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2016年1月7日、木曜日。

スーパーの裏でヤニ吸うふたりの世界観が好きです。

もうすぐ2巻が出るのですが、待ち遠しい…。






「大五郎よ、どうやら暇は人をも殺せるらしいぞ。」


その日僕は日中暇を持て余し、お酒を飲みながら川沿いにいる大型犬大五郎に一方的に話しかけていた。

僕の言葉を聞き、大五郎は伏せの状態から尻尾をブンブン振っている。


「大五郎、本当にわかっているのか?このままでは死んでしまうのかもしれんのだぞ。」


大五郎はおすわりのポーズになり、ハッハッハと舌を出しながら尻尾をブンブン振っている。


「うーむ…犬には難しかったか。どうも暇すぎて体が鈍るのぉ。昼間っから飲むのは嫌いじゃないが一人はつまらんな。」


地べたに座ったまま両手をつけ空を見上げる。

この時かーくんは遅れた帰省をしており、この街に不在だった。

肌寒いものの天気も良く、とても退屈するには勿体無い日である。

かといって世間はまだ正月を引きづり、どこに行っても混んでいるので出かける気にもならなかった。

この暇な街で話し相手になるのは大五郎ぐらいだった。


「たまには散歩でもするかなぁ。」


角ハイボールを飲みきり、ぼんやりと独り言を空に吐いた。

散歩というワードに大五郎が反応し、ボフッと言いながら尻尾を振った。


川沿いを歩き、小道を抜け、狭い商店街を歩いた。

昼間にも関わらず、一部の店では既にダクトから煙が出ており何かを焼いている様子だ。

近くを通ると匂いで焼いているものがわかる。

焼き魚、焼き鳥、焼肉…どこも美味しそうな匂いを漂わせている。

店の中では坊主でステテコのおじさんが焼酎を飲みながら店内のテレビを見ている。

別の店では知らないおばちゃんが歌を歌い、同じテーブルに座る人達がその歌に合わせ手拍子をしている。

八百屋の前を通ると店内に門松と鏡餅が飾られており、改めて正月がまだ残っている事を感じさせる。

僕はその様子を横目に買ってあったレモンサワーに手を伸ばし、缶のプルタブを引いた。

レモンサワーを飲みながらダクトの煙を浴びていた時、オードリー春日がお金がない時にダクト飯をやっていたエピソードを思い出した。




『ダクト飯』

オードリー春日考案の節約術。

飲食店のダクトから出る匂いを嗅ぎ、その匂いの先の食べ物を想像する。

そして想像したものをおかずにし、ご飯[その当時はパンの耳]を食べる。

まさに極限の食事方法。




匂いをつまみにレモンサワーを飲み、駅前に到着した。

駅前は閑散としており、銀行と本屋とコンビニぐらいしか開いていない。

とりあえずやることもないのでロータリーを超え、歩き続ける事にした。

歩いて数分後、レモンサワーも飲みきったので近くのゴミ箱に角ハイボールの缶と共に捨てた。

お酒を飲みきるといよいよ何もやることがなくなった気がした。


ーーまずい…これじゃまるでダメ人間みたいだ。昼間に一人で酒を飲みながら街を徘徊する…スーパーの前でたむろしながらワンカップ飲んでるおっちゃん達ですらこの年でこんな事してなかったと思う。非常に人間としてアカン気がする…。ーー


