住所、六本木7−7−7に存在する場所。
[でも]や[まだ]には吉報も訃報も兼ねた言葉で未だに聞くとドキっとします。上手に使えるようになりたいなと思います。
「元祖うにつけ麺?」
「こんなん絶対かーくん好きですやん。」
坂道を登り抜け、大通りを東京ミッドタウン方面へ向かうとメルセデスベンツのハス向かいにラーメン屋がある。
そこは知る人ぞ知るメンバーが立ち寄るとされているラーメン店であった。その名もまる彦。
『東京食品 まる彦』
1998年5月にオープンした老舗ラーメン店。自家製味噌だれと北海道産100%味噌を店主自ら独自ブレンドした味噌ラーメンが名物。元々サラリーマンやOLの方に愛されていたが、後に2016年の3月にTBSのミニ番組「メトログ」にてメンバーの衛藤美彩さんが紹介した事により聖地化し、人気が加速する。現在では、夏に乃木坂46の神宮球場でのライブがある際ファンで長蛇の列が出来るのが風物詩になっている。
「んまぁ、やっぱうにつけ麺ですね。よーちゃんは?」
「んー。…んっんー。」
基本昼食は選択肢が少ないラーメンがもっぱらだ。
元来優柔不断な性格で初めて行くお店で商品を選ぶのが苦手である。
色とりどりな食べ物を見ていると途中で何が食べたいのかわからなくなる。
なので、ビュッフェのような様々な選択肢と色とりどりの食が並ぶと食欲がなくなる。
その点ラーメンは素敵だ。一品で簡潔する。
だが、そんなラーメンでもメニューが多いと悩む。
味噌ラーメン一択のつもりだったが九条ネギラーメンに惹かれている。
違いがわかりもしないのに「九条」が付くだけで美味そうに思えてしまう。言葉の魅力ってのは恐ろしい。
「まぁ、間違いないのは味噌ラーメンだよね。たぶん萩原さんは九条ネギで悩まれてると思うけど。」
笑いながら見透かしたようにかーくんが告げた。
人によっては待たせてしまうのが申し訳ないので同じものを頼むようにしているが、かーくんは嫌な顔せず待ってくれてさらに楽しみながら提案もしてくれたりするので焦らず決められる。
こんな何気無い言葉が嬉しかったり、自分らしくいれたりする。
悩んだ挙句、かーくんの助言もあり今日の昼飯を味噌ラーメンに決めた。
「優しい味や。ホッとする。味噌にして良かったわ。うにつけ麺どうよ?」
「これはですね、もはやうにですね。俺結構好きよ。」
ズズズーっと豪快にラーメンを聖地にてラーメンを食す。
「んで、ようちゃんの言ってた夜勤で探しあてた場所ってどこよ?」
「へっへっへ。気になられてますねぇ。」
「そら六本木の7−7−7の住所なんて気になるでしょ。縁起もいいし、偶然にも程があるってゆうかね。」
「まぁまぁ、任せんしゃい。我々にはGoogleマップ先生がついていますから。」
前日の夜勤の休憩中に仮眠室で乃木坂周辺を調べていた。
乃木坂会議の時には仮でピラミデビルに決定していたが何かが引っかかっていた。
都市伝説好きとして666が示す場所にあるピラミッドみたいな名前のビルだなんてご褒美みたいなもんだ。
ピラミデビルを携帯で調べてみると複合ビルでアートギャラリーが入っていてアートスポットなんて呼ばれたりしている。レストランも入っており、間違いなく楽しいと予想される。元々ダリやピカソ、シャガールも好きだし現代美術も大好きだ。
でも、何か違う。
今回はそんな哲学的な物ではなく、なんとなく冒険めいたものが欲しかった。そこから広がるような何かを欲していた。そもそも、あのかーくんが美術に興味を持つ訳が無い。
そんな事を考えながらスマホを何度もスクロールしては戻すを繰り返してため息をつく。
「まぁ、ピラミデビルでいっか。」
何度も調べるも答えが出なかったので諦めた。
その日は幸い自分の休憩中ナースコールも落ちいついていて静かな夜だった。
それでも何が起きるかわからないのが夜勤である。休める時に休むのが鉄則。仮眠する事を決め、その前にトイレに行こうと思いナースステーションに向かった。
「お疲れです。ちょっとトイレ入りますね。」
その日のバディに声をかけ、トイレに入る事を伝えた時だった。ふとナースステーションの病床の部屋番号の6と7が目に入った。
「あれ?住所に666があるって事は777もあるんじゃない?あれ?これ見つけちゃったんじゃない?」
