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僕がもう一度、きみの名前を呼んだら  作者: あびくらむげ
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第一章-1



「今日も、来たよ。」



僕の目の前には、大きくとても綺麗な墓石。

ここに〝彼女〟はずっと、眠っているー。



僕は、〝彼女〟の好きな花とチョコレートを一緒にお供えし、いつものように両手を合わせて話しかける。



「〝きみ〟がいなくなってから、10年がたった。

僕は、ずっと後悔している。

もし、あの時...〝きみ〟と一緒に帰っていたら...って。」



でも、

それだけじゃない。


本当は、〝きみ〟に。



「伝えたかったんだ」



――そう。

〝きみ〟に伝えたかったことがあるんだ。


僕の本当の気持ちを。

〝きみ〟のあの時の問いの答えをー。



僕は、〝きみ〟にもう一度会いたい。



もう一度、〝きみ〟に――。



「じゃあ、また来るよ。

今度は、みんなと一緒にくるから」



そう言って、その場を立ってから、職場に向かった。






職場に着いたのは、お昼過ぎだった。



「遅れてしまい、すみませんでした。」



職員室の扉を開けて、頭を深く下げる。



「こらあ!毎月毎月この日になると遅刻しおって!

もう少し教師としての自覚を持つべきじゃ!」



ぶつぶつと一人で怒っているスキンヘッドが特徴の教頭先生。



「まあまあ、毎月ちゃんと申請は出してもらっているじゃないですか。

教頭先生も落ち着いてください。」



柔らかい声色でニコニコと笑いながら、僕を庇いながら教頭先生に言った校長先生。



僕、吉塚樹(よしづか いつき)

27歳の独身で、2年前から母校で教師をしている。

担当教科は、数学。



僕は、再度軽く頭を下げてから自席に向かった。



「あいつのところ行ってたのか?」



隣の席の黒髪が全く似合わない同僚が僕に問うた。



「うん、今日だからね。」



彼の名前は、島田遊馬(シマダ ユウマ)

僕とは同級生で、既婚者。ちなみに奥さんも高校からの腐れ縁。

担当教科は、社会。



遊馬とは、高校からの腐れ縁。

就職先が重なったのは、たまたまだった。


本人には絶対に言わないが、傍にいてくれるのは心強かったりする。



「僕らは、仕事が終わったら行く予定」



「そっか、きっと待ってると思う」



「ああ。あっ!そう言えば今度、朱音が家にこいって言ってたぞ」



「げっ、」



「お前と話したいんだと」



「...いや、遠慮しておくよ」



「ははっ」



朱音というのは、遊馬の奥さんの名前。

本名、島田朱音(シマダ アカネ)

旧姓は、佐藤朱音(サトウ アカネ)


遊馬と朱音は高校の時から付き合って、3年前に結婚した。

朱音は、今は一児の母で、専業主婦をしている。


たまに朱音の家に行くけれど、話すことは、結婚しろだの、彼女作れだの、そんなことばかり。



僕は、結婚する気も彼女を作る気もない。

だって、面倒じゃないか。


彼女のために、自分の時間を削るなんて...。

でも....

〝きみ〟なら。


〝きみ〟になら、自分の時間を削ってでも会いたいと思う。



「僕は、今日の日付を見る度に思い出すよ...」



小さく小さく呟いた僕の声は、遊馬に届いていたみたいで。



「あれは、お前のせいじゃない。

事故だったんだよ」



と、太い声で言い切った。



「わかってる、ちゃんとわかってるさ。

事故なんだってことも。

それでも、あの時...って考えるんだ...」



そう言いながら、机の端に置いてある古びた小さい箱を手にとる。



古びた小さい箱、それは。

音も出ないし、たくさんの傷が所々にある。

今となっては、ただ飾ることだけしかできないオルゴール――。



これは、〝きみ〟が唯一僕にくれたもの。



「樹...」



「もう一度、会いたいと願うんだよ...」



〝きみ〟が亡くなってからの10年間。

僕は、〝きみ〟に会いたくて仕方ないんだ。


〝きみ〟がいるはずなんてないのに、目で探して。

〝きみ〟に似ている声を聞くと、その人に声をかけて。

〝きみ〟との数々の思い出を思い出しながら、オルゴールを撫でる。



「僕にとって、憧れだったんだよ...」



〝きみ〟はみんなから好かれていて、人望もあって、〝きみ〟が笑うだけで、周りも笑顔になる。



〝きみ〟が僕にしつこいくらい話しかけてくれたから、こうして遊馬や朱音と今もこうして繋がっていられる。



〝きみ〟に出会っていなければ、僕は誰とも関わらず、小さな世界で生きていただろう。



「10年前に戻りたい、やり直したい...」



これが僕の今の気持ち。

〝きみ〟がいる未来を僕が作りたい。



――今度こそ、〝きみ〟を守りたい。




「樹」



「ん?」



「3年生たちが話していた話なんだけどな」



「それが、どうかした?」



「過去に戻れる神社が、あるんだと」



過去に、戻れる...?



「本当か?」



もし、本当ならば。

僕は....



「誰も経験はしたことないそうだ。

本当に心残りがあるものだけを導く神社らしい」



例え誰も経験したことがなかったとしても。



「....行くしかないだろ」



それ以外の答えは、ない。



「樹なら、そう言うと思った」



僕の答えに、ニヤリと口角をあげた遊馬。



「今からでも行きたいくらいだよ」



「それは辞めてくれ。

仕事してからにしてくれよ」



苦笑いをしながら、困った様に言った。



「冗談だよ」



「冗談に聞こえねーよ」



....確かに。

僕が冗談を言うことはあまりない。


半分くらいは本心が入ってたりする。

でも、高校生の時みたいに感情優先で動くことは、今となっては許されない。


やることをやらなければ、クビにされてしまうだろう。



「今日の仕事が終わったら行ってみるよ。

あっ、遊馬が連れて行ってくれてもいいんだぞ?」



クスクスと笑いながら遊馬を困らせてみる樹。



「....いいよ。

朱音が車で迎えに来てくれる予定だからさ」



.....朱音もいるのか。

まあ、いいか。



「じゃあ、よろしくな」



遊馬と軽くハイタッチをしてから、各自仕事を始めた。



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