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セリナの本心 1

 あの事件から一週間経って、ようやく屋敷内は落ち着いてきた。村でも大騒ぎになった。誰があんなことをしたのか、村人達は(うわさ)し合った。親衛隊員達はみんな落石事故だと言い張ったが、セリナは村娘達に真相を話してしまっていたし、あの現場を見れば落石事故ではないことは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。

 あきらかに、誰かがあの可愛らしい若様を狙ったのだ、それくらい分かっていた。若様はずっと屋敷の中に閉じこもっている訳ではなく、散歩に出たり、狩りや釣りに出て歩いているので、村人達も目撃していたし、若様と呼ばれている本当は王子様を一目見ようと、山に行ったり普段は行かない牧場に行ったりしていたので、お人形さんのような若様の姿を見ていた。

 だから、一体どういうことだとみんな噂した。こんな田舎でも王妃が若様のことを疎ましく思っていることくらい、伝わってきている。

 村ではしばらく噂は絶えないが、屋敷内では口止めされている。

 若様が口にしたのは、猛毒だったらしい。しかも、しばらく我慢して走って歩いたので、余計に毒が回ってしまったのだという。

 セリナはかなり、落ち込んでいた。そんなセリナをヴァドサ隊長を含め代わる代わる、みんなが慰めに来た。ヴァドサ隊長もベリー医師もフォーリも若様も、みんな自分に責任があると言った。

 でも、分かっている。パンを勝手に焼いて持って行ったりしたから、そこにつけ込まれたのだと。もし、若様が毒を口にしていなければ、もう少し早く逃げる事ができただろう。後悔してもしきれない。そんな調子なので、料理の手伝いからも外された。みんなと一緒に洗濯や掃除を行う。

 リカンナと二人で玄関から、門扉までの通路を掃き掃除していると、珍しく早馬が来た。すっかり忘れていたが、偉い人は偉そうな態度を取るのだった。領主の使いはかなり横柄な態度で二人を一瞥(いちべつ)し、偉そうな態度で中に入っていった。

 やがて、横柄な態度の使いはその態度のまま、帰って行った。

「…こんな時に限ってか。」

 フォーリが客間から出てきてぼやいている。若様はまだ、全快していない。そのため、代理で領主の使いと会ったのだろう。セリナの前では、若様がどういう状況だったのかみんな教えてくれないので、こっそり聞き耳を立てて、かなり命の危険があった…というか一時、危篤状態だったらしいことが分かった。

 セリナはうつむいて歩いていたので、フォーリが二人に気づき、足を止めたのに気づかなかった。リカンナにつつかれて、セリナはフォーリにぶつかる直前に足を止めた。

「まだ、落ち込んでいるのか?まるで、この世が終わったかのようだ。」

「……。」

 何も言わないセリナを見て、フォーリはふん、とため息のような鼻を鳴らした。

「まあ、落ち込めるだけ落ち込めばいい。どっちみち、お前の責任でないと言った所で、お前も己の責任から逃れられないと分かっているから、落ち込んでいるのだろうしな。自分の取った行動の責任を取らなければならない。」

「…あの、余計に落ち込んでいます。」

 リカンナが小声で言う。フォーリの言葉はセリナにグサグサと突き刺さった。

「別に(なぐさ)めているつもりはない。あえて助言するなら、真正面から自分の過ちと向き合い、乗り越えられて初めて成長できる。真正面から現実と向き合え。」

「……乗り越える必要がありますか?乗り越えたからって何になるって言うんですか!?」

 到底乗り越えられそうもないのに、立ち直れと言われ続けられるのが嫌で、セリナは言い返した。別にもう放っておけばいいのに。

「…つまり、今の言葉は現実逃避をしたいから、放っておいてくれということだな。お前は逃げたかったら逃げればいい。だが、お前も、もう逃げられない状況だから言っている。お前は若様と一緒に殺されかけた。お前も一緒に始末して構わないと、向こうは思っているということだ。

 いいぞ。協力したくないのなら、勝手に死ねばいい。こちらもお前を護衛する手間が省ける。」

「…な、にそれ。なんで、殺されなきゃいけないのよ…!」

 恐かったのだ。今も恐い。それなのに、もっとそれに立ち向かえと言うのだ。逃げたいのに逃げることすら、許されないなんて。涙が(あふ)れて止まらない。

「お前は乗り越えることは無意味だと思っているようだな。それは、お前には逃げる所があるからだ。お前はこの村にずっと住み、ここから出る必要はない。だから、逃げて隠れていれば過ぎ去ると心のどこかで思っているはずだ。

 乗り越えることは意味がある。乗り越える事ができたとき、それは本当に自分の力となる。人間としての力がつく。逃げればその時は楽だが、人間として成長する機会を失う。私は死の恐怖を乗り越えろと言っているのではない。自責の念に駆られ、己の全てを否定したくなる気持ちを乗り越えろと言っている。それは、どの人も助言しているはずだが。」

「……。」

 今まで必要としてこなかった、人間としての成長を求められ、セリナはきつかった。自責の念に駆られないようにと言われても、どうやったらいいのか、分からない。

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