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王太子の来村 4

 泣き顔を隠す余裕などなかった。とにかく急いで部屋に戻りたかった。ポウトがあまり見られないように隠してくれているが、それでも侍女や侍従が驚いている。

 部屋に戻るなり、タルナスは長椅子に座り込んだ。我慢しなくていいと思えば、涙が勝手に流れてうつむいた先の長椅子の上のクッションの上に落ちていった。

 あまりに悲しくて、胸が痛かった。

「…殿下。」

 ポウトが側にしゃがんで、背中をさすってくれる。

「……どうしたらいい?どうやって、グイニスに罪を(つぐな)ったらいいのだ?」

 なんとか、嗚咽(おえつ)の合間にそれだけ言えた。

「殿下のせいではありません。殿下の罪でもありません。」

 タルナスはポウトにしがみついた。そう言って貰いたかったから、さっきの質問をしたのだ。タルナスだってそう思いたかった。十八歳にもなって、護衛にしがみついて泣いて、慰めて貰うなんて、情けないと思うがどうにもならなかった。

 どうしたら、いいのだろう。そればかり、頭の中を巡る。母親のしたことなのだ。それを関係ないと簡単に割り切れない。割り切れないから苦しかった。本当にあれが母親なのだろうか。なぜ、あんなにも残酷な真似ができるのだろう。

 少しだけ幸いだったのは、父のボルピスが知らなかったことだ。父はもっと幼い時のグイニスを可愛がっていた。だから、グイニスにもその時の記憶はあるだろうから、その思い出が汚されずにすんだのは幸いだった。

「殿下、宮廷医のランゲル・カートンが参りました。」

 侍従のクフルが告げた。声は聞こえていても、顔は上げられなかった。

「殿下。いかがなさいましたか?」

 タルナスの代わりにポウトが伝える。

「…私は…私はどうしたら、いいのだ?グイニスのこの傷は、()えないだろう。私はどうやって、この罪を償えばいい?」

「殿下の責任ではありません。どうか、お心を痛めないで下さい。」

「でも…母の犯した過ちだ。知らんふりはできない。ずっと、疑問だった。グイニスは私の事を忘れているほど、混乱していた。そんな酷い仕打ちを受けていたのだ。そんな目に遭えば忘れても仕方ない。」

 タルナスはすすり泣いた。

「…私は……死ぬしかない。父上と母上を殺し、私も死ぬ以外に罪を償う方法がない。もう、これ以上、罪を犯す前に息子の私が止める以外に方法はない。」

「殿下、それだけはなりません。」

 ずっと黙って聞いていたランゲル医師が、静かだがはっきりと言う。

「殿下がお亡くなりになれば、今度はセルゲス公が苦しまれます。自分のせいで、殿下を死に追いやってしまったと、後悔されます。ご自分の方が死ぬべきだったと思われる可能性だってあります。」

 グイニスのことを言われ、タルナスは少し冷静になる。

「それに殿下、私も気になっていることがあります。」

 めったに口を挟まないポウトが発言した。

「何者が犯人なのかは分かりませんが、この一連の騒動の裏には何者かがいて、様々なことを画策しているように見受けられます。何が目的なのか、今までよく分かりませんでしたが、もしかしたら、その真犯人の目的はこれかもしれません。」

 思わずタルナスは少しポウトを振り返った。

「…それは?」

 ポウトは分かっているのだ。タルナスがこういう話を無視できないことを。普通ならこんなに苦悶している時に、このような話は持ち出さないだろう。だが、タルナスには効果てきめんだと知っている。

「王室を分裂させることです。もし、それが目的なら、その作戦は成功しているでしょう。もし、殿下がご両親を害した後、自害なされたら、最大の目的を達成したことになりませんか?」

「……それは、確かにそうだ。」

「仮にそうなれば、残されたグイニス様はどうなりますか?姉君のリイカ様は遠く離れた国境におり、一人、孤軍奮闘しなくてはならなくなるのです。もしもの話ですが、フォーリは大変有能な男ですが、それでも守り切れず、グイニス様がお亡くなりにでもなられた場合…。」

「そのとおりだ。直系の王族のほとんどが死に絶えてしまう。私の弟達が生きているが、私やグイニスが仮に死んだ後だったら、私達よりも簡単に殺せるはずだ。」

 タルナスは自分でも呆れるほど早く、もう冷静さを取り戻していた。ポウトが差し出してくれた手巾で涙や鼻を拭う。

「手をお出し下さい。」

 ランゲル医師に言われて左手を差し出した。悲しいことや苦しいことがあると、左手で胸の辺りの服を握りしめるくせがあり、今もくっきりと(しわ)になっていた。

「殿下、胸が痛いことはありますか?」

「先ほどは、驚きと怒りと悲しみのあまり、胸が痛かった。グイニスのことを考えれば胸が痛む。表現ではなく、本当に胸が痛くなって……。」

「殿下、その時、息苦しさはありませんでしたか?」

「…よく分からない。たぶん、息苦しくはなかったと思う。」 

「分かりました。後で気持ちが落ち着くお茶とお薬をお持ちしますので、それをお飲み下さい。」

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