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盗み聞き 5

 ジリナも一瞬(いっしゅん)、黙ってしまった。一拍の後、ベリー医師とシークが同時に吹き出した。

「セリナ、さっきの方がまだましだったよ、もう…!」

 頭をぽかんと叩かれる。

「……だって、はしたないって言うから。」

 セリナが口を(とが)らせていると、笑っていたシークがとりなしてくれた。

「ジリナさん、いいですよ、それくらい。それより、セリナに頼みがある。若様がここにいる間は、若様の友達でいてあげて欲しい。」

 セリナは真摯(しんし)な目を向けられて、軽々しく答えてはいけないと思った。思わず姿勢を伸ばして答える。

「はい、分かりました。わたしもそうして差し上げたいと思っていました。若様がわたしのことを、友達だって言っていたから、わたしはそうしてあげたいって思いました。一応、覚悟して友達をしたいと思います。今回のことで、若様は友達が欲しくてもできないんだって、分かったので。」

「その答えを聞けて嬉しい。もう恐いから嫌だと言うかもしれないと思った。ありがとう。ここにいる間はよろしく頼む。」

 シークに真面目に頼まれて、セリナはやる気が出てきた。

「はい、任せて下さい。それじゃあ、わたしは失礼します。お大事になさって下さい。あ、もし、母さんが来れない時には、私が食事を運びますか?」

「いや、それはいい。セリナは若様の厨房(ちゅうぼう)の手伝いをしているだろう。」

 シークに指摘されて、セリナは頭をかいた。

「そうでした。そんな(ひま)なかった。それじゃあ、今度こそ失礼します。お大事に。本当にありがとうございました。」

 びしばしと元気に挨拶すると、セリナは部屋を出た。さっさと母につかまる前に退散するに限る。

「お待ち。わたしも行くよ。」

 ジリナの声に思わずびくっとして立ち止まってしまう。

「それでは、ヴァドサ殿、ベリー先生、私も失礼します。それでは、お昼時にまた来ますので。」

「ありがとうございます。」

「いえいえ、わたしが一番、手が空いているので。」

 三回目のジリナの猫なで声を聞いて、セリナはぶるぶるっと、水から上がった犬のように全身を震わせた。セリナにお待ち、と言った後の声の変化が(すさまじ)い。セリナはジリナが来る前に急いでさっさと部屋を後にする。

「あ、こら!セリナ、お待ち!」

 振り返ったジリナが、セリナの逃亡に気がついて大声を張り上げる。ジリナはもう一度頭を下げてから退室した。

 母子はこうして、シークが療養(りょうよう)している建物から出た。

 残された二人はそれを見送った。

「ベリー先生、知っていたでしょう、セリナのことを。」

「……。」

「ひどいですよ、セリナもいたのにあんな話をするなんて…!」

 シークはもう一度、ベリー医師に怒って抗議する。

「ええ、分かってましたよ、すみません。」

「ジリナさんのことを確かめるのは分かっています。でも、セリナまで疑う必要はないと思います。」

「ええ。分かっています。ジリナさんがどう動くかですよ。セリナに聞かせたのは、ジリナさんと娘のセリナが本当に親子か確かめるためです。彼女は本当に、恐縮しているようだった。娘が助かって良かったと思っているようだった。

 彼女の言動からしても、フォーリが言った通り、血の(つな)がった親子で間違いなさそうです。そこは疑う余地はないようだ。ノンプディ家の領地にいた時は、親衛隊の隊長を変えるため、執拗(しつよう)にあなたを狙っていた。

 きっと機会があるなら、また狙いに来ます。これで、彼女が繋がっているなら、ヴァドサ隊長、あなたを狙いに来るでしょう。でも、ジリナさんが白なら、あなたは無事です。」

 それを聞いていたシークは、吹き出した。

「真面目に言ってるんですよ、何を笑っているんですか?」

「先生は、人には命を大切にしろと言いながら、私に一番危ない橋を渡らせようとしていると思いまして。私を(えさ)にジリナさんが間者かどうか確かめるわけでしょう。」

「まさか、今さら怖じ気づいているんですか?」

「ひどいなあ、先生。怖じ気づいていませんよ。でも、いいんですか、敵はニピ族の可能性があるのに、このままで。きっと、今の私なら簡単に殺されると思います。」

「何言ってるんですか、七人がかりで寝込みを(おそ)われても、返り討ちにして部屋中を血の海にした人が。」

「それは、元気な時じゃないですか。まあ、いいですよ。部下達四人だけが交代で、ここに護衛に来てくれますから。」

「まあ、それだけいれば十分でしょう。そもそも途中のシタレでさんざん、古道具屋を巡って質の良い短刀をやたらと買い込んでいたくせに。あれだけの短刀、どこにやったんですか?」

「まあ、あちこちに(かく)しました。一見分からないでしょう?」

 ベリー医師は辺りを見回しながら、部屋の中を歩いて回った。引き出しなんかも開けてみるが、分かるところには置いていない。

「確かに、一見分からない。案外隠すの上手いんですねえ。意外な発見でした。」

「そうですよ。幼い弟妹達を含め親族一同の子供達や、道場通いの子供達などの子守をしてましたから、宝物探しのための宝物を隠すのが上手くなったんです。簡単に見つかりすぎても面白くないって言われるし、逆に見つからなくても飽きてしまう。」

「なるほど。ヴァドサ隊長らしいです。さてはて、今頃、あの親子は何を話しているんでしょうね。」

「セリナはジリナさんに叱られているでしょう。」

「ま、そうでしょうね、仕事をしてなかったから。」

 二人は言って笑った。

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