[サブストーリー]秋葉原とAボーイと桃色メガネ。
一話完結の緩い話を書いてみました。
たぶんまたちょくちょく書きます。
「さぁ、いきますよぉ!美味しくな〜れ、萌え萌えキューン♪」
黒い衣装に白のエプロンのゴスロリ調の服を着たメイドが両手でハートを形どり僕らが注文したきゅん❤︎きゅんクリームソーダに向けておまじないをかけた。
「あれぇ〜おかしいなぁ?上手にできないぞぉ。」
おまじないをかけ終えたメイドはなにやら納得がいっていないようだ。
ーー…何がだ?何がおかしい?そもそも食物におまじないが必要なのか…?ーー
今まであまり出会ったことのない人種に動揺していた。
首を傾げ、右頬に手をあてたメイドが突然ハッとした表情に切り替わり「そうか!ご主人様の力が足りないのか!」などと言い始めた。
ーーなんだろう…何か嫌な予感がする。何かをやらされそうな気がする…。ーー
動揺しているとすかさずメイドはにこやかにこちらに呼びかけた。
「ご主人様、大変です!きゅん❤︎きゅんクリームソーダがこれじゃ美味しくならないぞぉって言ってます!美味しくするためにわたしと一緒におまじないを唱えましょう♪」
ーーな、何を言っているんだ…そんな恥ずかしいワード言える訳が無い…。ーー
よりにもよってその日の店内は満員御礼だった。
そんな気持ちをメイドが気に留める訳もなく、両手は既にハートを型取り、ポーズを決めていた。
そして、そのハートを胸にあて僕らに熱い視線を向けてきた。
「それでは行きますよぉ!ご主人様もご一緒に〜♪」
メイドはこちらに構うことなくおまじないを強要し始めた。
その時見せる笑顔はほぼ狂気だった。
「せーのっ!」
メイドの勢いは増していく。
ーーやられる。回避せねば。そうだ、かーくんを巻き込もう。彼と共にこの状況をストライキするのだ。ーー
時間にして1秒もなかっただろう。
脳みそをフル回転させ、今1番自分のプライドが傷つかない方法を叩き出した。。
ーー目だ…目で合図をすれば彼ならきっとこの計画が伝わる。2人でおまじないを放棄すれば恥ずかしくない。ーー
メイドには申し訳ないが大人のプライドを優先させてもらった。
この状況の打開を確信し、かーくんのほうへ振り向いた。
だが、目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。
なんとかーくんは既に自分の膝の上でハートのポーズをしているではないか。
ーーま、まさかこいつ!?ーー
一足遅かった。
かーくんは既にメイドに洗脳され、奴隷のようになっていた。
ーー大丈夫だ。まだ間に合う。今ならまだ引き返せる。ーー
可能性を信じかーくんと目を合わせ正気に戻そうと試みるが、まさかの眼鏡のレンズが反射していて肝心の目が確認できない。
眼鏡のレンズが反射したかーくんは、もはやキテレツ大百科の勉三さんにしか見えない。
ーーだめだ!こうなれば動きを封じるしかない!ーー
最後の賭けに出た。
僕はかーくんの動きを封じる為手を抑えようとした。だが、遅かった。
既に彼は力強く両手をハートのポーズをし、自分の胸のあたりに構えていた。
かすかに左側の口角があがっている。
ーーだめだ、やつはもう狂っちまった。ーー
メイドとかーくんは最終奥義に向けてスピードを上げていく。
ーーやめろぉ!それを言ったらあんた戻れなくなるぞ!うわぁぁ!ーー
心の奥底でおもわず慟哭した。
全てがスローモーションのようにゆっくりと進んでいる。
機は熟し、2人のシンクロ率は100%を超えた。
その瞬間かーくんのメガネが光り、狂気の笑顔のメイドと共についにその言葉を放った。
「萌え萌えキューーン♪♪」
2人のおまじないが届いたのかきゅん❤︎きゅんクリームソーダに乗っていたソフトクリームが少し溶けた。
おまじないを言い終えた時間は独特で、まるで爆撃を受けたあとのようなだった。
メイドは満足そうな顔でこちらに向けて笑みを浮かべている。
かーくんは先ほどの勉三さんから戻り、長い航海から母国に帰ってきた海軍兵のような立派な表情をしていた。
そして、かーくんの背後から40代後半ぐらいの男性がかーくんとメイドに向かって「きゅん♪きゅん♪」と言っていた。
地獄のような光景でバルスより強力だった。
神社巡りをした次の日、僕らは秋葉原のメイド喫茶にいた。
ことの発端は、わたくし萩原洋介が大学時代に観ていたドラマ『アキハバラ@DEEP』のロケ地巡りをしたいの一言から始まった。
『アキハバラ@DEEP』
2006年TBS系で放送されたオタクに焦点をあてた深夜ドラマである。
