盗み聞き 7
「セリナ、ちゃんと盗み聞きしてたんなら、分かると思うけど、ヴァドサ殿が寝込みを襲われた話もしてただろ。だから、言っちゃダメなんだ。家でもうっかり漏らすんじゃないよ。」
セリナは頷きながら、疑問に思った。家でも漏らすな、というのは分かる。セリナだって、先日の事件は頭にこびりついている。きっと、セリナの後をつけて父オルとの会話を盗み聞きされたに違いないと。
「親衛隊を代えるために何度も襲われたっていうようなこと言ってたけど、親衛隊を代えるためって、どういう意味?若様も親衛隊は、隊長さんじゃないと嫌だって言ってたけど。」
ジリナは少し深刻な表情でため息をついた。
「お前も王妃様が若様を嫌っていることくらいは、分かっているだろ?」
「うん。」
「王太子様の邪魔になると思って、殺そうと狙っている。」
「…狙ってって……。」
後は言葉にならなかった。つい先日の事件を見れば明らかだ。今の王妃様は若様のことが邪魔だから、殺したいのだと。若様がシークが親衛隊じゃないと嫌だと言うのは、彼が王妃の言うことを聞かない、つまり、王妃の息がかかっていない人だということだ。
「分かったかい?ヴァドサ殿は王妃様の息がかかってない、ということだ。だから、ヴァドサ殿を殺すなり、社会的に抹殺するなり、何かして追い落とし、王妃様の息がかかった親衛隊に代えようとやっきになっている、ということだ。
この間の事件をみても分かるとおり、この村にもそういう奴らが来ている。だから、あんなことが起きた。この間の事件も、口を滑らせたら親衛隊の交代に十分な口実になる。そうなれば、若様は抵抗できない。だから、余計に誰のせいでもないと、若様は言われたんだ。
もし、親衛隊が交代されてしまったら、どうなるか。セリナ、お前も分かるね?」
まさか、そんなに重大な話に繋がっていくとは思わず、セリナは驚いてしまっていたが、よく考えたらそうなのだろう。母のジリナのこういう話に間違いは無いので、セリナは神妙な顔で頷いた。
親衛隊の隊長の命は、若様の命に繋がる。本当に盾となって守っているのだと分かった。ただの地味な人ではなかったらしい。今までとても失礼なことを思っていたと反省しつつ、誓うようにはっきり口にした。
「若様の命を守るためにも、絶対に隊長さんのことを口外しない。そして、村の人にも事故だって言っておく。村で唯一、事件の目撃者っていうか、当事者だったわたしがそう言えば、そうなのかもしれないって、みんな思うかも。」
「お前も頭が回るようになってきたじゃないか。そういうことだよ。」
「へへへ、やっぱりそうかな。」
セリナは照れ笑いをした。
「それはそうと。セリナ、仕事をサボってんじゃないよ…!盗み聞きした罰、ここの裏側の通路の掃き掃除、お前が五日間するんだからね…!」
このまま忘れてくれたらいいな、と思っていたが、やっぱり忘れてくれていなかったのだった。
その様子を陰から見守っていたフォーリは、素早くシークが療養している部屋に入った。もちろん、ニピ族が好きな上階の窓から入り込む。
ベリー医師も待っていたので、フォーリの気配にすぐに窓に向いた。
「あの親子だが、誰にも言うつもりはないようだ。母のジリナは娘のセリナに、決して言わないように釘を刺していた。家でも言うなと念を押していたし、ヴァドサのことをうっかり言ってしまうと、若様にも影響する可能性があることも、ジリナは説明していた。」
「なるほど、ご苦労さん。フォーリ、お前はどう思う?ジリナさん達親子のことを。」
ベリー医師の言葉に、フォーリは軽くため息をついた。
「あの母娘については、若様を守ろうとしている時点で、白だろう。」
「ヴァドサ隊長は?」
「私も同じ意見です。」
ベリー医師は頷いた。
「私もだ。ただ、ジリナさんは、いろいろと鍵になる人だ。彼女の行動は把握しておいた方がいい。頼みますよ、ヴァドサ隊長。きちんと彼女を見張って下さい。」
「見張ってって…彼女は食事を運んでくるだけですよ?」
ニヤリと笑って言ったベリー医師に対して、シークは不思議そうに首を傾げる。フォーリは思わず鼻で笑ってしまった。さっきのジリナとセリナの親子の会話を思い出してしまったからだ。シークがジリナの好みだと分かり、娘のセリナはびっくりして引いていた。
「まあ、それでも、一番彼女と接する時間があるわけですから。案外、フォーリは必要最低限しか、ジリナさんと接しないし。私はなおさらですし。」
澄ました顔でベリー医師が説明すると、シークは納得した様子で頷いた。
「確かにそれはそうです。」
「じゃあ、ゆっくり休んでいて下さい。狩りで山中を歩き回って、体力が戻ってきていたとはいえ、先日のは厳しかったので。」
ベリー医師は伝えると、フォーリと戻ったのだった。




