悔しがる姉たち
「え、なんで?なんで、あんたがお屋敷に行けるのよ…!?」
ダナが声を裏返しながら大声を出した。ちゃんと粉をひいてきたのにも関わらず、別荘から人が来て、セリナに細かい説明の日時を伝えに来たからだ。ちなみに母のジリナも行くことになっている。昔、ご領主様のお屋敷で働いていたことがあるからだ。
使者が帰ってから、ダナもメーラも詰め寄ってきた。
「なんで、どうしてよ。あんた粉ひきをしに行ったはずじゃないのよ…!あんたが手間取って、確実に間に合わないようにしたはずなのに!」
「なるほど、そういうことかい。」
ジリナは最初から決まっているので、面接はなかった。それでも、手伝いに別荘に行っており、家にはいなかった。
ジリナの声にダナとメーラは唇をかみしめた。
「それで、セリナ。わたしも聞きたいね。お前は面接に間に来れなかったのに、どうして行くことになったんだい?」
腕を組んで返事を待つジリナに嘘をつくなどできない。セリナは素直に昨日の件を白状した。すると、ジリナが笑い出した。
「お前達、馬鹿だねえ。もしかしたら、普通の面接ではセリナは落とされたかもしれないんだよ。あの護衛がただ者ではないからね。容姿端麗なセリナは落とされだだろうさ。それが、若様じきじきのご指名を受けるとは。」
ジリナは青ざめるダナとメーラを横目に大笑いしてから、セリナにきつく言い渡した。
「いいかい、あの護衛の前で、決して若様に色目を使うんじゃないよ。一度でも使おうものなら、すぐに追い出されるだろうよ。しばらくは大人しくしてるんだね。信頼を得るまではね。」
「…母さん、何を言ってるのよ。わたし、色目を使うつもりなんて、ないけど。大体、あの若様の様子からしても、単純に村はどんな所なのかとか、そんな話を聞きたいだけだと思う。」
セリナの言葉にジリナはふん、と鼻先で笑った。
「まあ、いいさね。いつまでそんなことを、うそぶいていられるかね。あんな容姿端麗な子が本当にいるとは。まあ、護衛も苦労が絶えないだろうよ。」
ジリナはダナとメーラに罰として、半年間の粉ひき係に任命し、農作業をするように外へ追い出した。
「それからね、セリナ。あんた、昨日は命拾いをしたんだよ。その若様が止めてなきゃ、馬鹿者どもと一緒に殺されてたかもしれないよ。」
「え、どいういこと?」
「いいかい、覚えておおき。王族の護衛っていえば、ニピ族に決まってんだ。話くらいは聞いたことがあるだろう。このルムガ大陸一だという武術を持ってる一族だ。自分で仕える主を決め、決めたら一生、変えないそうだよ。ニピ族を怒らせることは決してだめだ。怒らせることはただ一つ。主に手を出すことだよ。どんな形であれね。」
セリナは唾を飲み込んだ。昨日の怖い空気を思い出した。恐怖で息さえできなかった。
「怒らせたら、どうなるの?」
「分かってるだろう。殺されるのさ。お前、その護衛が扇子を持ってたって言っただろ。ただの扇子じゃない。鉄でできた特別製でね。彼らの武器さ。それで、叩かれたら一発であの世行きだよ。一瞬だ。」
だから、その護衛を決して怒らせるんじゃないよ、とジリナは釘を刺して出て行った。本当に殺される所だったんだとセリナは改めて思い、ふうっと息を吐いた。準備をしながら、リカンナにも言っておこうとセリナは思ったのだった。