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乃木坂46、紅白初出場の日。

この時期にこの話を書くと当時の自分を思い出します。

夢中になれるものは人生を輝かせてくれます。





師走に入り、めっきり寒くなった。


この時期ぐらいから早番時の起床が辛い。

朝の冷え込みが秋とは比べものにならず、布団から出るのがもはや拷問である。

カーテンの先は夜と変わらず暗く、街灯がまだ橙色に光っている。

どこを探しても朝の合図が見つからない。

なんとか起床し準備をするも、そこからバイクの出勤が待ち受けている。

寒空の下でのバイクは感情が止まるほど辛い。

それでも命に関わる仕事を自覚し、自分を鼓舞する。

バイクのエンジンをかけ、アイドリングでエンジンを温めている時間に冷たい空を見ながら自分以外にも同じ思いをしている人がいるんだよなと思うと少し励まされる。

暗闇の中、白い息を吐きながら朝を待っていた。

そんな日々を過ごしていた。


病棟に着き、早番の仕事である起床介助を行う。

起床介助の際は細心の注意が必要である。

ここ回復期では麻痺がある患者さんが多い。

麻痺には右麻痺と左麻痺がある。

麻痺がある箇所は普段なかなか動かせず硬直している為間違った介助をすると骨折する恐れがある。

特に朝や寝起きの時は要注意だ。

患側の硬直も強く、患者さんの意識がぼんやりとしている。

1日の中でも最も注意が必要な時間帯でベッドから車椅子へのトランスをするだけでも大事故になりかねない。

普段からADLを把握しておかなければいけないのはそのような事故を未然に防ぎ、適切な介護をする為なのである。




『トランス』

トランスファーの略。和訳は移乗である。

介護を行う基本動作のひとつ。

正しいトランスと患者さんのADL把握していないと事故に繋がる。



健側けんそく患側かんそく

健側…障害がない側。

患側…障害がある側。





起床介助を終えると朝食の配膳をし、口腔介助とトイレ誘導をする。

その業務を終えると早番には入浴介助が待っている。

これがなかなか体力を使う。

入浴介助は脱衣所で脱衣の介助をする者とお風呂場での入浴介助を行う者で分けられる。

その日のリハビリの予定やADLによって患者さんの入浴の順番が決められる。

勿論、男女は別々である。

脱衣後入浴用の椅子や車椅子に座って頂き、体を洗う介助をする。

この際自分で洗える部分は極力患者さんに洗ってもらい、健側や洗いづらい箇所を僕ら介護者が洗体する。

そして、ここからが入浴介助の難所である。

麻痺やADLの関係で必ずしも全員が浴槽に浸かれる訳ではない。

浸かれる人は良いが浸かれない人の場合こちらが体が温まるまで掛け湯をする。

冬場だと気温が低く掛ける湯量も多く、1人につき湯槽の半分以上を使うこともザラだ。

体力もそうだが何よりも腰にダメージがくる。

それでも患者さんにとって週に3回ほどの貴重な入浴を消化不良で終わらせる訳にはいかない。

ポカポカになってもらう為気合いを入れ直し、全身に満遍なく掛け湯をする。

この作業を15人前後行うので冬場でも汗だくになる。

入浴介助が終わると大体お昼前になるので休憩に入る。

これが早番の午前中の主な仕事である。



入浴介助を無事終え、昼休憩に入ろうとした時だった。

ナースステーションから新井先生が出てくるのが見えた。


「新井先生お疲れ様です!2階にいるなんて珍しいですね。」

「おう。萩原か。おまえの階の患者さんの薬の件で師長と話をしていた。」

「205号室の帯状疱疹の方ですか?」

「あぁ、薬の変更の件でな。そういえば、おまえニュース見たか?」

「ニュース?」

「その様子だと知らんようだな。乃木坂、紅白決まったらしいぞ。」

「マジっすか!?」

「休憩中確認してみるといい。歌う曲はおまえの大好きな[君の名は希望]だそうだ。」


あまりに突然の吉報により、驚きの表情のまま顔面が固まった。

ただでさえ紅白出場だけでも嬉しいのに、さらに歌う曲が君の名は希望だなんて…乃木坂46のファンとしてこれほど喜ばしい知らせは無い。

