襲撃 3
グイニスは謎の組織の男に刺されることを選択した。案の定、襲撃が終わり、フォーリが支えながら泣き出して……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
その音を聞いたフォーリが一瞬、後ろを向いてグイニスの位置を確認し、鉄扇を翻す。
フォーリが舞を舞う。パッ、パッ、パッ、パツとまるで音楽を奏でているように、窓から射られた矢を打ち払う。フォーリの足下や周りにに矢がどんどん落ちていく。それでも、グイニスの方には飛んでこない。腕が悪いと後ろにも飛んでくるのだという。フォーリは一流の舞の遣い手だ。
フォーリが舞を舞っている間に、男が素早くグイニスの前に立った。フォーリは知っているが舞をやめられない。そうすれば、セリナとグイニスに矢が当たるからだ。
「あなたなら、こうすると分かっていました。申し訳ありませんが…。避ければもちろん、娘を刺します。」
男の短刀が腹に刺さった。痛い、というより熱かった。
「!若様!」
フォーリが舞を舞いながら叫んだ。
男がもう一度、鋭く指笛を吹いた。途端に矢が飛んで来なくなる。フォーリは逃げようとする男の脇腹を打ち据える。男は床に飛ばされたが、すぐに起き上がって間合いを取った。
脇腹を押さえながら、壁際に後退する。追おうとするフォーリの腕を、グイニスはつかんだ。腹に短刀は突き刺さったままだ。体に力が入らない。
「若様!」
少し冷静になったフォーリが、グイニスの体を支えてくれた。
「…お前の主は正しい選択をした。自分が攻撃を受けない限り、カートン家への襲撃が終わらないことを理解した。私を殺しても攻撃は終わらない。」
男はフォーリに言うと、壁にある飾り戸棚を開けた。さらに小さな戸棚を開けると、鍵を取り出した。フォーリは眉根を寄せた。フォーリはもちろん覚えている。ランゲル医師が使っていた。なぜ、この男が持っているのか。ザムセー・カートンが盗んでいたのか、合鍵があったのか、そんなところだろう。
男が紐を引っ張り、激しく鐘が屋敷中に鳴り響き始めた。
「!」
グイニスの体に緊張が走る。どうしても、思い出されてしまう。幼い時にされた行為を。それがきっかけになってしまう。それでも、なんとか心を落ち着かせようとした。セリナを起こしてはならない。自分の腹に刺さった短刀を見せてはならない。それだけで、気力を保つ。
「若様、落ち着いてください。」
フォーリの支える腕に力がこもる。
「…わ、分かってる。」
そう返事したが声が震えてしまった。
「これで、洗脳は解ける。カートン家に対する襲撃は終わる。」
男の言葉にフォーリがはっとした。
「…まさか。」
「そうだ。お前の主は娘やカートン家を守るために、自ら犠牲になった。お前の主は若いが立派だ。」
フォーリが悔しそうに息を堪える。さっきまで舞を舞っていたため、フォーリの熱いまでの体温が、寝間着しか着ていないグイニスに伝わってくる。
本当は男を殺したいのだろう。でも、難しいはずだ。きっと、相手はフォーリに殺されないように用心している。相手は一筋縄でいかない。後ろにある巨大な組織が見え隠れする。フォーリは有能だが、一人で無理をすればきっと死んでしまう。それに、今は一人にして欲しくなかった。フォーリに側にいて欲しい。
「お前の主なら、自ら刺されると思った。だから、わざとこういう卑怯な手段をこうじた。個人的には申し訳なく思う。一応、任務はとりあえず終わった。」
男はそう言うと壊れた窓から出て行った。鋭く笛を鳴らしながら、屋根の上を走って行ったようだ。
「若様、申し訳ありません…!またもお守りできず…!」
フォーリが、力が全く入らないグイニスの体をしっかり支えつつ、床に座らせてくれながら泣き出した。近頃、涙もろいような気がする。
「……大丈夫。」
なんとか、それだけ答える。自分も役に立てた。こうするのが、一番だったのだから。
寝室の外の方も終わったらしく、シャルブとベリー医師が走ってきた。
「若様!」
ベリー医師とシャルブが同時に叫んだ。
「…しーっ、セリナが起きてしまう。」
なんか、だんだん息が上がってきた。ベリー医師がグイニスを診察しようとして、首を傾げた。
「?あれ、脈が取れないな。」
「!先生、手を怪我してます。」
フォーリが気がついた。
「ああ、本当だ、血が出てる。」
ベリー医師は自分で止血しようと手巾を出した。その後ろでシャルブの顔色が変わった。
「…せ、先生、痛くないんですか?」
「え?薬のせいかな、痛みを感じないな、そういえば。」
「右の脇腹、切れてますが。後ろ血だらけです。歩いてきた所も。」
シャルブの指摘通り、寝室に至るまでベリー医師が歩いた所に血が点々と落ちている。
「あれ、こりゃ、結構重傷だ。」
ベリー医師は右の脇腹に手をやり、自分で診察している。
その時、人が複数走ってきた。
「大丈夫ですか…!?」
「一体、誰が怪我を…!」
走ってきたのはシークとランゲル医師だった。ランゲル医師は緊急事態なので、急遽王宮から帰ってきたのだ。シークの姿も結構ボロボロだったが、大きな怪我はないようでグイニスはほっとした。片足が義足だということを忘れそうな動きっぷりである。それよりも今は、ベリー医師の方が重症だ。
「!ベリー先生、大怪我を!」
ランゲル医師と走ってきた医師が驚く。
「実は、若様も重傷だ。」
シャルブが急いで言った。フォーリはずっと泣いている。グイニスはなんとか意識を保っていた。なぜか、あまり痛みは感じない。だが、とても眠かった。
「失礼します。」
ランゲル医師がグイニスの首筋に指を当てた。
「痛みはありますか?」
「…いや、それよりも眠くて……。」
話しているうちに抗いがたい眠気に襲われて、グイニスは意識を手放した。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




