盗み聞き 4
(…なんなの、この隊長さん。地味で大人しそうだって思ってたけど、本当は違ったのね。二回も毒を飲んだって…。)
そこでセリナは、気がついた。若様が毒を飲んだとき、時間が無いと言って、どんなことがあっても前に進もうとしていた。部下達が大けがをして、死んだかもしれないのに置いて進もうとしていた。それは、自分が毒を飲んだ経験があって、苦しんだからでもあったのだ。
「それに、二回目の時も、毒が入っているって分かってたのに、全部食べたでしょう。よくよく考えると、何も全部毒入りの料理を食べる必要はなかったでしょう。そもそも毒味だったんですから。落として食べられないようにすれば良かったんです。」
「でも、先生、きっと他の料理にも入っていたはずです。もし、私が食べなければ、レルスリ殿もノンプディ殿も、先生もフォーリもそして私も、何より若様がただでは済まなかったでしょう。料理という料理を全部落とすわけにもいかないでしょうし、私はあの時の判断を後悔していません。」
ベリー医師はため息をついた。
「ああ、フォーリが怒る理由が分かりますよ、ほんと。だって、あなたと話していたら、筋が通っているから、認めざるを得ないんですよ。でも、あんまり危険なことはしないと約束したではないですか?なんで、あんなに危ない橋を渡ったんですか?」
「確かにその点については、私が悪いです。ただ、若様の仰るとおり、私の部下に何者かが近づき、間者としているかもしれない。あまりに詳しく私達の情報を知りすぎている。それに、私達が動かない限り、敵も動かない。思った通り、敵は動きましたが想像以上に手強かった。
この田舎にあっても、準備が万端で私達を先回りするように準備を整えていることが驚きでした。
それに…若様が必死になって、ご自分で考えられて行動なさった。そのお気持ちに応えたかったんです。」
ベリー医師はため息をついた。
「そうですね。確かにそうです。若様は今、急激に成長なさっている。自分の口から出る言葉に責任を持たないといけませんし。そのためには、強力な薬となったでしょう。」
ベリー医師はジリナに背中に当てている布を押さえさせ、包帯で巻き始めた。
「申し訳ありません、ジリナさん。他にもお仕事があるでしょうに。」
「いいんですよ、娘の命の恩人です。わたしでよければ、いつでもお呼び下さい。」
シークが遠慮すると、ジリナはやはり猫なで声で返した。やはり、二回目だが思わずぶるっと身を震わせてしまう。
「…それにしても、さっきの話ですがレルスリ殿がなぜ、ヴァドサ殿が鞭打たれて陛下は薬になると思われたのですか?」
「それは、さっきから言っているように、レルスリ殿がこの人を気に入っているからですよ。」
ベリー医師は薬箱に薬をしまいながら、答える。
「先生、誤解されます…!」
シークが慌てているのを見ても、ベリー医師は余裕だった。どうやら、一番のくせ者はベリー医師のようだ。きっとヴァドサ隊長は何か悪いことができる人ではない。その辺では安心できそうだ。そもそも、若様がヴァドサ隊長が護衛でないと嫌だと言っていた。きっとシークは白である。セリナはそう結論づけた。
「やはり…そういうご関係で…。」
ジリナが呟くとシークの顔色が明らかに変わった。なんだか、ちょっとかわいそう。セリナはシークが気の毒になった。
「ほら、やっぱり誤解されているじゃないですか、先生、どうしてくれるんですか!」
するとベリー医師は吹き出した。しばらく笑ってから、ようやくジリナに答えた。
「冗談ですよ。本気になって怒るから、つい、からかいたくなってしまいましてね。でも、レルスリ殿が、この人を信用して気に入っているのは、事実です。この通り、真面目な人です。若様を何度も命がけで守りました。
だから、フォーリも信用しています。でないと、一緒に狩りになんて行きませんよ。用心深いニピ族が。」
「なるほど、よく分かりました。」
ジリナは頷いた。
「先生、確かにからかいたくなるお気持ちは分かりますが、度が行き過ぎると深く傷つけてしまいますよ。今のは悪いご冗談です。」
ベリー医師は苦笑した。
「ご忠告は素直に受け取っておきます。」
セリナはそろそろ、潮時かもしれないと思って出て行くことにした。もっと聞いていたいが、ジリナに勘づかれても困る。そっと立ち上がったが、足が痺れだして思わず転びそうになる。壁にトンッと手をついてしまい、はっとしたが遅かった。足が痺れて歩けない間にベリー医師とジリナがやってきた。
「誰……ああ、君。」
「セリナ、何しに来てんだい!お前は!」
当然、すぐに母から雷が落ちる。
「へへへへ。」
「何、愛想笑いしてんだい…!」
「いやー、つけられてたなんて、気づかなかったなぁ。セリナ、君、なかなかの忍び足の持ち主だね。びっくりしたよ。それで、何の用?」
「そのう、ベリー先生にお礼を言おうと思って、後をつけたらここに来ちゃったんです。」
「それで、ずっとその後も盗み聞きしてたと?行儀悪いことするんじゃないよ…!」
「ごめんなさい。」
とりあえず、セリナは素直に謝った。
「ジリナさん、とりあえず中に入れてやりましょう。足が痺れたんじゃないの?」
「少し。でも、立てます。」
セリナは自分で立ち上がった。
「あの、先生。」
「まあ、中に入って。お礼は私よりも言う人がいるんじゃないかな?」
ベリー医師に言われて、セリナはおずおずと中に入った。苦笑しているシークと目が合ってしまい、かなり決まりが悪い。
「あの…!この間は助けて下さって、ありがとうございました。わたし、最初は分かってたのに、だんだん、フォーリさんが助けに来てくれたところだけ、妙に覚えててすみません、隊員の人達も助けてくれたのに。」
「いや、気にしなくていい。それよりも巻き込んでしまって申し訳ない。とても恐かっただろう。びっくりしたはずだ。」
「あ、それはちびりそうなほど、恐かったです。」
「こら、セリナ…!はしたない言葉を使うものじゃないよ…!」
ジリナに注意され、セリナは急いで言い直した。
「あ、えっと、おしっこ漏らしそうなほど恐かったです。」




