続いてシンが話す。
「ここって交通事故も多かったと思うよ それに関係ある話だとブレーキが効かなくなるって聞いたことあったよ」
「シン知ってたの!?」
大稀は驚きの声を上げる。
「まぁ... 最近、事故が起こったから その時に出た噂を調べてたしね」
「ねぇ」
大稀がつぶやいた。
「もう帰らない?」
「どうしたの?」
まだ日はそこそこ高い。
「いや〜 寒気がするって言うか?」
「なんで疑問形?」
「ハル いいんじゃない? もうすることもないし」
リトがそう言う。シンも。
「確かに、肝試しをするためにきたけどそこまで怖くなかったし」
そして俺たちは帰路についた。
・ ・ ・
家のついた頃には日は傾き空を真っ赤に染め上げていた。俺は自分の部屋で寝そべっていた。
たたたたた
階段から急いで登る音が聞こえてきた。兄貴帰ってきたのかな?
「兄貴ー うるさい!」
返事は返ってこない。
たたたたた
また音が聞こえてきた。同じように登って来る音が。
俺は少し怖くなったが、扉を開け階段を見た。何もいない。人陰一つない、夕焼けで赤くなった、階段だった。
俺は大稀に電話をかけていた。怖くなったから。
「はい 一瀬です」
「大稀... そっちって何か変なのこと起こってない?」
「ハルか! 変なことってなに?」
大稀は訝しむように問い返した。
「足音聞こえるとか?」
「足音? 特にな...」
大稀の声が途中で途切れる。
「大稀? どうしたの?」
「ハルの方は足音が聞こえたの?」
「うん」
肯定する。
「そっか なら、そっちには下半身がいったのかも」
「下半身?」
その意味が俺にはわからなかった。
「うん」
大稀のこえは、息をころすかのように低くなっている。
「だって」
俺はそれがなんなのか分かったような気がした。でも、否定したい自分がいたからか、それが違うことを望む。
「今」
「玄関先に...」
「上半身だけの人がこっち見てる」
この度、「上下峠」を見ていただきありがとうございます。
この話は自分が人から聞いた話でお盆に思い出したので作品にしてみようと思って書いてみました。
後日談や裏話を別で書こうと思うので良ければそちらもご覧ください。