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王太子の来村Ⅱ 3

 馬車がゆっくり村の大通りを進んでいく。王国の家紋がついた立派な六頭立ての馬の馬車だ。御者も立派な服を着て、馬を操っている。馬達も自分達は特別な馬だと理解しているのか、どことなく格好をつけて馬車を引いていた。

 村人達は突然の王太子殿下のお帰りに、作業をやめたりしながらそれを眺めた。農閑期ではあるが比較的温暖な気候なので、穀物を育てる畑の準備は必要だし、冬野菜を育てる畑は毎日手入れをして、収穫できるものは収穫する。

 途中の両側が林と森が広がる場所にやってきた。この森は人工の森で、必要な木材はこの森から切り出す。林の方も同じだった。そう言う場所が、村中に点在している。

 ここの村人は、樹木の手入れが得意な方ではなかった。そのため、決まった数人が知識のある人から習って行っている。今日、この場所には誰もいない。王太子が滞在している間は、街道筋の森や林に入らないことになっているからだ。管理する場所は広いので、その間は他の場所の手入れをすればいい話である。みんな、そっちの方に行っていた。

 突然、ゴ、ゴーンという激しい音と地鳴りがして、馬車馬達がいなないて飛び上がった。地面に大きな丸太が転がってきたのだ。幸いにして、馬車に当たる前に少し斜面の方に転がっていった。御者は胸をなで下ろしつつも急いで馬を宥めようとする。

 そうこうしている間に、矢が飛んできた。馬に当たり、馬車が暴走を始める。御者は速やかに客車と御者席を切り離した。こういう時、後ろの貴人が被害を被らないように、切り離すことができる仕組みになっていた。御者は命がけで馬を制する任務に当たらなければならない。暴走する馬をなんとか、宥めるかしなければならないからだ。

 客席の部分を残し、馬は行ってしまった。残されたのは、中に乗っている人達だけだ。動けない客席の部分にめがけ、丸太が次々と落ちてきた。中の人物が急いで出て、鋭く笛を吹いた。

 途端に国王軍の兵士達が現れた。彼らは統制の取れた動きで素早く班に分かれて、森と林に分け入った。

 客席から出てきた人のために、馬が引かれてきた。もうすでに丸太は落ちてきていない。

「まったく、二度も同じ手を食らうか。」

 シークである。副隊長のベイルが御者を追って行った。村にできるだけ被害を出さないように、手伝いに行ったのだ。

「さて。フォーリの作戦は上手くいくかな。」

 シークは誰に言うでなく呟いた。

 その頃、もう一台の馬車が村の別の小道を走っていた。遠回りだが村外の側を走る街道に直接出ることができる道である。

 その馬車は倒木に道を塞がれて、仕方なく停車した。遠回りで木々が生い茂っているため、村人達はあんまり使わない。木々に覆われて昼間でも薄暗いからだ。その上、小川も近くにあって霧も出やすかった。

 実はこの森も人工の森だ。家を建てたりする時用の木を育てているが、家はしょっちゅう建てるわけではないので育ってしまい、大木がたくさんある森になっていた。

 馬車が止まって立ち往生しているのに気がついた村人が、作業をやめてやってきた。村に王太子殿下が来ているのは知っている。きっと、その関係者が早く街道筋に出ようとこの道を選んだ。そう考えるのが妥当な状況だった。

「あのう、大丈夫ですか?ここは、めったに人が通らないですから。」

 顔に傷のある男が御者に言った。

「どう致しましょうか。倒木が道を(ふさ)いでいます。」

 御者は客車の小窓を開けて中の人物に尋ねた。

「木は()けられそうか?」

 中からポウトの声がする。間違いなく王太子付きのニピ族の護衛の声だったので、村人は確信した。この中に王太子と王子が間違いなくいると。

「二人がかりならばなんとかなります。」

 二人の会話を聞いていて、村人は内心ほくそ笑んだ。だが、表情にはおくびにも出さず、丁寧に申し出た。

「ワシも手伝いましょう。まさか、人が来るとは思わなんで、まだ、避けてなかったんです。申し訳ねえです。」

「そうしてくれ。人数は多いほど助かる。」

 中からポウトが言い、馬車の扉を開けて下りてきた。ちらりとしか見えなかったが、他に誰かいる様子だ。

「これなら、なんとかなりそうだな。」

「はい。私がこっちを引くので。」

「こちらから押そう。」

 二人はさっそく作業を始める。

「ワシは縄を持ってきます。ちょっと、向こうに置いてあるんで。」

 完全に村人だと安心している様子だ。王太子が来るまでは妻も娘も信用されていた。王太子が来てから急に動きが変わってきた。だから、今日が最後の機会だ。それに、運良く王子の護衛がいないので、自分が誰かは王太子の護衛は理解していない。

 二人が作業している間に、音もなく馬車の扉を開ける。

(!しまった!)

 後ろに瞬間的に飛びすさったが、一歩遅かった。鎖骨の真ん中に鉄扇が打ち込まれる。

「ぐはっ。」

 わざと骨の上を叩かれたのだ。それでも、強烈な痛みが走った。少し上の骨がない所なら喉が潰されていた。

 分かっている。後ろにはもう一人のニピ族がいる。御者も国王軍の兵士だろう。完全にはめられた。時間がないと焦ったのがいけなかった。やはり、時間をかけるべきだったのだ。この分だと他の仲間も捕まってしまっただろう。

「あなたをあぶり出すのに苦労しました。」

 馬車の中からフォーリが出てきた。

「誰もあなたがニピ族だったとは、思わない。私も意外でした。ジリナさんに話を聞くまでは。」

 フォーリが近づいて来た。自害するかと動こうとした途端、後ろから体のあちこちに鉄扇を打ち込まれた。気絶もせず、動けなくなる場所だ。

「…ぐっ。」

 痛みに耐えるため、一瞬、息を止める。脂汗が流れた。動けなくなった所で、二人のニピ族に両脇から(つか)まれた。そのまま、馬車に連れ込まれる。扉が閉まり、馬車が狭い場所で器用に方向転換した。御者の腕はかなりの腕である。馬の扱いが巧みだ。馬車の車の性格もよく知っている。

「さて、話を聞かせて貰いましょうか、オルさん。あなたの奥さんも娘さんも待っています。」

 フォーリは静かに話すが、努めて平静を保っているのだと分かる。屋敷の様子は常に(うかが)っていた。領主から人がやってきた時、王子に手を出そうとした者達に対し、フォーリは怒り狂っていた。今は静かだが、その時と同じ目をしている。本当は今すぐにでも殺したいのだろう。

 オルは同じニピ族でも、忠実に誰かに仕えるというような訓練は受けなかった。ただ、命令のままに殺すように訓練を受けてきたのだ。それが本当のニピ族の役目だと教えられていた。

 だから、フォーリ達のようなニピ族達は異質に写る。自分達と同じニピ族なのに、彼らは自分達のことを知らない様子だ。 

 もう一人の王太子の護衛のニピ族も、黙ってはいるが怒りを抑えている様子だ。王太子も巻き込まれる可能性があったからだろう。

 失敗したが焦りはない。いくつか他にも腹案は用意してある。それでも、今まで以上に動きにくくなるのは確かだった。

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