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王太子の来村Ⅱ 4

 セリナもジリナも入ってきた人達を目を丸くして迎え入れた。

 まず、シルネとエルナが押し込まれるようにして入ってきた。次に眠っているか気絶しているらしい若様を抱きかかえた、ニピ族らしい人物。そして、王太子と彼に付いてきたカートン家の宮廷医とベリー医師だった。

「驚いているようだ。この中で顔見知りはベリー医師だな。そなたが話せ。」

 王太子の命でベリー医師が前に出てきた。

「これは、若様のお命を狙う者をあぶり出すための罠なのです。」

 セリナとジリナは顔を見合わせた。

「じゃ、じゃあフォーリさんがいないのも、わざとそのためですか?相手を油断させておいて、動くのを待つという?」

 セリナの質問にベリー医師は頷いた。

「じきにフォーリが犯人を連れてくるでしょう。驚かれないといいのですが。」

 セリナは首を(かし)げた。隣を見るとジリナが苦い顔をしている。

「…母さん?とにかく、顔見知りだってことでしょう。それは、分かってます。だって、あまりにこちら側の動きを把握しすぎです。内部にいるから、分かっているとしか思えませんから。」

 そんな説明がなされている間に、部屋にあった小さな寝台にニピ族らしい人物が若様を寝かせ、もう一人のカートン家の医師が診ている。どうやら、ニピ族はそのカートン家の医師の護衛らしい。

 若様は眠っていれば、完全に男装の美少女に見える。とても可愛らしいのでずっと見ていて見飽きない。シルネとエルナもじっとみとれて見つめていたが、セリナは気になっていた。

「先生、この二人が泡吹いて気絶したのって、実は先生方が一服盛ったんですか?最初から殺す気が無い感じを受けましたし、罠だったというのなら、そうでないと変ですよね。実は料理ではなく、水かなんかに入っていたとしても、殿下の料理をつまみ食いしているから、どれに入っているか分からないし、大騒ぎになる。

 そして、早く出て行かないと危ないという状況を演出できるじゃないですか。こちらが慌てている様子を演じる事で、敵も油断して急いで事を起こし、し損じるってことでしょ?」

「…あー、それは……。」

 答えに(きゅう)しているベリー医師を見て、王太子が吹き出した。

「なるほど、グイニスが気に入るわけだ。なかなか賢いのだな。」

 さすがのセリナも王太子が口を開いたので、緊張して黙り込んだ。今まで見ないようにすることで、緊張を緩和させていたのだ。フォーリが一目置いている頭の切れのいい王太子だ。

「お前の推測通りだ。グイニスに知られたら気にするから、気絶させた。…だが、これからやってくる犯人については、お前も意外な人物だろう。母の方は知っているようだが。」

 セリナはジリナを振り返った。一体誰のことなのか検討もつかなかった。

 それから、しばらくしてその犯人が連れてこられた。セリナは静かにしている間、ジリナの様子が気がかりだったので、母の側にいることにしていた。王太子はジリナの縄を解くようには命じなかったので、縛られたままだった。

 それもそのはずだ。フォーリとポウトに縄で縛られた上に、がっちりと両脇を固められている人物を見て、何が起こっているのか理解できなかった。

「…父さん、なんで?」

 混乱してフォーリをはじめ、他の面々の顔を見回した。

「父さんなわけ、ない。だって、父さんは真面目に養蜂をしたり、山や森で木の管理をしたり、そんなことしかできない人よ…!だって、父さんはわたしにそんな事をしていいのかって、パンを焼いた時に心配して注意してくれたのに…!だから、父さんなわけ……。」

 言いながらセリナは気がついた。

(父さんならできる。どれに毒を振りかけたらいいのかも分かってた。)

 分かってしまって、それでも納得できなかった。生真面目で優しくてどこか鈍くさくて。それでいて、家族に何かあったときは頼りになって。それに何より、セリナを拾ってくれたという恩人だ。家族の中で誰よりも尊敬していたのに。

「…嘘よ、嘘よ、絶対!母さんも何か言ってよ!こんなの間違ってる!だって、父さんなわけないって母さんだって分かってるでしょ!なんで、いつもみたいに言わないのよ!止めてよ、父さんが犯人にされちゃう!」

 縄で縛られたままの母を揺さぶった。

「黙りなさい、セリナ!」

 苦い顔で黙り込んでいたジリナが怒鳴った。どこか悲鳴のような怒鳴り声は、聞いたことがなくて、セリナは思わずびくっとして、ジリナから手を放した。

「お取り込み中、申し訳ありませんがセルゲス公が起きてしまいます。お静かにお願いします。」

 若様を診ていた医師が一瞬の空白を見事に縫って、そんなことを申し出た。

「…とにかく、セリナ。あんたは黙っていなさい。分かってるはず。父さんでなきゃ、あんたの作ったパンに毒を振りかけられない。他にも言おうか。父さんでなきゃ、若様を山から(さら)って、村人しかしらない崖っぷちに連れて行くことはできない。」

 静かに迫力ある声のジリナに言われて、セリナは黙り込んだ。オルは黙り込んだまま何も言わない。だが、いつもと違う目をしている。いつもの家にいる時の父の顔ではなかった。

 その時、ヴァドサ隊長が入ってきた。

「失礼致します。こちらも終わりました。逃した者は今の所、いないと思われます。」

「分かった。」

 王太子が頷く。

「では、安全も確保できたので、我々は部屋に戻ると致しましょう。」

 若様を診ていた医師とベリー医師が立ち上がった。宮廷医の護衛らしいニピ族が、眠っているらしい若様を抱きかかえて出て行く。

 セリナはぼんやりとそれを見送った。若様はこの場にいない方がいい。それだけは理解できた。

「それでは、尋問を始めようか。」

 王太子の一言で尋問が始まったのだった。

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