それを聞いて自然と感情的になっていく。


「新井先生…自分、泣きそうっす。てか、ちょっと泣いてます。」


僕は顔面強直しながら嬉し涙が目の内に滲んでくる。

嬉しさを堪えるのに必死で顔の強張りが加速する。


「相変わらずバカなやつだな。だが、そんなおまえを見ているのがおもしれぇんだがな。」


そう言っていつもの山賊笑いをし、その場を離れて言った。

そして後ろ向きで手を振り、階段を降りていった。

僕は右手の拳を握り、胸の辺りまで上げその場に立っていた。

言葉は見当たらず、そのまま衝動的に3階に向かった。


「ブラザー!大変だ!ニュースは見たか!?」


かーくんは患者さんの昼食の配膳前で食堂に待機していた。


「おぉっ!一体どうしたよ?ニュース?見てないけど。」

「さっき新井先生から聞いたんだが、今年の紅白歌合戦に乃木坂が決定したってよ!」

「うぇっ!?」


あまりの衝撃にかーくんは嘔吐寸前のゴリラ面になった。

自分も先ほどこんな顔をしていたのかと思うと違う意味で泣けてくる。

そして、追い討ちを掛けるように曲目も伝えた。


「しかも歌う曲が君の名は希望だってよ!」

「ウホッ!?」


吉報を聞いたかーくんは驚きで完全にゴリラ化し、人間の言葉を喋れなくなった。

おそらく彼は「嘘!?」と言いたかったんだと思われる。

乃木坂46のファンになって半年も経っていなかったが、僕とゴリラはまるで自分のことのように喜んだ。

ファンになって僕らは日々乃木坂46の楽曲に救われ、メンバーとバナナマンさんに笑いと勇気をもらった。

悩んだり苦しい時もメンバーが何かを成し遂げようとしてる姿を見るとこの子達も頑張っているんだと思うと一人ではないとすら思えた。

本当に感謝しかない。

その日の仕事終わりに二人で祝勝会をした。

ベロベロになるほどお酒を飲み、カラオケで乃木坂縛りで楽曲を歌いまくった。

家に帰るとお酒を片手に乃木どこと乃木中をひたすら見て、MVを何回もYoutubeで再生した。



そして、2015年紅白歌合戦当日を迎えた。

この数日前に乃木坂46のクリスマスライブが開催されたが見事に落選した。

夏のライブ同様チケット譲渡スレッドも探したが、キャパが神宮球場の三分の一以下の影響もあり見つからなかった。

だが、紅白に初出場する姿をリアルタイムで観れるのであまり落ち込むこともなく大晦日を迎えられた。

かーくんは夜勤で僕は元旦出勤だったので一緒に過ごす事は叶わず、家でプルーと遊びながら一人飲みをしていた。

この年の紅白歌合戦はX JAPANやBUMP OF CHICKENなど僕らの世代ド直球な面々が出場し、とても豪華で紅とか白とか優劣をつけるのも野暮なくらいだった。


出番が訪れ、画面に映る光景に感動した。

アイドルグループのほとんどが選抜メンバーとそうじゃないメンバーが存在する。

通常、選抜メンバーに選ばれた者しかテレビ出演時や雑誌インタビューなどに参加できない。

だが、この時画面に映し出されていたのは紛れもなく乃木坂46のメンバー全員だった。

全員が紅白歌合戦の舞台に立っていた。

メンバー全員が歌番組に出ているのを見るのは初めてで、その姿を見て震えた。

みんなで苦難を乗り越え、掴み取った紅白の舞台を誰ひとり欠けることなく立つ舞台はとても煌びやかに見えた。

夏、僕とかーくんが見た景色が全国の人達に届いている。

時間はあっという間に過ぎその後も紅白を見続け、ゆく年くる年の映像を見ていた。

2015年も終わる。

素晴らしい出会いの年だった。

そんな事を思い、2016年への期待を胸に年が明けた。



だが、新年を迎え1週間後激震が走るニュースが舞い込む事になる。

僕は喪失感で呆然としたが、その後強い決意をした。


その日を境に僕らの乃木坂46と共に生きる青春の一年半が始まった。




最後まで読んで頂いてありがとうございました。

次回、1週間後の話を書きます。

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