表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/248

散歩での話 2

 セリナは話を聞きながら、疑問に思った。若様は自分よりいろいろ知っている。学はある。てっきり、どこかお屋敷を転々とするなり、こんな生活が長く続いているとばかり思っていたら、自然と密着しているような生活の方が長かったとは、すぐには信じられなかった。

 それくらい、若様は普通の人とは違い、上流階級の気品を感じるし、動作から話し方から全て違う。一体、誰に教わったんだろうということだ。だが、なんとなく答えは分かるような気はした。それでも、聞いてみる。

「あの、若様、そうしたら勉強とかどうしてたんですか?わたし、てっきりここにいる時みたいに、お屋敷にいての生活だとばかり思ってました。だから、どこかの先生に教わってたのかな、とか思ってたんですけど、よく考えたらここにも、勉強の先生っていないよなあって思ってですね。」

 若様はにっこりする。

「うん、フォーリが教えてくれるよ。でも、昔は…王宮にいた頃は先生に習っていたし、ここに来る前のノンプディの屋敷には先生がいたよ。」

 やっぱり…!と思いつつも、疑問に思う。

「でも、本とか必要でしょう?そりゃ、前のお屋敷で先生がいる時や、ここのお屋敷にいる時は図書室がありますから、そこで勉強できるでしょうけど、森や山ではどうしてたんですか?」

 セリナの質問はもっともだと思ったらしく、隣でシークが確かに、と小さく(つぶや)いた。

「ずっと、森や山にいたわけではないから、拾ってきた本や新聞なんかで教わったよ。それにフォーリは暗記しているから。」

「…あんきって?」

 料理の書き付けなんかの次元ではなく、本を何冊もの話なので、つい聞いてしまった。

「頭に記憶しておくことだよ。森の子族もそうだけど、昔からの言い伝えなんかは口伝で伝えられる。だから、見たこと聞いたことを、正確に覚えて伝える能力に()けているんだ。子供の頃から訓練しているから。街に出てきた森の子族は、もちろん字も使うよ。だから、字も使える森の子族が一番、暗記力は高いと思う。ニピ族も彼らと似たようなものだから。」

 セリナは目を丸くした。

「じゃ、じゃあ、本がない時は、フォーリさんが覚えている本の中から教えて貰うってこと?」

「そうだね。だけど、さすがに(むずか)しいこととなるとそうもいかないよ。だから、本を拾ったりして教えてくれたんだ。私も一冊の本を覚えるまで読むし。」

 セリナにも分かる。高価な本が普通、落ちているわけがない。そう、だから…そういう手段に出たんだと思う。おおっぴらに言えない手段に。

「…それで、わたしのパンはどうでしたか?」

 セリナは話題を変えるため、毒味役の二人に話を振った。

「…まあ、普通にパンだ。」

「ああ、普通のパンだ。」

 できれば上手いと言って欲しかったが、固くてまずいと言われなかっただけ、よしとすることにした。

「じゃ、若様も食べて大丈夫ですか?」

 しばらく時間が経ったので、シークに聞いてみると許しが出たので、若様に布にくるんだ包みを差し出した。

「はい、どうぞ。焼けた中から一番きれいに焼けたのを、取り分けておきました。」

「ありがとう、セリナ。いただきます。」

 若様は嬉しそうにパンをちぎって(ほお)張った。

「おいしいよ。」

 にこにこして言ってくれる。そんな笑顔を見たら、とても嬉しくてまた作ってあげたくなる。

 若様の顔ばかり見ている訳にもいかないので、他の兵士達にも少しずつ、パンとお菓子を配った。彼らは水筒は自分達で持ってきている。

「はい、隊長さんもどうぞ。」

「ありがとう。だが、私はもう少し後で頂こう。」

 シークは言って、周りの兵士を見回した。みんな食べているので、他の兵士達が食べ終わってから食べる、ということだと理解してセリナは頷いた。

「なるほど、隊長さんは大変なんですね。」

 セリナの言葉にシークは苦笑した。みんなまだ若くて二十代くらいだが、この人だけ少し年長で確実に三十代だと言える。

「ねえ、セリナ。このパンは少し風味が違うけど、どうして?」

 若様の声にセリナが見ると、重曹で膨らませたパンを食べている。

「ああ、それは発酵させない代わりに、重曹を入れて膨らませたパンなんです。ほら、こっちは発酵させたパン。舌触りも風味も全然違うでしょ?」

 発酵させたパンの方を一口ちぎって渡すと、それを食べて若様は納得した。

「本当だ。面白いね。同じ小麦粉を使っているのに、違うんだね。」

「そうでしょう。」

 セリナも自分が焼いたパンを食べる。まあまあいいできだ。パンを食べ終わり、蜂蜜入りのお菓子を若様に手渡した。

「お菓子まであるの?」

 嬉しそうに若様は言って、パクッとお菓子をかじった。生活ぶりをみると、質素な生活をしているので、お菓子なんてけっこう贅沢(ぜいたく)なのかもしれない。王子様がそんな質素な生活なんて、とセリナが思っている間に、若様は食べ終わっていた。背負いかごを(のぞ)いた若様が質問する。

「ねえ、セリナ、この炭はなんで入ってるの?」

「ああ、それは湿気取りに入れてあるんです。どうしても湿気ちゃうから、少しでも防ごうと思って大きいのを入れたので。」

「なるほど。臭い消しだけじゃないんだね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