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盗み聞き 6


 シークの部屋を出たセリナは結局、母にじきに捕まった。(ほうき)を回収している所でジリナに捕まったのだ。

「こら、セリナ。逃げようとしたって無駄だよ。」

 ジリナに(にら)みつけられて、セリナは肩を落とした。やっぱり、ジリナの説経からは逃れられないらしい。誰もいない所に来てから、ジリナはセリナを振り返った。

「まったく、お前って子は、もう。何やってんだい。盗み聞きなんてはしたない。」

「ごめんなさい。」

 とりあえず、もう一度謝っておく。

「言っておくけど、さっき聞いた話は、誰にも言っちゃいけないよ。」

 ジリナに言われなくても、そのつもりだ。たとえリカンナでも言えない。いや、リカンナに言ったら首を絞められそうだ。なんせ、リカンナは親衛隊を見張っているうちに、隊長のシークに片思いをするようになっていたから。

 セリナと言えば人に言っておいて、あんまり親衛隊の見張りをしていなかった。

「…言われなくても、言わないよ。だって、ベリー先生の嘘、あんまりじゃない。あんなこと言われたら、誰でも怒ると思う。」

 セリナが言うと、ジリナも(うなず)いた。

「分かってるならいいさ。なんせ、親衛隊の隊長はヴァドサ家の本家の人だっていうからね。」

「…ねえ、母さん、ヴァドサ家ってそんなに(すご)いの?」

 セリナの質問にジリナは呆れたようにため息をついた。

「まったく、十剣術もまともに覚えていないようだから、当たり前か。ヴァドサ家は、サプリュ(いち)広い面積の敷地を持っている家だよ。国王様の許しがなくても、自分達の判断で武装していい許可を持っている。」

 セリナは首を(ひね)った。

「…軍隊じゃないってこと?それなのに、武装していいの?」

「そういうことさ。それに、ヴァドサ家は国王軍の入隊率も高いしね。だから、大切にお世話して恩を売っておくのさ。」

 セリナは首を考え込んだ。

「母さん、どっちかっていうと、恩を売ったっというより、恩を買った方じゃない?」

 すると、ジリナはじろっとセリナを睨むと、ぱしっとセリナを叩いた。

「そんなことくらい、分かってるよ…!だから、余計にお世話するんだよ…!」

「……ふーん。」

 セリナは相づちを打ちながら気がついた。母はきっと、シークが気に入っている。だから、世話を焼きたいのだと。

「…ねえ、母さん。」

「なんだい?」

「さっき、なんで隊長さんに対して、あんなに気持ち悪い猫なで声を出してたの?思わず鳥肌立っちゃった。」

 ジリナはセリナを睨みつけた。

「セリナ。何が言いたいんだい?お前、命を助けて頂いたことを忘れているんじゃないだろうね?」

「…そうじゃないけど。母さんが何か、妙に隊長さんに対してだけ、優しいなあって。それだけ。」

 セリナは目をそらしながら、急いで付け加えておいた。するとジリナが笑い出した。

「お前もようやく、そんなことに気がつくようになってきたんだね。」

「…え?」

「お前は、ちょっと前までそういうことに、からきし興味がなかっただろ。」

 ジリナに言われて、セリナは頷いた。

「…う、うん。まあね。」

「まあ、わたしも油断してたさ。お前に見られたのはね。まあ、だから、この際、言ってしまえばヴァドサ殿は好みって言ったら好みだね。」

 いきなり、白状されたので、セリナは目を丸くして母の顔を凝視(ぎょうし)した。

「父さんや村の男達とまるで違うことくらい、お前だって分かってるだろ?そりゃあ、目の前にいい男達がうろうろしてるんだから、眠ってた女も目覚めてくるさね。」

「……母さん?」

「お前、気づいてないのかい?村中の女達が色めきだっているのを。そりゃ、若様やフォーリ殿は、はっきりした美少年と美男子だよ。でも、あの二人は手が出せない、高嶺の花だから諦めているのさ。

 ところが、親衛隊もなかなか揃っているからね、みんな彼らが用事で村を通りかかる時、仕事を作って外に出て行くくらいだよ。うぶそうな子を狙って唾をつけられないか、みんなして狙っているんだよ。既婚、未婚を問わずにね。」

 若様に夢中で、村の娘達の変化にリカンナに言われて気づいたセリナは、最近になって観察して理解したくらいだった。が、少しでも知っているので、虚勢を張った。

「…それくらい、知ってるわよ。」

 でも、すでに結婚している既婚者達まで色めきだっているのは知らなかった。

「どうせ、リカンナに教えて貰ったんだろ。まあ、いいけど。」

 ジリナは言ってニヤリと笑い、右手を頬に当ててため息をついた。

「お前は分かってないんだよ。正々堂々と正面切って、若いピチピチした男の裸を見れるんだから。特権ってヤツだね。しかも、礼儀正しい。もう少し若かったら、唾つけたかったねえ。」

「……あ、でも、母さん、隊長さんって婚約者がいるんだって。えーと、モ…なんとかっていう人が言ってた。」

 セリナはびっくりして言葉を失いかけていたが、急いで思い出したことを告げた。なんだか、この村中で一番危険な人が目をつけているんじゃないかと思う。

「まあ、そりゃあ、婚約者の二人や三人いたっておかしくないさね。」

「婚約者って…二人も三人もいるもんなの?普通一人なんだと思ってた。」

「馬鹿だね、言葉のあやだよ。でも、大昔は名家になると婚約者は二、三人どころか、三、四人ほどいたらしいけどね。」

「…へえ、そうなんだ。じゃあ、隊長さんもそうなのかな。」

 セリナは思わず言ってみたが、ジリナに馬鹿にされたように笑われた。

「もう、あのヴァドサ殿がそういう人だと思うかい?」

「ううん。思わない。真面目そうだと思うし。ベリー先生の冗談に本気で怒ってたところを見ても、軽い人じゃないと思う。」

「分かってるじゃないか。とにかく、今日のことは誰にも言うんじゃないよ。ヴァドサ殿があそこで療養してるってことも、言ったらだめだからね。」

 セリナは頷いた。リカンナにこっそり教えてあげようとか思っていたが、ダメらしい。


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