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住みなれた街とそこにある日常。

本編が始まります。

主人公の街とお仕事について。




朝のカーテンの隙間から注いだ陽の光と携帯電話のアラームで目が覚める。

昨日飲み過ぎたせいで頭が一向に立ちあがろうとしてくれない。

重い瞼をゆっくり開け、ぼんやりと広がった風景に目を馴染ます。

最初に焦点があったテーブルの上にあるハイボールの潰れた缶は、昨日の宴の残骸である。


その缶をじっと見つめながら昨日の宴の事を少々回想し、布団に広がる自分の体温で温まった温度を確認する。

そして静かに瞼が閉じていく。その数分後、残酷にもスヌーズ機能にて起こされる。

これを二、三回繰り返しそれからようやく起床。

気だるさを引き連れ洗面台へとおもむく。

浮腫んだ顔と鏡でご対面。その顔を見ながら歯を磨き、顔を洗う。

寝癖を直し、寝巻きから仕事へと着替える。


朝食であるプロテインは牛乳で溶かして摂取。胃に染み渡る。

それにしても最近のプロテインは溶けやすく、何より味が美味しい。

ちなみに今のお気に入りはメロン味だ。


白衣を持ち、ノートとボールペンが入っているのを確認してバッグを背負いバイクで出勤。

これがわたくし萩原洋介の一日の始まりの大体の流れである。


少し住んでいる街の説明をしておこう。




千葉県某所。

 都心から少し離れたこの街は、都会でも田舎でもない環境で海が近い。工業地帯がある為、大通りの交通量は多い。

近くには出稼ぎに来ている外国人が住む地区があり独特の雰囲気を醸し出す場所もある。

ヤンキー文化も残っており、お世辞にも治安が良いと言い切れないが公園や図書館などの設備があり、飲食店やドラッグストアが多くある。東京までの快速電車も通っているのでベッドタウンとして案外住みやすい。


家から駅に向かって歩いてすぐ路地裏があり、そこを抜けると川にならって昔ながらの平屋が密集している。

そのうちの一軒の玄関はいつも半開きで、そこから長めのリードで繋がれた犬がいつも目の前の路地で昼寝をしている。家の表札にはその家の家主の名前とその何倍ものサイズで大五郎と記されている。

大五郎は大人しい大型犬で吠える事はない。目が合うと寝ながらも二、三回尻尾を振ってくれる。


大五郎を通過し、駅に向かって歩くと細い道の商店街に辿り着く。半分ほどは空家と化しているが小さな八百屋や魚屋が健在で人もそこそこいる。

年季の入った飲食店や飲み屋は地元の人の溜まり場になっており、昼間からそこで飲んでいる人も少なくない。

自意識過剰かもしれないが、どこか地元民以外を立ち寄らせまいとゆうような空気を纏っており、入るのには少々ハードルが高い。たまに外に聞こえるほどのボリュームでケンカしてる事もある。

駅の近くには大きな神社もあり、御神木を熱心にキャンバスに描いている老人が時々いたりする。

 

そんな街に住んで10年以上になる。

地方から大学進学の為に住み始めたのがきっかけだった。

特に愛着があった訳でもないが、大学卒業後実家に帰りたくない理由からこの街に残ることを選択した。

他にも引越しが面倒だったことや、当時大好きだった彼女と半同棲していた事も理由に挙げられる。

だが、些細なことから彼女と別れ、さらに追い討ちをかけるように3.11の震災で仕事がなくなった。


何もかも失い、絶望していたところ知り合いの紹介で病院を紹介され介護職に就くこととなった。

様々な仕事の中で介護職が一番出来ないと思っていたが、やり始めると不思議と続き国家資格も無事に取得した。

人生とは、何が起きて何に適応するわからないものである。


ざっとした説明になってしまったが、これが僕とこの街との関係である。話を戻そう。



病院に着くとバイクを駐輪場へ停め、ロッカールームへ向かい白衣へと着替える。

着替えが終わったら自分の配属されている病棟のナースステーションへ行き、患者さんのADL(日常生活動作)をまとめたファイルに目を通し、患者さん達の朝食の時間の為食堂へ向かい配膳を行う。

