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立ち話

2025/07/30 改

 二人が桶を抱えて裏庭から続く通路を歩いて行くと、道のど真ん中でフォーリとジリナが立ち話をしている。二人ともセリナとリカンナの存在に気がついたはずだが、話をやめようとしなかった。戻ろうとすると、ジリナに下がらなくてもいいと言われ、二人は困惑したままそこに突っ立っているはめになる。

 つまり、聞きたくなくても話を聞かなければならなかった。


「…では、若様のお食事はわたしがお作りしましょうか?」


 ジリナの質問にフォーリは首を振った。


「いや、事態がまだはっきりしていない。食材の安全性も分からないから、私が作る。」


 セリナとリカンナは耳を疑った。思わず顔を見合わせる。


(私が作るって、あの人、料理もするの!?…でも、ろくな料理じゃないんじゃないかしら。)


 内心、セリナは疑った。


「では、親衛隊の兵士達の食事についてはどうするんですか?」

「狙いは若様だとはっきりしている。この屋敷には厨房が全部で三つある。そのうちの二つを使用しており、一つが若様専用だ。若様の料理担当が倒れたことからしても、誰が料理担当か把握している者が犯人だろう。」

「つまり、兵士達が一番、怪しいので兵士達の食材には毒は入っていないだろうということですか?」


 ジリナの確認にフォーリは頷いた。


「そのとおりだ。」

「では、兵士達の料理は通常通りに作ります。まあ、村人の誰かが知らずに黒幕に利用されたとしても、兵士達と同じ料理を食べる訳ですから、自分達の食材に毒を入れるような真似はしないでしょうね。」

「そういうことだ。」

「あのう、そしたら、若様のお食事も、兵士達と同じ食材から作ったらいいじゃないんですか?」


 思わずセリナは発言してから後悔した。ジリナとフォーリの二人にじろり、と(にら)まれる。


「若様に安全でないものをお出しする訳にはいかない。」


 フォーリの厳しい声に、だって、あんた今、兵士達の食材に毒は入ってないだろうって言ったじゃないのよ、とセリナは心の中で反論した。


「とりあえず、今日の分はうちの畑から直接、抜いた物を持ってきます。」

「そうして(もら)えるとありがたい。」

「肉類は?」

「とりあえず、今日は私が鶏を一羽つぶす。明日以降については考える。」


 フォーリは言って立ち去った。それを見届けてから、ジリナは二人を手招きした。


「お前達、これからやることを分かっているね?」

「…他言無用ってこと?」


 セリナが聞き返すと、ジリナはセリナの頭をこづいた。


「違うね。何のためにあんた達に、今の話を聞かせたと思うんだい。みんなフォーリ殿の見解を伝えるんだよ。どうせ、噂話に花が咲く。みんな何か知っているか知りたがる。その時、あんた達が今、見聞きした話をするんだよ。」


 セリナとリカンナは顔を見合わせた。


「でも、フォーリさんは承諾しているんですか?」


 リカンナの問いにジリナは頷いた。


「当たり前さ。分かっているから、あんた達をわたしが引き留めて話を聞かせても、黙っていたんだよ。そうでなかったら、追い払われていたさ、最初からね。」

「噂話をするなって言われたり、しろって言われたりどっちなのよ。」


 セリナが文句を言うと、ジリナは笑った。


「まあ、お偉方のやることなすことなんて、わたし達には矛盾だらけさ。だけど、無意味なわけじゃない。上が直接言ったら、それが確定してしまうだろう。だから、間接的にあんた達を使って伝えるのさ。」

「ふうん。」

「とにかく、頼んだよ、あんた達。」


 ジリナも去って、二人はふうっと息を吐いた。


「…ねえ、あんた、あの若様が話しかけようとしても、無視して避けてたでしょ?」


 リカンナが考え込むように言ってきた。


「え? うん。母さんがあまり、馴れ馴れしくするなって言うから。」


 リカンナが聞いたので、セリナは答えた。


「でも、今日くらいは話してあげてもいいんじゃないの?だって、若様だって分かってるでしょ。自分を狙ってのことだって。誰かに話したい時だってあよ。話さなくても側にいて欲しいとか。」


 セリナはリカンナを見つめた。深刻な顔でリカンナは続ける。


「だって、普通は恐いはずだよ。自分の命が狙われてるんだから。」

「…確かにそうよね。」


 セリナはジリナにクビされるよ、とことあるごとに言われていたので、それを恐れて屋敷で働き出してから、若様と話したことはなかった。彼もセリナが避けていると分かったらしく、最近はあまり側に近寄らなくなっていた。ちょっと可哀想だったかも知れない。


 こんな田舎の屋敷にいる時でさえこうなのだから、都にいた時などはもっと頻繁(ひんぱん)に、このようなことがあったのかもしれない。それなのに、クビになることばかりを恐れて、少しも話を聞いてあげなかったことをセリナは少し反省した。


「機会があったら話してみる。きっと落ち込んでいるわね。」


 二人は頷き合って、屋敷に入っていった。

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