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今1番聴いてるバンドですか?乃木坂46です。

最近の若い方の一人暮らしにはテレビも本もCDプレイヤーも無いそうです。

時代が時代なので全て携帯で完結しますからね。なので部屋がすっきりしてる。羨ましいと思う反面あの時代を生きれて良かったなと思います。




2015年の秋がこぼれる頃、僕の病棟は介護度の高い方が多かった。


夕食は遅番2人と夜勤者の2人の計4人で行う。

40人ほどいる患者さんの食事の見守りと介助、口腔介助、トイレ介助、ベッドへのトランスをする。

介護度が低い方、または要支援の方が多い時は規定時間に終わるがこの時は介護度が高い方が多かった。



『要支援・要介護』

介護が必要な方が介護保険を受ける際に認定調査を行い,どれくらい介護を必要をしているかを示したもの。項目は要支援1〜2、要介護1〜5と自立を含めた8段階に分けられる。要支援1だと大体のことが1人で出来る。要介護5だと意思疎通も困難になり寝たきりの方が多い。介護度が高くになるにつれて保険の支給額も上がる。



食事後は患者さんのトイレラッシュが来るのでナースコールの嵐が吹き荒れる。

この時間はナースコールを何度止めても鳴り続ける。

「すいません!今自分トイレ介助してて離れられないんで、他の方コール取れますか!?」

トイレの見守りでその場を離れる事が出来ない為、他のスタッフに聞こえるよう声を出す。

普段車椅子を使用している認知症の方は、自分が認知症であることがわからないのでトイレ動作を見守る。そうでないと突然の転倒をして怪我をしたり、最悪の場合頭を打って亡くなるケースもある。その為、気を抜くことは許されない。だが、ナースコールは無情にも鳴り続ける。

「はいはーい。今わたし手が空いたから行きますよー。」

「ありがとうございます!自分ももうすぐ終わるんでお願いします!」

現場ではこのような会話が常に飛び交っている。


無事に全ての患者さんの就寝準備を終え、その日の業務が終了した。

「遅番さん、ありがとうございました。あとは夜勤者でやるから気にせず帰ってね。時間も過ぎちゃってるからさ。」

夜勤者の方から労いの言葉を頂いた。

時計を見ると19:20を過ぎていた。

続けて夜勤者の方が僕を見て言った。

「萩原君、今日新井先生の飲み会参加するんでしょ?」

「はい。流れ的にそうなってしまいまして…。」

仕事で疲れていたので正直、録画した乃木坂工事中を観ながら一人呑みをしたかった。

「萩原君も洗礼を受ける時が来たのね。お互い夜勤頑張ろうね。」

さらっと怖い事を言われた気がする。


仕事を終え、一度帰宅し、駅まで徒歩で向かう。

少し涼しげな街には夏の終わりを感じさせる。

川沿いの道を歩き、車が行き交う音に混じって潮の匂いが香る。

その匂いでこの街が海沿いにあることを思い出させる。

所々にある街灯のひとつが接触不良か寿命によって点いたり消えたりしている。

「このままお酒買ってこの景色を散歩してたい。」と心の中で呟く。


電車に揺られ千葉駅に到着する。

改修工事によって所々コンクリートが剥き出しの箇所が見受けられる。

「これいつ終わんだよな。」

「知らねぇ。それより今日女少なくね?」

ナンパの為に改札付近でたむろする若者達が剥き出しのコンクリートを見て会話する。

ナンパする人ってなぜナンパ通りでナンパをしないのだろうか?

