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グイニスの決心 4

 シークは深く考え込む。ベリー医師の言うとおりである。だが、若様の言うことも一理ある。そして、機会はたった一度しかない。

「ベリー先生の言われるとおり、この状況はゆゆしき事態です。しかし、若様の仰る通り、フォーリがいないこの好機を逃す事はないでしょう。誰が犯人かを調べるには、いい機会です。逆に言えば、犯人を一刻も早く捜さないと、かえって危険な状況が長引くことにもなります。

 私の部隊に犯人がいる可能性があり、疑われていることも知っています。一度、ありました。二度あることは三度あるとも言います。ですから、これを機に調べましょう。私も部隊の中にそういう者がいない事を願います。

 もし、いた場合は厳罰に処さねばなりません。とても辛いことではありますが。」

 シークの言葉に、若様の表情が明るくなる。

「できるだけ、若様のおそばにいましょう。確かに相手を油断させるには、セリナがいた方がいいでしょうし、二人だけにならないように、私も気をつけます。」

 ベリー医師が難しい顔で黙り込んでいる。

「ありがとう。」

 若様がにっこりする。

「ですが、油断は禁物です。何があるか分からないのですから、あんまり長い時間はだめですよ。すぐに屋敷に帰れる距離であることが条件です。何か少しでも異変があったら、即、帰ります。いいですね?」

 若様が勢いよく頷く。

「分かった。」

「…しかし、あまり近場でも相手は油断しないでしょうね。」

 反対しているくせに、ベリー医師はそんなことを言い出した。

「どうせやるんだったら相手のしっぽくらいは、確実につかんでおきたいと思いませんか?」

「…ベリー先生。非常に(むずか)しいことを言われますね。」

「若様が言い出されたことです。少しくらい痛い目に()っても、怖い目に遭ってもよいという覚悟なんでしょうから、しっぽくらいは確実にこっちもつかまないといけません。」

 ベリー医師が言ってグイニスを見つめ、ヴァドサ隊長も心配そうに見ているので、グイニスは慌てて口を開いた。

「分かった。少しくらい怖くても痛くても我慢する。ベリー先生が言うとおり、二兎(にと)を追うのだから頑張る。」

「ヴァドサ隊長、分かってますよね?」

 ベリー医師がヴァドサ隊長を鋭く見つめる。グイニスが言い出したことなのに、彼に責任がかかってしまうのだ。今更ながら、そのことに気がついてグイニスは申し訳なくなった。分かっているつもりだったが、本人を目の前にすると、急にそのことを実感して意識した。

「分かっています。確実に尻尾を捕まえろということですね。」

「ええ。それだけで済むならいいですが…。」

 ベリー医師の含みを持たせた言い方に、グイニスは首を(かし)げた。

「分かっています。もし、若様に何かあった場合は私が責任を負います。その時は陛下に死罪を申し出るつもりです。」

「やはり、そうですよね。当然、そうなります。」

 ベリー医師はようやく納得したようだった。

「ヴァドサ隊長、あなたならそう言うとは思っていましたが。」

 グイニスが思ってもみないほど、深刻な話の流れになっているので困惑し、同時に怖くなった。

「…ま、待って……!どうして、どうして私が言い出したことなのに、ヴァドサ隊長が責任を取って死罪になるの?別に…剣を握ろうとしているわけじゃないよ……。」

 恐怖を感じると、今も息が上がってくる。思わず肩で息をしていると、ベリー医師に深呼吸をさせられた。

「若様。そういうことではありません。私は国王軍の親衛隊に配属されており、若様の護衛を陛下から申しつかっております。ですから、若様に害が及ぶ可能性があるにも関わらず、それを黙認した場合、任務を(おこた)ったとして責任が生じます。ましてや、自らそれに関わった場合はなおさらです。」

 静かにヴァドサ隊長に説明されて、グイニスは余計に息が苦しくなった。自分はただ、もう少し軽い気持ちで言っただけなのに。身分のせいで大変なことになってしまう。

「…若様。フォーリは若様の個人的な護衛ですが、ヴァドサ隊長は違います。フォーリより、何倍もその責任は重く重大なのです。ですから、彼の命を賭けたくなければやめた方がいいですよ。」

 ベリー医師が背中をさすりながら言ったので、グイニスは困った。フォーリを助けたいのに、その手助けになるようにしようと思えば、ヴァドサ隊長に迷惑をかけてしまう。迷惑どころか、場合によっては命さえ、危うくなるのだ。でも、決断しなくてはならなかった。

「…分かった。ベリー先生、決めた。」

「若様、では、今日はやめる……。」

「違う。やめない。だから、ヴァドサ隊長、約束して。たとえ、私が殺されかけたとしても、私の護衛をやめないと。死なないで欲しい。死罪なんて申し出ないで。」

 ベリー医師も、何より言われたヴァドサ隊長自身が一番、(おどろ)いている。びっくりしてグイニスを見つめていた。

「ですが……。」

「お願いだから…!」

 お願いしながら、グイニスはこれではいけないと感じた。彼は忠誠心の(あつ)い軍人だ。だったら、方法は一つ。

「命令だ…!これは、私の命令だ。そして、犯人をあぶり出すのは、セルゲス公の私の責任で行う。もし、失敗したとしても誰の責任でもない。私の責任だ。」

 必死になってヴァドサ隊長とベリー医師を見上げて言い切ると、ヴァドサ隊長が片膝をついて敬礼した。

「若様…いえ、殿下。ご命令を承りました。ご命令のとおりに致します。」

 ベリー医師もそれ以上、言わなかった。グイニスの突然の変化に驚いている様子だった。でも、こうでもしないと、何もできない。そして、グイニス自身が一番、自分の変化に驚いていた。

「…ありがとう、ヴァドサ隊長。」

「いえ、私の方こそ、若様にそう言って頂けて嬉しく思います。」

 ベリー医師がグイニスに視線を合わせた。

「…若様、決して無理はなさらないで下さい。」

 グイニスは頷いた。

「ベリー先生もありがとう。」

 ベリー医師は困ったように、グイニスの背中を優しく撫でてくれた。かなり呼吸が落ち着いた。

 しばらくグイニスの呼吸が落ち着くのを待ってから、ヴァドサ隊長が促した。

「それでは、ベリー先生、行ってきますから、よろしくお願いします。」

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