決心 1
グイニスが目を覚ますと、爽やかな草原に寝そべっていた。そして、起き上がると自分とセリナにそっくりな男の子が二人いて……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
グイニスは気がつくと草原の真ん中に寝そべっていた。とても気持ちがよく、空気も澄んでいて、光もキラキラと透明感がある。あまりの美しさに胸を打たれる。
しばらく空を仰いでいたが、くすくすと笑う子供達の気配に身を起こした。なぜか刺されたはずの腹が痛くない。気がつくと自分と同じように赤い髪をした、二、三歳のうり二つの子供達がいた。
グイニスが上半身を起こすと、二人は声を上げて笑った。セリナにそっくりで、思わずこっちも微笑んでしまう。すぐに、自分とセリナの子供達なのだと理解した。
「おとうさん。」
二人は嬉しそうにグイニスの胸に飛び込んできた。二人をしっかり抱き止める。
「おとうさん、しんだらだめだよ。」
「おかあさんがなくの。まえもしんじゃったってないてたの。」
「でもね、しんでないよっておしえてあげたら、ほんとうだってわらったの。」
「お母さんが泣いていたのか?」
セリナが泣いていた、という話を聞いてグイニスは聞き返した。
「うん。とってもかなしいってないてたの。だから、よしよししてあげたの。」
「そうか、二人ともお利口さんだったな。お母さんはそれで、泣き止んだのか?」
「うん。」
グイニスは優しく二人の頭を撫でた。
「名前はなんていうんだ?」
「なまえはもうひとりのおとうさんがつけてくれるの。」
その言葉にグイニスは、どきっとした。もう一人のお父さん。それは一体誰だろう。どういうことなのだろう。でも、なんとなく分かる気がした。自分がこの後、どうするのか分かっているから。
「もう一人のお父さんはいい人?」
すると、おっとりしている方が頷いた。
「うん。」
「それで、なんていう名前になるの?」
「ランウルグ。」
なんとなくセリナに似て、しゃっきりしている子が答える。もう一人、どこかおっとりというか、鈍くさくて自分に似ている子が答えた。
「えーとね、ぼくはランバダ。」
ランウルグとランバダ。それは王家に伝わる双子の王の古い名前だ。今では民衆に人気のある名前の一つで、双子の男の子が生まれると、こぞってこの名前をつける。
さらに、双子の生まれる確率は低いので、男の子が一人生まれたら、次にも生まれることを期待して一人ずつ、つけることも増えていた。
「ランウルグとランバダか。いい名前をもらったね。」
なぜかグイニスには、どっちがどっちなのか見分けが付いた。
「うん。」
二人は同時に返事をして、それから、不安そうに見上げた。
「おとうさん、いかないとだめだよ。」
「おとうさん、かえらないとしんじゃうよ。」
「しんだら、おかあさんがなくよ。」
「うん。」
でも、どうやって帰るのだろう。
「めをさませばいいんだよ。」
疑問を口にしていないのに、ランウルグが答えた。
誰かが泣いている。セリナではない。この大きくて固くて温かい手は、フォーリだ。フォーリがグイニスの手を包み込むようにして、握ってくれている。それを感じた。
目を覚ました。夢をみていた。子供達の夢だ。だが、フォーリに双子だと言ってはいけないと思う。まだ、確実ではないし、ぬか喜びさせたくなかった。今だって泣いているのに。最近、涙もろいから。
あの時もそうだ。無理矢理、思い出させられた後の時も。フォーリの涙で気がついた。温かい滴が顔の上に落ちてきた。雨のように温かい滴が降ってきていた。温かくて安心できる腕がしっかりと、グイニスの体を抱きしめてくれていた。子供の時から何も変わらない。すごく安心できた。だから、戻って来れた。
「…フォーリ?」
声が掠れていた。言葉を話した途端、激しい喉の渇きを覚える。
「!若様…!若様、目を覚まされたのですね…!」
フォーリが泣き顔で声を上げた。すぐに医師達が顔を覗かせる。
「良かった、意識を取り戻された。」
「失礼します。」
ランゲル医師がやってきて、グイニスの脈を測った。
「…良かった。」
心底、安堵したという声だった。どうやら、子供達が死んじゃうよ、と言った通りかなり危なかったらしい。
「……喉が渇いた。」
グイニスが言うと、一口の大きさに切って水を吸わせた海綿が差し出された。楊枝に刺してあるそれを、フォーリが頭を支えて吸わせてくれる。
「しばらくは、それで我慢なさってください。まだ、少しずつしか飲んではいけませんので。」
何回も水を吸ってようやく、少し喉の渇きが癒えた。体が熱かった。どうやら、熱も出ているようだ。体と頭が覚醒してくると共に、腹が痛み始めた。
「若様、どうかされましたか?」
フォーリが過剰に心配している。
「…傷が痛い。」
「申し訳ありませんが、しばらくは様子を診ます。それから、痛み止めを処方致しますので。」
ランゲル医師が答えた。つまり、この激痛としばらく付き合えということだ。
「……そうか。以前に、痛みは生きている証拠だと、ベリー先生に、言われた。ベリー先生は?」
痛いので、途切れ途切れにしか話せない。
「ベリー先生は無事です。飲んでいた薬のせいで、失血が少し早まっていましたが、間に合いました。」
ランゲル医師の答えに、グイニスはほっとした。
「良かった。私より、ひどいかと心配した。」
グイニスは少し息を整えてから、ランゲル医師を見上げた。
「…申し訳ない。私のせいで…カートン家に甚大な被害を、被らせてしまった。患者さん達に…何かあったり……。」
「どうか、気に病まれないで下さい。セルゲス公のせいではありません。悪いのはそのような手段に出た者達であり、自ら傷を受ける事でその攻撃を止めて下さった殿下が、責任を感じられることではありません。私共の方こそ、助けて頂いてありがとうございました。」
ランゲル医師は丁寧に頭を下げた。
「…しかし。甚大な被害が……。」
「殿下。私共も黙ってやられたり致しません。これでも、二百年間、宮廷医をしてきたのです。いろいろと手段はありますし、経済的な面においても、心配なさらないで下さい。どうか、何もお考えにならず、ゆっくりとご養生なさって下さい。」
ランゲル医師は大丈夫だと力強く頷いてみせる。
「それと、セリナさんのことも心配なさらないで下さい。今は妻と一緒におります。」
ランゲル医師の妻といると聞いて、グイニスは安心した。きっと、子を産んだ経験者と一緒にいる方が安心できる。本来なら彼女の母に聞くのが一番だが、それはできないから。
「…良かった。ありがとう。ランゲル先生。」
ランゲル医師はにっこりして、去って行った。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




