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ベブフフ家の使者 1

 領主の使いが来てから数日後、横柄な態度だった領主の使いがぺこぺこしながら、領主の代理という男と共に現れた。その領主の代理は、ベブフフ家の領地の一番の街、シュリツで屋敷を預かる執事らしい。彼は数日前に来た横柄の態度の使いより、横柄さはましだったが、その分、悪知恵が回りそうだった。

 まだ、顔色の悪さが残る若様は、それでも一応、服に着替え、その執事と客間で面会した。

 どういう話をしたのか分からないが、そう時間も経たないうちに彼らは出てきた。フォーリと顔色の悪い若様、そして、シークの代理のベイルだ。

「大体、ご領主様が若様に善意でこのお屋敷をお貸ししておりますのに、様子を見に来た我らにもてなしの料理の一つも出さないとは。」

 先日の王へな態度の使いが偉そうに言う。使いの使いのくせに偉そうだ。どうやら、食材がぎりぎりで、この客人達に出すための余裕はないらしい。それが不満だったようだ。

「お言葉ですが、それは違います。陛下のご命令です。それにあなたの仕えているご領主殿が、お答えしただけです。私共は陛下のご命令で殿下をお守り致しておりますが、その親衛隊の食料もぎりぎりというのは、ご領主殿のご命令ではないだろうと考えを巡らせております。」

 若様でもフォーリでもなく、ベイルが言葉を返した。セリナでも分かるほど、痛烈な皮肉だ。わざと食料を少なく支給しているのではないか、と言っているのだ。

「お前にそんなことを詮索する権限はない。」

 領主の執事が高飛車に、ベイルに手を振って下がらせようとした。

「お言葉ですが、あなたは一領主の執事の一人に過ぎず、私は国王陛下の直接のご命令で動く国王軍の親衛隊の兵士です。陛下より特別な命を受けており、直接の陛下の命がなくとも、己の判断で裁量してよい権限を頂いております。まあ、執事殿は百も承知でしょうけれども。」

 副隊長のベイルが、こんなに皮肉を言える人だと知らなかった。隊長のシークは具合が悪いのだろうか、まだ、怪我が治っていないのか、今日も出てきていない。ジリナもそこに行ったきりのようだ。

 もしかしたらジリナは、領主であるベブフフの屋敷で働いていたことがあったので、顔見知りで会いたくないとかあるのだろうか。

 とにかく、村娘達の頭であるジリナも、親衛隊の頭であるシークも、この場にいなかった。

 領主の執事は、暗にお前より私の方が偉いと言われて黙りかけたが、静かにフォーリの隣に経っている若様に目をつけると、傍目にも嫌らしくニタリと笑った。


 領主の使い達が来るしばらく前、ジリナはシークが療養している部屋にいた。昼食を運んできたが、静かに寝息が立っていて眠っている。

「ジリナさん、ちょうど良かった。今日はさすがに行かないとまずいんですよ。人数でも数えられたら足りないとバレて、どんな言いがかりをつけられるか分からない。」

 モナ・スーガという隊員がジリナが現れた途端に言ってきた。そう、領主であるベブフフの使いが来るからだ。どうも、以前のノンプディ家の所領にいる頃、いざこざがあったらしい。隊長のシークが嫌われているのもあるだろう。

「隊長、一人くらいならなんとかなりますが。副隊長が隊長のフリくらいできますから。幸いなことに、あいつら、隊長の顔を知らないから。副はロモル辺りがなりすませば、ごまかせるけれど、三人足りないのはまずい。一人なら便所に行ってますで言い逃れできるし。

 そういうわけで、よろしくお願いします。何かあったら、その呼び鈴をガンガン鳴らして下さい。フォーリが聞きつけて行きますから。フェリム、行こう。」

 モナは早口で一気に話すと、二人は頭を下げて大急ぎで部屋を後にした。

 こうして、ジリナは一人、シークの側に座って彼の寝顔をじっくり観賞して癒やされていた。セリナは地味だと思っているが、彼の顔は顔の部位の大きさや形や配置が均等で整っていて、端整な顔立ちだ。華やかさはフォーリや若様に負けるが、派手ならいいというものでもない。

 ジリナは素早く辺りを見回した。誰もいない。振り返っても窓の外を見ても、ニピ族でも無い限り、二階の部屋に外から来るのは(むずか)しいだろうが。とにかくいない。ジリナはニンマリ笑うと、シークの額に口づけした。久しぶりに心臓がドキドキしている。

(久しぶりに女を満喫できそうだねぇ。)

 そう思った矢先、人の気配に気づいたのか、シークが目を覚ましたらしく身じろぎした。ドキッとしたが、ジリナは何食わぬ顔で彼から体を離した。

「おや、お目覚めですね。よく寝ていましたよ。どれ、熱がないか調べましょう。…うん、大丈夫そうですね。」

 まだ、寝ぼけているシークの額に手を当て、さりげなく拭いた。真面目でうぶそうな青年を騙せる自信はある。

「…ジリナさんでしたか。もう、そんな時間だったんですね。」

 まだ、どこかぽわっとした様子でシークは言った。

「ええ。でも、あんまりぐっすり眠っているようでしたから、しばらくそのままに。でも、そろそろ起きてお食事をした方がいいと思いましてね。」

 シークはゆっくり体を起こすと、あれ、と考え込んだ。

(もしかして、広間に行くって言うんじゃないだろうね。)

 そう思ったジリナは、考える(ひま)を与えずに昼食が乗った盆を差し出した。

「ほらほら、お食事ですよ。どうぞ。もう、冷めてしまってますがね、これ以上、冷たくならないうちに。」

 ジリナはシークに体をくっつけるようにして、盆の上から(さじ)を取り上げ、食べさせようとする仕草をしてみせた。

「!ああ、自分で食べます。」

 すると、ジリナの計画通り、シークは慌てて考えるのをやめて、急いでジリナの手から匙を取り上げ、盆を引き寄せようとしたが、ジリナが強めに盆を押さえていたので、計算通りスープが溢れて彼の寝間着にかかった。

「ああ、わたしったら、ごめんなさいね、つい、子供にかまうみたいに、余計なことを。」

 言いながら、急いで布巾で寝間着にかかったスープを拭いた。

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