第一章-4
「じゃあ、行ってくる」
僕は、車から降りて山の中を真っ直ぐ進む。
辺りは真っ暗だ。
灯りは、唯一この手に持っている懐中電灯だけ。
サーッと強い風が吹く。
いつもより寒く感じる。
先にすすむ度に風が冷たく感じるのは気のせいだろうか。
風は冷たく感じるのに、僕の心はとても暖かい。
それは、きっと。
〝きみ〟のせいだね。
〝きみ〟のことを思い出すと、こんなにも心が満たされる。
しばらく真っ直ぐ歩いていると、木の枝や落ち葉で足の踏み場がない今にも壊れそうな祠に着いた。
これか?
僕は、祠を綺麗にしてから〝きみ〟が好きだったチョコレートをお供えして、両手を合わせて願う。
「神さま、僕は10年前に戻りたいです。
会いたい人がいます。....やり直したいんだ...
どうか...どうかお願いします...!」
しばらく目を瞑り、動きもせずにじっと待ってみる。
けれど、特に何も変化が起きず...
目を開け、周りを見渡しても、先ほど変わらない景色だった。
やっぱり、何もない...か。
そう...だよな。
僕は祠に「ありがとう」と呟いてから立ち上がり、遊馬たちが待っている場所に向かい足を動かそうとした。
その瞬間、霞んだように視界が見えなくなり、グラリと身体が横になるのがわかった。
あれ?
僕、なんで倒れてる...?
立ち上がろうとしているのに、体が全く言うことを聞かない。
まるで、誰かに操られているような感覚。
僕は、そのまま意識を失った――。
ただ、意識を失う前、〝きみ〟が僕の前で笑っていたような...
そんな気がした。