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  作者: 紫堂文緒(旧・中村文音)
4/13

たか

 この鷹は若くて、まだ家族を持っていませんでした。

 鷹はそのことを、今さらながらよかったと思いました。

 家族がいれば、今、巣にもどれなくなった自分はどんなに切なく心配だろうと思ったからです。

 そのことに気づいて、彼の心はほんの少し軽くなりました。




「俺はやはり一羽のままでいてよかったのだ。

 もっとも、これまでいたものが或る時いなくなってしまうのは、心残りもあろうが、じきに慣れてしまうだろう。

 老いたものが去るのは仕方がない。

 喰われていなくなるにしても、別の死に方にしても。

 命はいつか終わるのだ。

 しかし、その命のひとつひとつの死が、今の俺のやりきれなさほど重かったのだろうか。

 こうして今、俺が、自分の捕えた獲物を思い出すのは傲慢か、それとも滑稽か……」



 動けないせいか、鷹の考えは終わることも尽きることもなく、いつまでも堂々巡りを続けるのでした。




 或る夜、珍しく、月に光が部屋の中を明るく照らしておりました。

 …カーテンが閉め忘れられていたのです。

 

 そのようなことは、鷹がこの部屋へ来てから初めてでした。

 窓から見える月が、野山で見ていたのと同じに淡い影のかかった穏やかな光で部屋の中を満たしておりました。



 「あれは月……? 月なのか?」




 鷹は驚いて空を見上げました。



「月はこんなところにもやって来るのか?

 あの月は、俺が故郷で見ていたのと同じものなのか?」



 ところが月のほうも鷹に気づいておりました。

 はく製の鷹が自分を見ていることも、それに命が宿っていることも、月には解りました。

 

 月は鷹に語りかけました。



「どうしたね? 何やら、ずいぶん驚いているようだが」



 鷹はまた驚きました。

 誰かに声を掛けられたのも、ここへ来てから初めてのことでしたから。

 それに、自由に飛び廻っていたころ、月が話をするなんて、見たことも聞いたこともありませんでしたから。


 鷹は答えました。



「……お月さん? あなたはお月さんですか?

 俺が昔、野の上や山の中を飛んでいた頃、空にあった、あのお月さんなんですか……?」



「ああ、そうじゃよ。月は世界にわしひとりしかおらんからの」



「……ああ、それでは、昔と変わらないものもあったんですねえ……。

 俺はまた、世界がすっかり変わっちまったもんだとばかり思っていた」



「……そうだのう、おまえさんはちっとばかり以前とは変わりすぎてしまったようだからのう……」



 月はしげしげとはく製になった鷹を眺めました。



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