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ベブフフ家の使者 2

「すみません。少しですから気にしないで下さい。大丈夫です。」

 シークは恐縮し、急いで食事を始めた。他の男ならガツガツ食べるだろうが、上品に礼儀正しく食事をする。ジリナはそれをゆっくり観賞しつつ、水差しの水をガラスの椀に注いだ。親衛隊になるには、いくつか条件があることをジリナは知っていた。

 まず、礼儀作法と言葉遣いがきちんとしていること。次に顔が整っていることだ。三番目に武術の腕である。そもそも、親衛隊候補に挙がる時点で、ある程度の猛者が選ばれているので、礼儀作法と顔の方が選ぶ上で重視されるのだ。

 だから、模擬戦でいくら強くても、親衛隊になれない部隊は必ずある。最初に親衛隊の隊長にしていいなと思う人材がいたら、その隊長にする者の部隊に次々に、礼儀作法と顔の整った隊員達を部下として送っておく。そうして、将軍達はその中から、どの部隊を親衛隊にするか決めるのだ。

 かつて、王宮で侍女をしていたから、しかも王妃の侍女であったという、かなり上の方にいたから分かる事実だった。

 シークは急いで食べ始めたものの、ふと護衛の部下達の姿がないことに気がついた。ジリナはもうダメだな、と勘づいた。部下達二人がいつも座っている椅子を眺めている。

 そして、咀嚼(そしゃく)しながらはっと気がついた。

「もしかして、今日、ベブフフからの使者が来る日なのでは?」

「ええ、そうですよ。でも、フォーリさんもベリー先生も、部下の皆さん方もみんな、あなたは休ませて自分達だけで対応するつもりのようでしたよ。そう聞いていますけど。」

 ジリナは素知らぬ顔で答える。

「ダメです、私が行かなくては。万一、隊長がいないと知られたら、どんな言いがかりをつけられることか。」

 シークは急いで水を飲み干すと、盆を台の上に乗せて寝台から降りた。急いで引き出しを開け、下着を取り出した。着替えようとして、ジリナの存在に気づいて振り返る。

「大丈夫、大丈夫、気にしなくていいんですよ、息子が何人もいるんですから。それより、さあ、早く着替えないと。広間に行くなら時間が無いですよ。」

 ジリナは積極的に彼の寝間着の帯を解き、寝間着を脱がせるために引っ張る。シークは困惑していたが、急いでいるのもあり、仕方なくジリナを追い出すこともせずに、そのままにした。

 シークは急いで顔を洗った後、包帯の上から下着を身につけ、制服を着ていく。ジリナはそれを手伝った。さすがに下の方は履き替えずに上からズボンを履いた。最後の難関が髪の毛だった。

 大急ぎで結んだが、下の方が乱れて一束結び忘れてある。思わずジリナは吹き出した。

「ダメです、ダメダメ、それじゃあ、親衛隊が笑われますよ。ほら、座って。私が結んであげます。時間が無いですよ。それこそ、言いがかりつけられたら、どうするんですか。」

 最後の言葉が殺し文句で、ジリナは無理に座らせると勝手にシークの髪を梳いて結び直した。

「申し訳ありません。」

 シークは恐縮しているが可愛いものだ。

「よく、結び方をご存じですね。」

 国王軍では決まった結び方をする。ジリナは前から知っていたが、こう答えた。

「皆さんの結び方を見て覚えました。はい、できました。」

 シークは礼を言いながら急いで立ち上がり、帯剣した。あまりに急いだので、少し呼吸を整えている。毒を飲んで弱ったという話は本当のようだ。

「大丈夫ですか?少し顔色が悪いですよ。」

「大丈夫です。ありがとうございました。」

 こうして、シークは大急ぎで広間に向かっていった。ジリナは後ろ姿を見送ると、ため息をついた。

(可愛い…。お隣のノンプディ様が惚れた理由も分かるさね。世話の焼きがいがある。)

 ジリナは一時、余韻に浸っていたが、やがて、気を取り直してその辺を片づけて整えた。最後に窓も閉めて盆を持ち、確認してから鍵をかけて出た。

 厨房に盆を置いてから、広間に自分も顔を後ろから覗かせようと思ったのである。

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