原作は池袋ウエストゲートパークなどで有名な石田衣良。
個性豊かなメンバーが秋葉原で起きた事件を独自のやり方で解決していくアキバ系冒険活劇?である。
アニメやコスプレ、メイドなどをはじめ当時流行ったおでん缶や今は亡き石丸電気なども題材にしている。
当時若手であった風間俊介、生田斗真、星野源やベテラン勢に北村一輝などの豪華メンツが出演している。
さらに我らがバナナマンさんも主要メンバーで出演している。
キャストを一新して映画化もされているが、個人的にはぶっちぎりでドラマ版がおすすめである。
青春時代に観たそのドラマの世界を体感して思い出と共に秋葉原を楽しもうとしていたのが、まさかのかーくんが全力で楽しみ始めていたのだ。
そのかーくんにメイド喫茶後声をかけた。
「満足したか?」
「いや、まだだ。」
この調子だ。
2軒目。
「少し染みるかもしれません。痛かったら言ってくださいね。」
「痛っ!やっば!なんかスースーが止まらないっす!」
耳に消毒液を塗られていた。
「ごめんなさい。少し量多かったですね。調整しますね。」
僕らは浴衣姿のお姉さんに膝枕で耳かきをしてもらう店にいた。
先に言っておくが耳かき専門店であって決していかがわしい店ではない。
その証拠に膝枕されている目線の先にはデカデカと『耳かき以外の強要をされた方は警察に通報します』の文字が書かれていた。
だが、襖越しのかーくん達の会話を聞くと否定しづらくなる。
「すごい大きいのありますよ。」
「いやぁ、まじまじと見られると恥ずかしいっすね。普段誰にも見せないから…。」
「気になさらないでくださいね。わたし、こうゆうの慣れてますから。それじゃ、はじめますよ。」
「や、優しくしてください。ちょ、ちょっと痛いです…あ、でも気持ちいいかも…。」
「ふふっ。少し我慢してくださいね。」
…もはやわざと言ってるんじゃないかと思うような会話だ。
無事に耳を掃除してもらい店を出た。
念の為かーくんに確認をする。
「満足したか?」
「逆にようちゃんさ、こんなに楽しいのにもう満足したの?」
なぜかちょっとキレていた。
ここにくる前、かーくんはこんな事を言っていた。
「秋葉原ねぇ。ようちゃんが行きたいなら全然いいけど、そもそもメイドとかアニメにそんな興味ないから行っても良さがわからないと思うんだよねぇ。個人的にメイドの格好って見てるとどっか冷めちゃうんだよね。」
そう言って露骨に乗り気ではなかった。
今はどうだ?
「萌え萌えキューン!はっはっは、可愛らしいなぁ。」
と言い、秋葉原のど真ん中でハートポーズをキメている。
あの時のおまえさんはどこ行った?と聞きたいものだ。
「とりあえず腹減ったからかんだ食堂行こうぜ。」
「どこ?かんだ食堂って?」
『かんだ食堂』
東京タワーが出来た昭和33年に創業した秋葉原の伝説の老舗食堂。
メニューが豊富で安い。さらに定食のボリュウムが魅力で地元の人には勿論、秋葉原のサラリーマンやOL、オタク達からも愛された店である。アキハバラ@DEEPにもちょこちょこ登場している。
人気メニューは、豚生姜焼き定食とウィンナー炒め定食。
残念ながら2018年に多くのファンに見守られながら閉店した。
いつか復活をしてください。お願いします。
「うまっ!生姜焼き最高だわ。」
「うまいっしょ?この昔ながらだけどここにしかない味でたまらんのですよ。茄子味噌少しあげるから食べてみ。」
「うめぇ!茄子味噌もやばいね。そらこんだけ混むわなぁ。」
昼時を過ぎたのにもかかわらず店内は満員で外にも行列が出来ていた。
かんだ食堂には様々のジャンルの人達が集まっていて見ていても楽しい。
その中でも一際異彩を放っていた中年3人組がテーブル席に座っていた。
3人とも同じような格好をしている。
頭にバンダナを巻き、メガネをかけ、何かのアニメキャラクターがプリントしてあるTシャツを着ている。
体型は全員少し小太りでリュックサックを所有していた。
茄子味噌を食べていると彼らの会話が聞こえてきた。
「うーむ。とても難解だ。答えが出ない…タクト氏、ガンダムとは何かね?」
緑のTシャツを着ているメガネ[以下、緑メガネ]が問いかける。
「一言で答えられる質問ではない。そんな安易な事では無いのはわかるだろ徳川っち?お主は本当にガンダムを見たのであるか?」
黒のTシャツを着ているメガネ[以下、黒メガネ]がそう返す。
「観ましたとも!ターンAまでのガンダムは全て網羅した事を言ったではないか!」
緑メガネが怒り始めた。
「お、怒るということは自分自身に自信がないしょ、証拠だ。お主は後ろめたい気持ちを誤魔化そうとしているだけだ…そう思いますよね、会長?」
