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止まった砂時計と美しい花。

今年1番観た映画は『呪術廻戦0』でした。

今年1番泣いた映画は『余命10年』でした。

今年1番ハマったドラマは『梨泰院クラス』でした。




六本木ヒルズが目と鼻の先の距離にあるその場所は、立ち並ぶビルに負けない存在感を示していた。

「小さいのにデカイな!」

「うむ、デカいのに小さいな!見上げないと全体が見えんな!」

3階建ての建物に2人は見入っていた。

「ここが東京から聖地出雲大社に繋がる場所なんだぜ。」



『出雲大社東京分祠』

東京メトロ「六本木駅」2番出口より徒歩2分。

都営地下鉄大江戸線「六本木駅」7番出口より徒歩3分にある神社。

島根県〈出雲大社〉の御分霊をお祀りしている。「分祠ぶんし」とは、新しく設けた神社に本社と同じご祭神をお祀りすること。つまり〈出雲大社東京分祠〉にお参りすることで〈出雲大社〉と同じご利益がいただけるのである。

正式名称は「いずもおおやしろ」であるが、一般には主に「いずもたいしゃ」と読まれる。

御祭神は大国主大神おおくにぬしのおおかみで、縁結びの神としてとてつもなく有名である。



「なるほどね。出雲大社と繋がっている訳だ。東京にいながら神が集う場所にご参拝できるって訳だね。」

「おぉ。その口振りだと、神々が集まる『神義かむはかり』をご存知のようですな。さすがだね。いやさ、東京だけでも縁結びの神様も沢山いるからどこに行っていいか悩んじゃうけど、出雲大社なら間違いないと思いましてね。」

