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事件の後 1

 仮に医務室になっている部屋の隅で、椅子の上に膝を抱えて泣いていた。泣きたくなくても勝手に涙が染み出るようにして流れてくる。

 セリナはどこにも行くことが許されなかった。そこにいろ、とフォーリに命じられ、セリナを運んできた兵士に見張られている形で、じっとしているしかできなかった。

 若様は今、高熱を出しているらしい。セリナを見張っている兵士が時々、水を()みに行く。この屋敷には深井戸があり、そこの井戸の水は深いので温度が一定だ。その水で額に当てる布を濡らしたり、体を拭くのに使っている。

 この事態に、いつも村に常駐している、カートン家の医師も手伝いにやってきた。ベリー医師の指示を受けて薬を作り、一緒に仕事をしている。しばらくして、この部屋の辺りは大変な事態になった。

 大怪我をした親衛隊員達が運ばれてきたのだ。部屋に入りきらないので、隣室に運ばれる。村に常駐している医師が指示を出し、親衛隊員達の怪我は彼が治療する。若様の容態が落ち着いている間に、ベリー医師はそっちも手伝う。(うめ)き声が(ひび)き、セリナをかばってくれた兵がどうなったのか、それが気になった。

 しばらくして、隊長のシークが顔を(のぞ)かせた。そういえば、彼はセリナを(かば)って背中に何本も矢が刺さっていた。

「若様の容態は?」

 フォーリに深刻な表情で確認した。

「……この通りだ。」

 フォーリは苦い声でそれだけ答える。

「それよりもお前、大丈夫なのか?」

「革の胴着を着ていたから、大丈夫だ。」

 良かったとセリナは安心した。(よろい)のような物を着ていたらしい。

「だが…。」

 フォーリが何か言いかけたが、シークが軽く首を横に振り、フォーリも気づいて黙った。

「フォーリ。すまない。私の責任だ。殺したかったら私を殺せ。」

 セリナはぎょっとしてシークを見つめた。それはフォーリも同じだったらしい。くっと息を吐いた後、勢いよく立ち上がった。

「殺したかったら殺せだと…!?それが望みなら今日こそ殺してやる…!」

 フォーリはシークの胸ぐらを激しくつかんだ。セリナは震えた。フォーリの(はげ)しい怒りに体が勝手に震える。フォーリは左手でシークの胸ぐらをつかんだまま、鉄扇を右手で抜いて振り上げた。セリナを見張っていた兵士がはっと息を呑んだ。フォーリが振り上げた手は、しばらくそのままだった。

「……く。」

 フォーリの双眸(そうぼう)が揺らいだように見えた。その直後、もの凄く悔しそうに、シークの体を向こうに押しやった。

「…殺せない。お前を殺せるか…!くそ…!お前を殺せば敵が喜ぶだけだ…!」

 シークは目をつむってため息をついた。

「…そうか、分かった。また、後で来る。」

 そう言って、静かに退室した。隣の兵士が大きく息を吐く。気がついたらセリナも息を止めていて、大きく息を吐いた。


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