動揺する黒メガネが桃色のTシャツを着ているメガネ[以下、桃メガネ]に同意を求めた。
すると、今まで腕を組みながら2人の話を聞きに徹していた桃メガネが薄く目を開けた。
そして重い口を開き、こう2人に話した。
「私がガンダムだ。」
ーー…え?ーー
あまりにも会話が成り立っておらず、茄子味噌定食を食べる手が止まった。
ーー…聞き間違いか?今、自分の事をガンダムと言ってなかっただろうか?そんな訳がない。ガンダムはそもそもデカい。それに失礼だが、モビルスーツからは相当かけ離れた体型。堂々とそんな事を言うわけがない。そうだ、何かの聞き間違いだ。ーー
箸を止め、白米を見つめながら思った。
すると、意外な答えが2人のメガネから返ってきた。
「なるほど!そうゆうことか!さすが会長!」
ーー…はい?ーー
どこに合点いったのかさっぱりわからなかった。
それにあだ名の癖が強すぎる。
1人で動揺していると続けて緑メガネが質問する。
「では会長、自分は一体何者でありますか!?」
ーーおいおい…どうゆう質問だよ…会長も答えづらいだろ…会長の事も考えろよ…。ーー
そんな事を思いながら再び箸を茄子味噌に伸ばす。
そして間をおき、桃メガネが再び重い口を開いた。
「君もガンダムだ。」
ーー…な、なにを言っているんだこの人は…?ーー
桃メガネの返答を聞いて再び箸が止まった。
彼らの影響力は僕だけに留まらず、隣でとんかつを食べていたお姉さんの手をも止めた。
あまりにも次元を超えた返答だったので、さすがに納得しないだろうと僕は緑メガネの反応を伺った。
緑メガネは桃メガネを見つめている。
そして、緑メガネが口を開いた。
「…本当ですか?本当に僕はガンダムなのですか?」
驚きを隠せない表情の緑メガネ。
その姿を見て桃メガネはふっと笑い、緑メガネの肩に手を置いた。
「あぁ。君はもう立派なガンダムだ。ここまでよく頑張ったな。」
「…ありがとうございます会長。これで胸を張って生きていけます…。」
ーー…ど、どうゆうことだ…?ーー
2人の会話があまりにも時空を越え過ぎて理解が追いつかず、顔が強張った。
そもそも会長が連邦軍でどの立場にいるのかがわからない。
横のお姉さんは完全にフリーズしていて箸で挟んでいたとんかつをポロリと落としていた。
緑メガネは目に涙を溜めている。
それを見て我もと言わんばかりに黒メガネが質問をした。
「会長!では、ガンダムの定義とは一体なんなのでしょうか!?」
必死になった黒メガネを静観し、三度桃メガネの重い口が開いた。
「ガンダムとは戦争を根絶する力。そして、君もガンダム。」
桃メガネは金剛力士のような猛々しい表情でそう話した。
その表情を見て黒メガネは、ははっと笑みを溢した。
「会長…ありがとうございます。私が知る限りあなたは最も儚く、暖く、美しい…。素晴らしい日だ。」
そう言って黒メガネは天を仰ぎ、目を瞑り始めた。
ーー…なんかもう全然わかんないけど、一周回ってこの人達がカッコ良く見えてきた…。ーー
なにが事の発端でこんな会話になったかはわからないが、3人がガンダム好きなのはよくわかった。
会話を聞き終え、食事に戻る。
隣のお姉さんは「はぁ。」と言ってキャベツを食べ始めた。
反対側に座るかーくんは既に食事を終えていた。
「すげぇ会話だったな。あそこまで崇高になれるならガンダム観てみようと思ったわ。」
「え?何が?それより今この魔法少女のコンカフェに行くか、猫耳をつけたコンカフェに行くか悩んでるんだけどどっちがいいと思う?」
そう言ってかーくんは携帯を見せてきた。
彼はメイド喫茶とコンカフェについて調べるのに夢中でさっきの3人の会話を聞いていなかった。
僕の知らない間に立派なAボーイになっていた。
「あ、大丈夫。どっちもキャストの人とポラロイドで写真撮れるから安心して。」
何が大丈夫なのかは一切理解が出来なかったが、かーくんは僕を安心させようとしていた。
テーブル席ではガンダムの話をし、それを聞いたお姉さんはフリーズしてとんかつを落とし、横の男は他の会話が入らないほどコスプレをした喫茶店探しに夢中でさらに身に覚えのない安心感を与えてくる。
これが秋葉原か。そう感じざるを得なかった。
かんだ食堂をあとにし、話し合いの結果我々は戦国時代のコンカフェを選んだ。
かーくんがその場所で無双したのは言うまでもない。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
ちゃんと本編も書きます。




