はじめての全国握手会とミニライブ
久しぶりに松本大洋先生の本を買いました。
やっぱり僕はこの人が好きです。
2016年4月16日、僕らは幕張メッセにいた。
理由はデートでも野球観戦でもない。
人生で初めてのアイドルの握手会に参加するためだった。
年が明け、推しの深川麻衣の卒業発表後に乃木坂46の14枚目シングルの発売が発表された。
深川麻衣改めまいまい参加の最後のシングルは自身がセンターを務める事になった。
当時の乃木坂46のまいやん(白石麻衣)となぁちゃん(西野七瀬)の人気は尋常ではなく、基本この2人のどちらかがセンターを務める傾向があった。
その為、今回のセンター発表時は衝撃だった。
だが人気と実力は勿論、何より皆んなから愛されていたまいまいのセンターに否定的な意見はなく、メンバーもファンも素敵な卒業にしようとする想いで溢れていた。
その皆様の気持ちに触発され、人生初の握手会に参加する事を決めたのがわたくし萩原である。
「噂には聞いていたけど、すげぇ人だな。」
「そもそも神宮球場埋めるぐらい人気な訳だし、そのステージに立っていた本人に直接会って話せるんだからこれぐらい集まるのも当然だよね。それにしてもようちゃんがまさか握手会に参加しようと言うとは思わなかったね。あんなに行かないって決め込んでたのに。」
僕は乃木坂46のライブを経て映像と楽曲を日々漁っていたのだが、頑として握手会には行かなかった。
乃木坂46の事は勿論好きではある。
楽曲やパフォーマンスを含めたアーティスト部分にとてつもなく感化された。
決してアイドルが好きな訳ではなく、乃木坂46が好きなのだと変な意地があった。
アイドル=握手会の定義があり、それに参加してしまったらアイドル好きの人になってしまうのではないかと恐怖があった。
さらに自分の性格上握手会に参加してしまったらどっぷり浸かってしまい、抜け出せなくなる未来が見えていた。
仮に乃木坂46の抜けられたとしても一度握手会を経験した身では他のアイドルにハマるのも容易だ。
以上の点を踏まえ今まで握手会を拒んできたのだが、推しの卒業によりあっさり解禁された。
「今まいまいに会わなかったら絶対後悔すると思うんだよね。卒業後何をするかも伝えられていないし、もう2度と会えないかもと思ったら行かなきゃならんってなったね。」
「ようちゃんはホントまいまい好きだもんな。まぁ、お陰で俺も絢音と生駒ちゃんに会えるんだけど。」
かーくんは生駒ちゃんと別であやねちゃん(鈴木絢音)も推していた。
かーくん曰く、少し根暗なところが応援し甲斐があるそうだ。
そう言いながら別のメンバーのうちわを前回のツアーで購入しているのだから恐ろしい。
『全国握手会』
通称、全握。
乃木坂46の初回仕様に封入されている全国握手会orプレゼント応募券を使用して参加するイベントである。
この券一枚を使用することで好きなメンバーと握手またはミニライブに参加出来る。
握手の場合、一枚でメンバーと3秒ほど話すことが出来る。
レーンによっては2人のメンバーと握手が出来る。
ミニライブはその時のシングルに収録された全曲をフルサイズで聴くことが出来る。
フルサイズで披露されるのは基本的にこのミニライブのみとなるのでとても貴重である。
好きなメンバーと握手がしたいけどミニライブも観たいとなった場合は2枚必要になる。
が、しかしこの当時は1枚でミニライブと握手が出来るという贅沢なものであった。
ライブ会場と握手会場は別で、握手だけを目的としたファンは握手会場へ直行し場所取りをする。
推しメンの晴れ舞台のライブを見ない選択肢は僕にはなかったのでまずはミニライブに参加した。
次々と幕張メッセに吸い込まれるように人が流れていく。
会場の入り口付近に握手券を回収するスタッフが何やら紙を渡している。
僕もスタッフの方に握手券を渡し、紙を受け取るとEと書かれている。
「Eって書いてあるけど、かーくんはなんて書いてあった?」
「俺はBだね。どうやらライブ鑑賞する場所がブロック分けされてるみたいだね。ほら。」
そう言ってかーくんは会場内に設置されたブロック分けの地図を指差した。
その地図で確認すると僕は中央付近のブロックでかーくんは前列中央と特等席だった。
遠藤さん、まさかの神引きである。
とりあえず互いのブロックへ進み、見やすい場所の確保に努めた。
ステージには乃木坂46と書かれた大きな垂れ幕があり、紫色のライトに照らされている。
ライブまでまだ1時間ほどあるものの唯一の話し相手が別ブロックだったので暇を持て余していた。
モンストやYouTubeで時間を潰そうと思ったが、電波が悪く繋がりづらい。
それもそのはずである。
これだけの人数が同じ敷地内で暇を潰す為に一斉に携帯を起動させているのだから繋がりづらくもなる。
動画やゲームを諦め、かーくんにメールを送る。
ーーそっちどうよ?