そんなことを思いながら彼らを横目で見ていた。



『ナンパ通り』

元国道14号戦の一方通行の道。千葉駅周辺の象徴パルコに向かう通りでメインストリートになっている。

多くのビルが立ち並び、その中にはチェーンの飲食店をはじめ古着屋や雑貨屋などのファッション向けの店舗が入っている。その為、若者が集まっていて活気がある通りである。

現在はパルコの閉店とコロナの影響で以前のような光景ではなく夜の街化が進んでいる。

明確な由来は不明だが、昔から千葉に住む人は皆そうよんでいる。



ナンパ通りをパルコ方面に向かい、途中右に曲がり富士見通り方面へ向かう。

通りをひとつ曲がるだけで街の雰囲気がガラっと変わる。

明るさよりも艶やかさが主体になり、スーツを着た人や綺麗なドレス着ている人が増えていく。

その人達を見ていると同じ時代と場所に生きているのに自分とは別の世界で生きているように見えて距離を感じてしまう。

その影響もあってなのか歩いていて落ち着かない。

「こんなとこに店あんのかな。道間違えたかな?」

慣れない場所と勝手な疎外感に天性の方向音痴が加わり、Googleマップを使用しているのにも関わらず目的地まで路頭に迷っていた。

地図の見方がわからなくなっていた時に丁度良くかーくんから電話がかかってきた。

「ようちゃん今どこ?」

「近くにいるらしい…そうグーグルさんは言っている。電波が悪いのかガラケーだからバカにされているのか…とりあえず目の前に駐車場がある。」

「大丈夫、たぶん相当近くにいると思うよ。ちょっと待ってて。」

そう言ってかーくんは電話を切った。


ほどなくして後ろから「おーい」と聞き慣れた声が聞こえた。

かーくんはさっき通り過ぎたビルから出てきた。

「マジで近いとこに居てウケたわ。ここが飲み会の場所なんだよ。」

そう言ってビルの二階を指差した。

「二階かよ。言ってよぉ。超迷子になったわ。」

「ごめんごめん。とりあえず始まってるから行こう。」

そう言ってかーくんがビルへと案内してくれた。


エレベーターを使い、店内に入り座敷席に通された。

席には十数人の業種の垣根を超えた人達が酒を飲み、盛り上がっていた。

その席の1番奥の上座には新井先生が日本酒を飲んでいた。

徳利の数を見る限り、既に3合は飲んでると思われる。

飲んでる方々の後ろを「すいません。すいません。」と言いながら通り、挨拶をする為新井先生の元へかーくんと向かう。


新井先生の元へ辿り着き、かーくんに紹介してもらった。

「新井先生、この子が話してた萩原です。おもしろい子なんで宜しくお願いします。」

「看護助手の萩原洋介です。普段、二階病棟で働いています。本日は宜しくお願いします。」

当たり障りのない自己紹介になってしまった。大丈夫だっただろうか。

新井先生はお猪口を片手に上機嫌に話しはじめた。

「おう。おまえか萩原ってのは。遠藤と仲がいいんだってな。」

体格の良さと口調から山賊のように見える。

「音楽好きなんだってな。ロックは聴くのか?」

「ええ。嗜むほどですが、それなりに聴いています。」

その言葉を聞いて新井先生は得心の行かない顔をした。

「そう言って大体のやつが知ったかをするんだよな。どうせ最近流行りのバンドぐらいしか聴いていないんだろ?そんなのはロックとは言わん。」

新井先生は飽き飽きしているような顔をした。

それもそのはずだ。昔の方々が聴いていたロックと今のロックでは定義とジャンルの幅の広さが違う。

新井先生のロックとは往年のロックの事なのだ。

「新井先生ほどではないですが、自分もそこそこ聴いてる方かと。」

その言葉を聞いて新井先生に火がついた。

「俺の好きなロックってのはな心を突き動かすものを言うんだよ。おまえはそれを知っているつもりか?」

僭越せんえつながら。」

そして新井先生は、怒涛の質問攻めをしてきた。


「ならば答えよ。ビートルズは好きか?」

「All You Need is Loveが1番好きです。」

「ストーンズは?」

「詳しくはないですが聴いてます。」

「ツェッペリンは?」

