プロローグ
初めて小説を書きます。
皆様のお暇を潰すことの出来る作品になれば幸いです。
雨が光っていた。
30回目の夏、あの日僕は雨に濡れながら人生初めての球場のスタンド席に立っていた。
雨が降るのは天気予報で知っていたのでカッパを身につけ、バッグには住んでいる市の指定のゴミ袋を纏わせ席の下に潜り込ませていた。
その日は、夜勤明けで体調も優れず頭痛に苛まれていた。
そのうち治るだろうと思ってはいたが、その考えは甘かった。夏とはいえ長時間の雨は疲労した身体の体温を着々と奪っていき、頭痛に拍車をかけていった。
話し相手もおらず紛らわせることが精一杯でかなり滅入っていた。
開演前はそんな感じだった。
それなのに公演開始の映像が流れ、すぐに目を奪われた。OVERTUREが流れる時には頭痛は止んでいた。
頭痛を凌ぐものが次々と目の前で起きていた。
無我夢中になったのはいつ以来だろう。
そんなことを思いながら回想するも記憶が所々ない。
わかっているのは雨に紛れて涙を流している自分がいること。
高揚感だけでは表現できない何かが身体中を走っていて時々身震いをしていること。
脳内は楽しいや切ないでは表現できない感情で満たされていること。
何より、今自分に必要なものはこれだと思う天啓を受けたような感覚があったこと。
花火を見たのはいつ以来だろう。
最後誰と見たんだっけかな。思い出せないくらい昔のことだと思う。
ましてやオーケストラを聴きながら見るなんてこの先あるのだろうか?
あんなにも自分を悩ませた雨が、今は叙情的な演出をしていて美しさと愛しさすら感じる。
花火って綺麗だなぁ。
なんなんだこの場所は。
ここにくる前は仕事や恋愛、将来に不安を抱き人生を窮屈にしていた。
そんな自分が今は自分らしく息をしている。
全てのしがらみから解放され、浄化されたように心が軽い。
むしろ込み上げるものがあり、エネルギーすら満ちている。これがきっとカタルシスってやつなんだろう。
初めての感覚だった。
しばらくその感覚のまま呆然としていたが、はっとした。
鳴り止まない歓声。
僕らに注ぐ眩いナイター塔の強い光。
紫のライトに照らされた誰もいないステージ。
その全てが力強く僕の心を前へ押し進め、一つの願いが感情を揺さぶっていった。
『まだ終わらないでくれ。頼む、もう少しだけこの時間を終わらせないでくれ』
純粋な感情が脳内にダイレクトに浮かびあがる。
バラバラだった歓声が少しづつ一体となっていく。しっかりと聞こえる。
やがて約3万5千人の声が想いとなり、その力はまるで地鳴りのようになっていく。
我らに一点の曇りはないと言わんばかりの熱量が会場を包んでいく。
僕は、ステージを去った彼女達が再びステージに上がってくれることを願い、ただただアンコールを叫んだ。
あの時、僕は全力だった。
記録
2015年8月30日 東京 神宮球場にて乃木坂46真夏の全国ツアー2days初日公演が行われる。
前日にたまたま見ていたSNSにてチケットが余っている人を発見し、運よく格安でチケットを手に入れた男性1名がこの公演にて大きな衝撃を受ける。
あまりにも感動した男性は、次の日の千秋楽に親友を誘い再び参戦し、その年の夏の思い出を手に入れる。
これは、どこにでもいるような介護職の男達が送るなんでもない日常。
時々、乃木坂46や都市伝説を通じて東京観光をし、少し変わった経験したりしなかったり。
頑張って仕事して酒飲んで愚痴吐いて、泣いて笑って時々恋愛?乃木坂愛を語ったり。
そんな他愛も無い日常を日記感覚(の予定)で描く、遅れてきた青春の物語 (になるはず)である。
あまり期待せず、片手間ぐらいで読むのがちょうどいい物語である。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は、主人公の日常と街。仕事ついて触れていきます。