朝食が開始されたら、食事の見守りを行う。


うちの病院は、「早番」7時〜16時、「日勤」8時半〜17時半、「遅番」10時〜19時、「夜勤」16時半〜9時半が基本の勤務形態である。

だが、人手不足のこの業界にはイレギュラーな勤務も珍しくはない。

「早日勤」7時〜17時半、「日勤遅」8時半〜19時が、イレギュラー勤務の中で最も多い。

なかには「早遅」7時〜19時の12時間勤務もある。

身体的にも精神的にも参るが命を預かった職業の為、現場は連携して互いを労いながらどうにか業務をこなしていく。

ちなみにこの日は欠員が一人出た為、僕の勤務形態は「日勤遅」だった。


「明日の新患の方の担当って荻原君だったよね?ADL確認して病床の準備よろしくね。」

患者さんの朝食の見守りをしていると、看護師長の西条さんが笑顔で確認をしてきた。

「うっす。了解っす。気合い入れてやっておきます。」

「よし。任せたよ!」


西条さんは、新米の時から目をかけてくれる茶目っ気がありながらも厳しくも優しい姉御肌気質の看護婦さんである。

そんな西条さんが看護師を目指したきっかけは変わっている。

子供の頃病弱だった西条さんは病院とは仲良しな関係だったそうな。

ある日、少し気分転換にお母さんと病院の屋上に上がった際に看護婦さんがたまたまタオルと包帯を干していた。その姿がカッコよく見えて、そのまま看護師になってしまったらしい。

人生とは、何がきっかけで進むかわからないものである。


「おーし、そろそろ申し送りするからリーダーの人達はナースステーション集まってねー。」

西条さんの一言で数名がナースステーションへ向かっていく。


看護や介護、リハビリスタッフにはその日のリーダーが存在する。

前日の夜勤の方から昨夜の患者さんの様子を聞きメモをとる。

通称、「申し送り」である。


その際取ったメモは、その日出勤の介護士さん全員が見ることになるのでとても重要な仕事である。

例えばADLの変更、病状の変化や危険行動の有無、薬やリハビリの変更、退院後の方針など様々なことが伝えられる。

なかには患者さんのご家族の危険行動なども報告されることもある。


入院されている方々のこういった情報を全て網羅し、申し送り用紙に記述していく。

記入が多い方もいるので出来るだけ読みやすく、簡潔にまとめる。これがとても重要。

これがしっかりまとまっていないとあとで大ブーイングがやってくるので気を抜く事はできない。


無事に申し送りを完成させ、病棟のナースコールと連動しているPHSを持ち業務へと取り掛かる。


介護士の業務は様々である。

ナースコールの呼び出しと定時のトイレの介助や誘導とオムツ交換は勿論、ポータブルトイレ(比較的にADLが軽い方が夜間に使うベッドの横に設置する簡易式トイレ)の撤去と清掃、体位変換(自身で寝返りができない患者さんを介護者がポジションを変えること)、お風呂の介助、食事介助とその見守り、リネン(ベッドカバーやシーツなど)の交換や発注、カンファレンス(患者さんの担当の医師、看護師、介護士、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が出席する会議)などが主に挙げられる。


特に午前中はお風呂介助で数人抜けるので非常にバタバタしている。

なので、遅番の方が来た時なんか神々しく見える時もしばしばある。

ちなみに夜勤をしていると早番の方が来た時の安堵感は半端ない。

これはもはや看護師、介護士あるあるであろう。


時刻は9時半頃になり日勤業務をこなしていると後ろから声がした。


「お疲れぃ!今日夜何してんの?」


聴き慣れた声。なんなら昨日の夜も聞いた声。そうか、もうそんな時間か。



最後までお読みいただきありがとうございました。

次回、業務をこなす萩原に声をかけてきたその男は一体誰?



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