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謎の襲撃者 1

 ジリナは後ろに人の気配を感じて、少しだけ振り返った。

「野暮な男だね。わたしは今、夫を亡くして見送っている所なんだよ。」

「申し訳ありません。ですが、そうも言ってはいられませんから。」

 フォーリだった。ジリナをわざと家に帰し、オルもわざと脱走できるようにした。二人がどういう行動に出るかを確かめるためである。

 フォーリは暗がりの中、迷いもせずにオルの亡骸(なきがら)の側にしゃがむと、首筋に指を当てて脈を確かめた。まだ、温かいが脈はなく、絶命している。変な体勢のままだったので、服を脱がせて両手を降ろした。立ち上がるとジリナが持ってきていた荷物の中から、オルの上着を出して亡骸にかける。

 任務上、人を殺すことがあるが、殺しを楽しんでいるわけではない。できる時には死者に敬意を表するのがニピ族だ。

 フォーリは振り返った。

「どっちみち、あなたの夫を動かした者達は、彼を生かしておくつもりはなかったようだ。その上、弩を手に入れるため、接触したあなたをも殺すつもりのようだ。」

「どういうことだい?」

「オルは家族を殺すと脅されていたようです。しかも、記憶を失ってきちんと任務をこなせていなかった。すぐに殺されてもおかしくないが、家族と一緒に暮らしたいなら、協力しろと言われたようです。山中に隠れていた商人の手下が自白しました。」

 ジリナは息を呑んだ。

「…あんた、分かってたのに静観していたんだね。わたしが手を下す前に止めることだってできたはずだろ。」

 ジリナは怒りがこみ上げてきて、弩をフォーリに向ける。

「彼にとっては脅してくる敵に殺されるより、あなたに殺される方が幸せだろうと思いました。それに最後にあなたの本心を聞けた。彼には良かったと思います。」

「あんた、勝手なことを…!」

 ジリナはフォーリを(にら)みつけた。

「あなたはニピ族の掟を知らない。裏切った者に課される制裁は凄絶(せいぜつ)を極める。あまりの痛みに制裁の途中で死ぬ者も多い。だから、そんな制裁を課される前に、裏切りが分かった時点で仲間が殺すことも多い。」

 ジリナも暗がりに目が慣れて、外からの月明かりだけでフォーリの表情が見て取れた。思わず息を呑んだ。あまりに痛々しい表情で、悔しいけれど構えていた弩を降ろした。

「…あんた、それ、した事があるんだね。」

「彼らは私達と随分違う道を歩んでいますが、同じニピ族です。その辺は同じでしょう。その上、遺体でさえも残さないつもりです。」

 フォーリの言葉にジリナは、初めてフォーリが自分を助けに来たことに気がついた。

「あんた、まさか。助けにきたのかい?」

「すでに囲まれています。弩の矢はまだありますか?」

 ジリナは頷き、荷物の中から弩の矢を出した。矢筒に入っていないので、縄で縛ってある。

 フォーリは矢を弩の中に入れた。この弩は十五本連射できるので、一回に入れられる量も十五本だ。矢は基本的に使い捨てだが、一体、どれくらいの矢を頼んだのか、かなりの量がある。フォーリは少し悩んだ末、ジリナに矢を預けることにした。

 渡された矢をジリナは何も言われずとも、すぐにその辺に転がっていた竹筒を矢筒代わりにし、荷物を入れていた風呂敷を使ってくるんで肩からかけた。さらにジリナは床板をはずすと、オル特性の毒が入った小壺を出して、懐にしまう。

 外をそっと(うかが)っていたフォーリは、想像より敵が多いので、出て行く時に弩を使うことにして、準備の整ったジリナに弩を渡した。

「いいですか、私の側から決して離れないで下さい。下手に動かれるとかえって邪魔になりますから。」

 フォーリの言葉にジリナは頷く。小屋の戸はオルが開けたままだった。だが、外が月明かりで明るい分、中は暗くて分かりづらい。フォーリは短刀を抜いた。狭い小屋で動くには、この方が小回りがきく。

 ジリナは緊張しながらじっと待った。フォーリは一体、いつになったら動くのかと思うほどじっとしている。まるで、猫のようだ。いや、猫にしては可愛らしすぎるから、山猫か?いや、ジリナの知っている山猫は可愛い大きさだったから、見たことはないけど、獅子か虎だと思う。

 やがて、相手の方が(しび)れをきらしたらしく、がさがさ、こそこそと動く気配がしてきた。緊張のためか、今さらながらオルの流した血の臭いがやたらとして、気分が悪かった。フォーリが上着を掛けてくれていて良かったと思う。子供達のためにもせめて葬式くらいはしてやりたいのだが、この分ではそれもできなくなりそうだ。

 開きっぱなしの入り口に影が差した。一歩、二歩と中に入ってきた。そして、月明かりが届かない三歩目まで来た途端、フォーリが飛びかかり、首を折って殺した。声を上げる間もない瞬間の早業だ。

 続けて二人がやや小走りで入ってきたが、それも一瞬の早業で急所を一突きで殺した。さらに、数人が入ってくる。さすがに一瞬では終わらず、二人を殺し、一人と揉み合うが太ももを切りつけ、ひるんだ隙に急所を刺した。

 もう一人が飛びかかるが、それも圧倒的な強さで制し、首に短刀を突きつけ、人質にした。盾のようにしながら、遺体で手狭になった小屋から出るため、ゆっくり前進する。ジリナも後を付いていく。

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