「間違いないね。相変わらずいいとこ見つけるねぇ。早速行きますか!」

「おう!承知した!」

2人は気合いを入れ階段を駆け上がる。


この出雲大社分祠はビル3階の構造になっている為、本殿までは階段を使って行くことになる。

3階に着いて左に曲がると手水舎がある。その横には本家出雲大社にもある祓社はらいやしろがある。

祓社とは、本殿で参拝前に知らぬ間に溜まった罪や穢れを手水で洗い流した後に祓っていただける場所のことである。

つまりは二重に清めてもらえるだ。

そこで2人はしっかりと作法に則り罪と穢れを祓い、すぐ近くにある本殿に向かった。


「さて、ここからが本番ですな。早速五円玉をと…。」

かーくんが財布から五円玉を取り出し、賽銭箱へ投げようとしたところを止めにかかった。

「ジャストォモーメェーント!ちょいと待ちなジェントルマン。」

「なになになに?」

理由もわからず止められたのでかーくんが困惑する。

「あんた今、二礼二拍手一礼しようとしたでしょ?」

「いや、そらそうでしょ。神社の正しい作法でやらないと失礼でしょ。え?何?違うの?」

かーくんは拍子抜けし、ぶっちぎりのアホ面でこちらを見てきた。

「ふっふっふ。全くこれだから無知ってのは怖いですなぁ。」

アホ面のかーくんにドヤ顔で応戦する。

「普段なら大正解なのだが、出雲大社は二礼四拍手一礼が正しい作法になるんだよ。ほれ、そこの銭箱の横にもかいてあるべ?」

「銭箱ってよ。賽銭箱な。うわ、ほんとうだ。知らなかったわ。」

「ちなみに毎年出雲大社の5月14日の例祭時には8拍手するらしい。」

「8!?凄い数だね…恐れ入ったよ。」

「どうよ?少し賢くなれたでしょ?さて、知識も得たところで改めて参拝しましょうや。」

かーくんに正しい作法を教え、我々が最も必要としている良縁を願う。


参拝を終え目を開けた。

横を見るとかーくんはまだ一生懸命参拝し続けていた。

その姿は凛としてとても綺麗な立ち姿だった。

「そうだよな。色々あったもんな。」

かーくんを見ていて無意識に呟いてしまった。

こんなにも明るい男にも悩み苦しんだ過去があるのを知っているからこそである。



かーくんには昔、看護師の美花さんとゆう年上の彼女がいた。

元々診療科が違うので挨拶をする程度の関係だったが、かーくんの異動により一緒に働くことになった。

楽しい人だなと思いはしたが、まだその時は先輩看護師ぐらいでしか見ていなかった。

だが、一緒に働くにつれて気持ちに変化があらわれた。

彼女の仕事に向き合う姿勢や常に笑顔で患者さんに接する姿を見てかーくんが次第に惹かれていった。

その後、かーくんの熱烈なアプローチに美花さんが根負けし、晴れて2人は付き合う事となった。

そして、かーくんの強い要望で同棲も始めた。

若いながらも仕事に一生懸命に向き合う2人が付き合っていた事は院内でも有名で評判だったらしい。

西条さんからもお似合いだったと聞いたことがある。

この日々が続くものだと思っていた。


ある時いつものように仕事を終え、家に帰ると美花さんから話があると言われ、どうしたの?と事情を聞くと「婿養子になれませんか?」と言われた。


美花さんの実家は8代続く老舗和菓子屋の一人娘だった。

お母さんを早くに亡くし、お父さんは男手ひとつで美花さんを大学まで進学させた。

大学卒業後、幼い頃からの夢であった看護師になる事ができた。

これから恩返しができると思った矢先、お父さんに癌がある事が発覚した。

その後、お父さんから先代の想いを自分の代で途切れさせたくないから婿を探してくれないかと頼まれた。

過去にお父さんからお願いをされた事はなく、恩返しをしたい美花さんはその願いを承諾した。


「ごめんね、突然。ひどいこと言ってるのはわかってる。最低だよね。」

うつきながら呟いた。

美花さんが謝るのには理由があった。


かーくんは田舎の大地主の長男で介護の勉強の為上京した。

その後就職をしたが、家の相続の関係上最終的には地元で就職をしなければいけなかった。

その事を美花さんは知っていた。


あまりに突然の事でかーくんは頭が真っ白になり、その日は「時間が欲しい。」とだけ美花さんに伝えた。


その後、2人は何度も話し合った。

時間をかけ、どうにか良い方法はないかと考えるが話が相入れる事はなく、答えはいつも虚しいままだった。

次第にその話をするたびにケンカをするようになり、やがて2人は別々の道を歩むことを選択した。


家から出ていくその日、美花さんは玄関先にある砂時計を手に取り眺めていた。

「懐かしいね。はじめて泊まりで温泉に行った時のだよね。」

隣にあるコルクボードには笑う2人の写真が飾られていた。

「こうゆうのちゃんと外しておかないと彼女できないぞ。」

無邪気に笑い、かーくんの胸の辺りをトンと叩いた。

そして少しの静寂が流れ、美花さんはかーくんの目を見た。


「あなたはきっとこれからも私の記憶の片隅の真ん中で優しく笑っているんだろうな。…あなたに出会えて本当によかった。」


優しい笑顔でそう話す彼女の目には涙が溢れていた。

そして涙声でごめんなさいと小さく呟き、美花さんは部屋を出ていった。


美花さんが恋人としてかーくんに伝えた最後の言葉は、2人で初めて観た映画に関するものだったらしい。


別れて一年後、美花さんはかーくんの上司と付き合い、結婚をし、病院を2人で退職した。

一方かーくんは、同棲していたアパートに今も1人で住んでいる。

同棲解消後、部屋を一新させた。

レイアウトを変え、カーテンや食器を変え、コルクボードの写真を友達との思い出写真に変えた。

