事件の後 3
セリナの涙が止まってから、フォーリはしっかりと、セリナと視線を合わせた。
「いいか。お前が犯人ではない。お前は利用されただけだ。真犯人は屋敷も焼き討ちにするつもりだった。ベリー先生のおかげでそれは未然に防げた。」
セリナはびっくりして、息が止まりかけた。
「村の娘達も含めてみんな殺すつもりだったらしい。お前がそんなことをする訳がない。」
セリナは寒気がして全身を震わせた。そんな酷いことを考える人がいたなんて、信じられない。
「だから、そこに座っていろ。」
セリナは自分が疑われていないと知って、急に安堵した。それと同時に尿意を催す。
「あの…!」
「なんだ?」
「あの、便所に行きたいです。おしっこしたいんですけど…!」
フォーリはため息をついた。
「分かった。広間にお前の母が娘達を集めている。そこにリカンナもいるから、一緒に行って貰え。決して一人にはなるな。お前は最後まで若様といた。そのせいで狙われるかもしれない。」
フォーリに言われた通りに広間に行くと、みんなが不安そうな表情で集まっていた。
「セリナ!大丈夫だったの!」
リカンナが見つけるなり、かけ寄ってきた。
「う、うん。」
「怪我をしたのかい?」
ジリナの声にセリナはビクビクした。
「まったくもう、この子は心配をかけて。ぼろぼろじゃないか。」
叱られると思っていたのに、ジリナが抱きしめて優しく背中を撫でてくれた。
「…か、母さん、こわかったよう…!」
また、涙が出てきてしまう。
「当たり前だよ、もう。」
ジリナは抱擁を解くと、まだ、泣きべそをかいているセリナの頬をひっぱたいた。
「規則も約束も破って、お前は!命を失うかもしれないんだよ!」
「…母さん、ごめんなさい。後で叱られるから、今は便所に行かせて下さい。」
ジリナはため息をついた。
「行っておいで。リカンナ、悪いけど一緒に行ってやっておくれ。」
ようやく、便所に行ってすっきりしたセリナは、疲れがどっと出てきた。
「本当に心配したんだからね…!シルネとエルナはあんたに嫌がらせをしたくて、若様用の厨房と護衛兵達用の水を入れてある甕に薬を入れたらしいの。ほかにもわざと油壺を壊して油を撒いたりして、ベリー先生に見つかって、今、みんなで見張ってるの。」
リカンナの話にセリナは目を丸くした。
「ど、どういうこと?シルネとエルナがそんなことを?」
「この間、村に商人が来たじゃない?その商人と一緒に新しい商人が来ていたらしいんだけど、その人が二人に絹の布でできた髪飾りを渡して、もっと欲しかったら言うとおりにしなさいって、言ったらしいわ。あんたが、兵士達の前でおしり剥かれて叩かれるのが目的だったみたい。」
セリナは顔から血の気が引くのを感じた。やっていいことと悪いことがある。いかにも怪しいではないか。少し考えれば分かるはずだ。若様の毒味係が死んだから、狩りや釣りをして食料を調達しなければならない事態になっているのだ。セリナも悪い。でも、二人は若様だけでなく、みんなの命を危険にさらした。
フォーリは、はっきり言った。真犯人は村娘達も含めてみんな一緒に殺して、焼き討ちにするつもりだったと。きっと、その薬は毒で若様が口にした物と同じ物かもしれない。みんながもだえ苦しんでいる間に、火をつける。壊された油壺の油のせいであっという間に火事になって、煙に巻かれて死んでしまうだろう。