正月もギリギリ明けてなかったので実際そういった人もいるはずなのだが、その時は何かこう世間から置いていかれる感覚に追われていた。

数分その場で悩み、初詣がまだだった事を思い出したので神社に向かう。

目的があると自分が暇人ではないのだと自身に言い聞かせられる。


神社に着くと御神木の近くで絵を描く麦わら帽子のご老人がいた。

冬場にも関わらず薄着で淡々と絵を描いている。

酔った勢いもあり声をかけてみる事にした。


「こんにちは。素敵な絵を描かれてますね。」


僕の声で気づいたご老人は振り向き、笑顔を見せた。


「素敵だなんてお上手ですね。ただの暇つぶしですよ。」

「暇つぶしの域じゃないですよ。絵のタッチがゴッホみたいです。」

「そんな立派なもんじゃないですよ。お若いのに物知りですね。」


ご老人はゴッホの名前が出てきた事にとても嬉しそうだった。

会話しながらも絵を描き続けている。


「sompo美術館には行かれましたかな?」

「はい。ゴッホのひまわりをどうしても見ておきたかったので行きました。圧巻でした。あそこだけ異空間でした。」

「ほっほっほ。お若いのに好奇心が素晴らしい。絵がお好きなんですね。」


ご老人は手を止め、微笑むように僕を見た。

風がほのかにそよぎ、ゆっくりとした時間が流れていている。

まるでジブリ映画に出てくるような空間で穏やかだった。

その空気が心地良く、つい自分の事を話した。


「昔、悩むと美術館に行ってたんです。理由は未だに解らないんですが、目の前にある絵を見ながら画家の人の気持ちを想像すると不思議と自分の気持ちが落ち着いて考えがまとまったんです。」


俯くように話す僕を優しい眼差しでご老人は頷きながら話を聞いていた。


「そうでしたか。今はどうされているんですか?」

「今は前ほど行かなくなりました。たぶん、話し相手が出来たからだと思います。」

「それは良かった。」


そう言ってご老人は再び絵を描き始めた。


「人は生きていると沢山の想いに出逢います。ですが、限りある時間の中でその想いを全て選択することは出来ないんです。だから人は常に選択を余儀なくされる。だけどね、時々選択せずとも導かれる時があるんです。」


ご老人は再び絵を描く手を止め、こちらを見た。


「衝動に忠実にいなさい。あなたのように考える人ほどね。時間は有限だけど、制限はかけてはいけません。もう十分苦しまれたのでしょうから、これからはあなたが思うままに生きてみてください。これがあなたよりも少し長生きしている絵描きからのアドバイスです。」


ご老人はそう言うと、続けて「生意気でしたかな?」と笑っていた。

陽射しが暖かく、少しづつ体を温めていく。

神社から見上げた空は雲一つ無く、どこまでも続くような青空だった。


「綺麗な空ですね。こんな日に飛べる鳥さんは幸せですね。」


ご老人は冬の澄んだ空を見渡しながらそう言った。

その光景を見ていて僕は咄嗟に言葉が出た。


「あの…。」

「どうしました?」

「お名前お伺いしてもいいですか?」

「私ですか?須山と申します。」

「自分、萩原って言います。また、お会いした時はお話しさせてもらってもいいですか?」

「こちらこそ。萩原さん、またお会いしましょう。」


ご老人はニコニコと笑い、再びゴッホのような絵を描き始めた。

僕はご老人に一礼し、その場を後にした。


ご老人と別れた後、夕方まで散歩していた。

その後は居酒屋に入り、焼き鳥とホッピーを嗜んでいた。

飲みながらご老人の言葉を何度も思い返していたが答えが見つからないまま居酒屋を出た。

その頃は日も沈み、グランブルーのような色が空一面を敷き詰めていた。

工場の光が星や月を見えづらくさせている。

潮風を浴びながら街頭に照らされ、家路へとテクテクと歩く。

途中休憩がてら公園に立ち寄り、ベンチに座った時に何気なく携帯で乃木坂46の公式サイトにアクセスした。

そこには大切なお知らせと題されたブログの項目があったのでカーソルを合わせ、ボタンを押してみた。



2016/01/07 Thu

深川麻衣

大切なお知らせ。


今日は皆さんへ、

大切なお知らせがあります。


私は次の14枚目シングルで

乃木坂46を卒業する事を決めました。



その項目をなかなか理解出来ず、何度か読み返した。

先ほどまで気にならなかった風の音や車のエンジンが鮮明に耳に入る。

一度は大きな喪失感と虚無感に襲われたが、次第に冷静になってく。

僕は自分の気持ちを整理し、家路へと歩き出した。




最後まで読んで頂いてありがとうございました。

次回何書こうかな…。

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