ーーこんな感じ。
かーくんの返信には自分から見える景色を写メールで送られてきた。
写真を見る限り相当近い。
ーーめっちゃ近いですやん!
ーーがんばりました!ようちゃんいなくて暇だから隣のまりっか(伊藤万理華)のファンの人と話してる。
どうやらかーくんは早くも仲間を見つけたようだ。
さすがコミュニケーションお化けだ。
僕は他の人と話す勇気がわかず、こんな時の為にと持ってきたiPodで新曲の復習を兼ねて音楽を聴いて時間を潰した。
なんとか時間を潰し、開演の11時まであと5分となった。
この頃になるともうすぐ乃木坂46に会えると気持ちが昂り武者震いをしていた。
ライブを観るのは去年の夏の全国ツアー以来だ。
この間に乃木坂のあらゆる映像を鑑賞し、聖地巡礼もした。
さらに乃木坂46の目標だった紅白歌合戦の舞台もリアルタイムで観た。
これからのライブが楽しみである…と言い切りたいが、自分の推しとの別れのカウントダウンが聞こえるようになり、複雑な心境ではあった。
僕はもう自他ともに認める立派な乃木坂46中毒者である通称乃木ヲタになっていた。
そんな事を考えていたら会場から開演を知らせるOVERTUREが流れ始めた。
それに呼応し、怒号のような歓声が会場内に響き渡る。
そして、各々が持っているサイリュームを紫に点灯させ会場一帯が紫色に染まる。
その歓声と音に包まれた僕は鳥肌が立ち、みんなと共に声をあげた。
ここまで来る間の事が走馬灯のように脳内に流れた。
ーーまたこの空間に帰って来れた。ーー
OVERTUREが終盤になるとメンバーが次々とステージへ上がっていく。
推しであり、卒業を控えた深川麻衣の姿が見えた。
会場の熱気とメンバーに会えた嬉しさから僕は感極まった。
そして、音が鳴り止むと深川麻衣をセンターに迎えた14枚目シングル[ハルジオンが咲く頃]のイントロが流れ始めた。
僕はもう訳がわからなくなり、涙腺が崩壊した。
動いている感情が一つに絞ることが出来ず、自分が今何に感動しているのか何に悲しんでいるのかわからなっていた。
涙で視界が滲む。
それでも1秒でも多くこの景色を目に焼き付けようとステージに意識を向ける。
推しがいなくなるのがこんなにも辛いものだなんて知らなかった。
僕はライブはあっという間に終わった。
ほとんどの時間を泣いていたと思う。
周りにも涙を流している人達がいた。
ライブ中の記憶がほぼ無い。
呆然と立ち尽くし、メンバーがいなくなったステージを見つめて気がついた。
これはおそらく僕にとって遅れてきた青春なんだと。
このあと握手会が控えている。
本人に会える。
嘘みたいな現実だ。
何を話せばいいんだ。
そもそも握手する相手は本当に本人なのだろうか。
CDを好きで買っただけなのにライブが観れて本人に会える。
よく考えたら異常な事だ。
夢なのか現実なのかよくわからなくなる。
僕は改めて自分の置かれている状況に静かに混乱していた。
ただわかっているのは秋元康先生の展開しているビジネスはとんでもないということだ。
僕は、これから起こるであろう事に半信半疑になりながらかーくんとの合流に足を向けた。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
次回、いよいよ本人と握手!?