はやる気持ちを抑えトイレを済ませ仮眠室に戻り、即座に携帯に先ほど思いついた住所を打ち込む。
「六本木7−7ー7っと。…出たよ。本当に見つけちゃったよ。」
読みが当たった。半分まさかなと思っていたが実在していた。
見つけて程なくして遠くから祝福のようにナースコールが鳴った。
携帯を胸に置き、目を瞑りながら少し上を向いてお祈りのような姿勢をとった。
「ありがとう、自分の閃き。」
そんな事を呟き、自分に感謝した。
運命に導かれたような大袈裟な気持ちになり、上階で夜勤をしているかーくんに即座に予定変更の連絡をした。
2人はラーメンを食べ終え再び歩き出していた。
まる彦から向かいの歩道に移り龍土町美術館通りの最初の曲がり角を左に曲がる。
「いやぁ、楽しみっすよ。関とかも都市伝説とかで言ってなかったんでしょ?」
「見つけた時は我ながら天才かと思いましたよ。」
「さすがようちゃんだよ。俺じゃ見つけられなかったね。」
かーくんは笑いながら讃えてくれた。
聖地巡りを終え、次は知り得ない場所へと行く。
自分が探したり提案した場所を誰かと行くのが楽しい。もちろん1人でだって行けるが、一緒に楽しんでくれる人がいるとさらに楽しくなる。
そんな当たり前な事を教えてくれたのはかーくんに出会ってからだ。
たぶんなんでも良かったんだと思う。
元々1人の時間が好きだった。今でも1人の時間がなくなると窮屈に感じる時がある。
でも、ある時1人でいる事に強烈な寂しさを覚えた。
年齢を重ねるごとに同世代をはじめ、周囲に変化がある。
朝まで遊んだ友人は、家族の時間を優先するようになった。
突然の誘いにも答えてくれた友人は仕事のスケジュールがあり、一か月前に予定を伝えないと会えなくなった。
上京して近くに住んでいた友人は北海道へ戻り、久しぶりにメールを送ったらアドレスが変わっていて連絡が取れなくなっていた。
仕事で昇進したりする者、運命の相手と出会い結婚する者、実家へ戻り家業を継ぐ者。
各々が何者でもなかった自分の人生への枠組みを着々と作り上げアイデンティティを確立していく。
学生時代とは違う。わかっているつもりでいた。
寂しさはあるものの自分の生き方を決め、人生を歩むことへの祝福はできた。
昔と違い大人になったと理解ができた。
本当の寂しさは別の理由だった。
周囲が変化し、年齢を重ねると[まだ]とゆう言葉を付け加えられる事が増えていった。
[まだ]音楽やってるの?[まだ]結婚してないの?[まだ]あそこ住んでるの?
久しぶりに会うと自分が好きなものや時間や環境に[まだ]とゆう副詞を付けられる。
その言葉がみんなと自分の流れてる時間が違うことを突きつけられるようで距離を感じた。
卑屈になっていたのかもしれないがどこかで成長してないねと暗に言われているようだった。
きっとみんなが思うように本当に変われてなかったんだと思う。
でも、どうしていいかわからなかった。
それでもなんとかしたかった。何にもない自分を変えたかった。
なんでもいいからみんなから認められたり、自分が好きなものに共感されるような生き方をしたかった。
震災があって仕事がなくなり彼女と別れても東京近郊から離れようとしなかったのは自分の居場所がわからず、昔の思い出にしがみついていたかったからだと思う。
その時初めて自分が1人は好きだが孤独が嫌いなんだと気づいた。
それからより自分の好きなものを誤魔化す癖を覚え、「将来のために貯金はしてる。」などと中身のない言葉を常に準備するようになっていた。
そんな矢先に突然その日々から脱却させる男と出会った。
「おぉ!もしかして着きましたか?」
かーくんはにこやかに街並みに現れた木々を見上げていた。
風格のあるビルや建物が立ち並ぶ中にひっそりとその場所はある。
敷地の正面に立ち、決めポーズをして紹介した。
「お待たせしました!こちらが正真正銘住所六本木の7−7ー7にある天祖神社でーす!」
「おぉ。神々しい。」
ビルの谷間にそよ風が吹き、神社を囲む木々や葉が揺れていた。
2人は目的地、六本木7−7−7に鎮座する「天祖神社」に到着した。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
次回、プチ神社巡りします。