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セリナの本心 3

「…信念って、急にそんなことを言われても分からない……!だって、なんで、ただ、わたしは若様が優しいから、殺されるのが嫌だって、ただ、一緒にいたいって思っただけなのに、なんで、そんな覚悟が必要なの!ただ、ちょっと夢を見たかっただけなのに…!」

「うーん。やっと本音がでたね。」

 セリナが思わず叫ぶと、ベリー医師はふむと(うなず)く。

「まあ、やっぱり年頃の女の子だから、その程度のものだったかな。それがどういうものか、本当のことを理解していなかった。

 君はどうしたいんだろうね。君の口ぶりだと若様と仲良くなって、みんなに見せつけて自慢したかっただけだったってことかな。それなのに、命まで賭けるのは割に合わないと怒っているわけか。」

 ベリー医師の言葉にセリナは、無性に腹が立った。でも、分かっている。本心を言い当てられたのだ。いつも、馬鹿にされているから、みんなに見せつけたかった。自慢したかった。若様と仲良くなって、焼いたパンを食べて貰って、わたしは信用されてるから、そんなことができるんだって、自慢したかった。

 どうせ、結ばれないと分かっているし、村にいる間だけ若様と仲良くしていられれば良かった。

「何よ、それがいけないことなの…!みんなを見返したかった…!だって、若様はだめだって分かってるから、少しの間、側にいて自慢したかったの…!それに、可哀想だし、素直で可愛いから……。」

「君は、若様の気持ちを考えたことはあるのかな?」

「…え?」

 セリナは思わず顔を上げた。怒って頭に血が上っていたが、冷や水を浴びせられたように一気に冷める。若様の気持ちなんて…考えたことはなかった。

「君の言っていることは、結局、若様の気持ちをもてあそぶ事になるんじゃないか?若様は本当に君の事を友達だと思っている。

 だから、今回の事件は誰の責任でもないと、はっきり言われた。そうでないと、君が犯人にされてしまい、殺されてしまうからだ。君が犯人でないことは明らかではあるが、利用されたのは事実。そういう状況を君は作ってしまった。その責任から本当は逃れることはできない。フォーリの言うとおりに。

 君は若様の真心を踏みにじっているんだよ。それを理解しているのかな?分かるかい?なぜ、若様がパンの味が変だったのに、無理をして食べたのかを。

 君のためだ。犯人が誰なのかはっきりしない時点で、異常を告げれば君が犯人として、ヴァドサ隊長にその場で殺されてもおかしくないからだ。だから、若様は我慢した。更に犯人が動くのを待ったんだ。明らかに君が犯人ではないと判断できる状況を待った。

 若様はすぐに毒だと分かったはずだ。口の中も(ただ)れて痛かったはずだから。食べるのさえ苦痛だったはずだ。しかも、口の中の水分を吸い取ってしまうパンだ。それでも、我慢した。動けなくなるまで我慢したのは君のためだった。君を助けるために。」

 セリナは息を呑んだ。呆然として感情がすぐに追いつかない。

「ど、どうして…そんな、わたしなんかのために…?命がけで我慢したの?」

「君は若様のことを、宝石のような飾り物としていたのかもしれないけれど、若様は本気で君が友達だと思っている。君はその若様の気持ちに、本気で答えられるのかな?自分の置かれた状況に文句を言う前に、よく考えてみるといい。」

 ベリー医師は静かに立ち去った。


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