美花さんがいた痕跡はなくなった。

玄関先にある砂時計を除いて。


別れた後、しばらく同僚や先輩に強く引っ越しを勧められたのだが、かーくんは引っ越しをしなかった。

なんで今の家を引っ越ししないのか聞いたことがある。

するとかーくんは、「引っ越しってお金も時間もかかるし、俺今の家結構気にってるんだよね。」と笑いながら答えた。

そう話すかーくんにはいつもの覇気が無く、どこか寂し気だった。

その表情を見て、僕は何も言えなかった。




「あ、ごめん。待たせたね。」

どれぐらい時間が経ったのかわからないが、無事にかーくんの参拝が終わった。

「全然待ってないよ。むしろこっちも今終わったとこ。」

そっかそっかとかーくんが笑った。それを見てこちらも笑った。

「いい出会いがあるといいね。」

「あんだけお願いしたからなぁ。ないと困っちゃうよ。頼みますよ、神様ぁ。あ、あとようちゃんの事もお願いしといたから。」

「おぉ、ありがとう。お主は相変わらず優しいな。大丈夫だよ。かーくんいいやつだからきっといい出会いがこれからあるよ。」

清々しいかーくんの顔を見て嬉しかった。次は幸せになれよと言おうとしたけどなんとなく辞めておいた。


「おみくじ引こうぜ!」

「っしゃ!いいの引くぞ!」

気合を入れてお互いおみくじを引いた。

「どう!?かーくん!?」

「願望、叶う。結婚、良い。失物、見つかる。ようちゃんは!?」

「通信、後に頼りあり。結婚、良い。失物、見つかる。通信って何!?」

「わからん!」

2人で声を出して笑った。


過去に色々あった。でも、その過去に感謝している。

辛い過去があってくれたから今こうしてなんでもない日常を笑いあえる仲間が横にいる。

それだけで人生は楽しいと思える。あの時、諦めずにもがきながらも道を進んで良かったと心から思える。

きっといい事がこれから起こる。そんな程度でいい。そのペースを忘れないようにするだけでいい。


「さて、そろそろいい時間ですね。解禁時間ですかな。」

かーくんが携帯の時計で夕刻である事を確認して、こちらを見る。

「時間ですね。そろそろ我々の第二段階に進みましょう。」

この時間、向かう場所は決まっている。

少し間をおき、かーくんが元気よく言った。

「では、これから居酒屋に向かいまーす!」

「素敵!ほんと素敵!いやー!」

もはや乙女のように目を輝かした。


参拝を終え乃木坂駅に戻る道中、かーくんが思い出したように口を開いた。

「あ、そうだ。ようちゃん土曜何番?」

「遅番。んで、その次の日夜勤。先のこと聞くなんて珍しいね。なんかあんの?」

いつも予定は当日に決める間柄なので、こんな事を聞いてくるのは非常に珍しかった。

「おぉ、ナイスタイミングだわ。いやさ、新井先生に飲み会誘われちゃってさ…。」

「あぁ、皮膚科の?酒豪で有名の?」

新井先生とは繊細な治療とは裏腹に豪快な人で有名で酒と女とロックをこよなく愛する皮膚科の医師のことだ。

「そうそう。今回みんな予定入って集まり悪くってさ。新井先生集まり悪いと露骨に機嫌悪くなるからさぁ。ようちゃん出来れば来て欲しいんだよね。俺もようちゃんいてくれると楽しめるからさ。」

「んー。行ってもいいけど、そもそも俺新井先生と面識ないよ?」

「そこは大丈夫!お酒一緒に飲んで話聞いてくれる人が欲しいだけだからさ。ようちゃん音楽詳しいっしょ?そうゆう人新井先生大好きだから話しやすいとは思うんだよ。何かあれば俺がフォローするからさ。」


正直、新井先生は苦手な類いの人だった。

逸話として朝までずっと自慢話をしたり、店員さんと揉めたり、突然飲み屋の姉ちゃんと消えたりなどの破天荒なエピソードしか知らない。

とにかく迷惑な人の印象でしかなかった。

音楽は好きだが経験上そうゆう人と語り合うと自分の好きな音楽は否定され、一辺倒な音楽思想を一方的に刷り込まれるエンディングが待っているのを知っている。

でも、こうやってかーくんが頼み事をするのも珍しい。

めんどくさい以外の理由もなく、かーくんの役に立てればと思い承諾した。


「わかった。いいよ。困った時はお互い様だしね。」

「マジ!?ホント助かったわぁ。飲み代は新井先生がいつも出してくれるから大丈夫。ただ、そのあと行きつけのキャバクラかスナック連れてかれるかもしれんけど…。」

そのワードを聞いて軽く眉間に皺がよった。

「いや、キャバクラとスナックはいいわ。人見知りだし。初対面の人と何話していいかわからん。」

「まぁ、そう言わず。付き合いだと思ってさ。ほら、タダでいいお酒飲めるかもしれないからさ。」

あまりにも懇願するかーくんを見て断れなくなった。

「次の日夜勤入りだし、タダ酒しこたま飲んでやる。」

「ありがとう。それじゃようちゃん参加決定で!」


かーくんと約束を交わし、次なるステップである居酒屋をGoogleマップ先生に聞き、乃木坂へと探しに向かった。

空を見上げると鳥の群れがどこかに向かっている。

1日が終盤になることを告げるように茜空へと静かに変わり、街は夜に入る準備をしていた。

ノスタルジックに包まれた街を2人は歩いた。


後日、この参加した新井先生の飲み会でちょっと変わったやつと出会う羽目になった。

独特の世界を持ち、妙に懐かれてしまった。

その出会いが僕の人生を少し傾斜させることになるとは夢にも思わなかった。



最後まで読んで頂いてありがとうございました。

次回、萩原に興味を抱く人を書きます。


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