「ベタですがImmigrant Song好きっす。特にライブ盤。」

「ジミヘンは?」

「Purple Haze最高っす。」

「Oasisは聴くのか?」

「好きすぎて好きな曲選べないです。」

「ブルースは聴くのか?」

「ロバート・ジョンソンぐらいなら。」

「パンクは誰が好きだ?」

「ザ・クラッシュです。」

「Rage against the Machineは?」

「トム・モレロは天才だと思います。」

「Nirvanaとかも聴くのか?」

「縁あってカートが死んだ日が僕の誕生日なので。」

「T・レックスは?」

「映画の影響で20th Century Boy聞いてます。」

「クラプトンはどうだ?」

「Tears in Heavenは泣けます。」

「Radio headで1番好きなアルバムは?」

「ダントツでKid Aです。」

「他に洋楽は何を聴いている?」

「改めてLinkin Parkすげぇってなって聴き直してます。ブラックミュージックも聴きはじめました。」

「なるほどな。じゃあ、おまえが邦楽で好きなロックはなんだ?」

「THEE MICHELLE GUN ELEPHANTとブランキージェットシティです。」

「ほう。それを踏まえておまえが今1番聴いてるロックバンドは誰だ?」

「乃木坂46です。」


一通りの質問を答え終わった。思ったことを素直に淡々と話した。

周りを見渡すとその場にいた人達が談笑を一時中断し、僕らの会話を聞き入り静寂が訪れていた。

その静寂を掻き消す声がした。

「いや、乃木坂って。バンドじゃねぇし。」

そこにいた一人の女性職員が鼻で笑う声が聞こえた。

再び静寂が訪れる。

「しかも、ロックでもないじゃん。ウケるんだけど。あの子大丈夫?」

それを聞いたかーくんが振り返ろうとしているのが見えたので肩を軽く抑え、周りに聞こえないトーンで「いいの、いいの。」と諭した。

かーくんは悔しさを堪え、申し訳なさそうに「ごめん。」と一言僕に言った。

そして、そのやりとりを見て新井先生が口を開いた。

「…おまえ面白いやつだな。最高だよ。」

新井先生はそう言ってガッハッハと山賊のように笑い始めた。

「萩原って言ったな。おまえとは話が合いそうだ。俺も古いロックしか知らんから新しいロックの事勉強しなきゃならんな。まず初めにその乃木坂46について教えろ。いや、教えてくださいだな。」

そう言ってまた山賊笑いをし始めた。

そして、かーくんにも言葉を述べた。

「遠藤、面白いやつを連れてきてくれてありがとな。お陰で今日は楽しくなりそうだ。」

新井先生はかーくんを見て握手を求めた。

「はい!めっちゃいいやつで、すげぇ魅力あるやつなんで宜しくお願いします!」

かーくんは新井先生の手を握り、自分が褒められているように喜び、笑顔が戻った。


自己紹介も無事に終わったのでゆっくりしようと思った。

知らないメンツがほとんどだが、中には異動で久しぶりに会う旧知の仲もいる。

「こうゆう機会でないとなかなか会えないもんな。」そんな事を思い、今日は昔話を肴に飲もうとした。

その時急に名前を呼ばれた。

「萩原!おまえは今日俺の横の特等席だ。とりあえず飲め。」

…新井先生に捕まった。

「あ、ありがとうございます。でも、自分あまりお酒強くなくて…。」

「嘘をついても無駄だ。おまえが呑める事は遠藤からよーっく聞いている。ウィスキーもストレートで飲むらしいな。」

そう言って荒井先生は僕を羽交い締めし、逃さないようにした。

かーくんを見ると小さくごめんとポーズをして首を小刻みに動かしている。

「それじゃ、自分幹事なんでみんなの事盛り上げてきます!新井先生、萩原の事あとは頼みます!」

そう言ってかーくんは逃げるように席を離れた。

「萩原、まずはチャック・ベリーの話からするぞ。」

そうしてその日は新井先生とロックンロール談義をする事になった。


僕の長い夜勤が始まった。





最後まで読んでいただいてありがとうございました。

次回、長い夜について。

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