襲撃 2
少々、しっとりしたシーンがあります。話の都合上、省いていません。
グイニスが目を覚ますと、フォーリが鉄扇を抜いて誰かと戦っている所だった。部屋の外からも剣劇の音が聞こえてくる。みんなが戦っている。そして、気がついたのだ。自分が傷つかない限り、襲撃が終わらないのだと。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
グイニスはバタバタと、周りで何かが激しく動いている音で目を覚ました。パッ、パッ、パッという規則的な音が続き、その後、カッカッバシッ、という音もしている。
(…フォーリの鉄扇の音だ。)
緊急事態が起きたことは分かったが、急に起き上がることはしなかった。まずは様子を見なくてはならない。目を開けて周りをよく観察した。
小さくランプを灯し数カ所に置いて明るくしてある。フォーリと何者かの影が大きく、影絵のように壁に映し出されている。
相手は一人だろうか。もしかして、前にも会った謎のニピ族かもしれない。しかし、それだけではなかった。なんだか煙い。煙の匂いもしている。よく見れば窓が二カ所ほど壊されており、そこから入り込んでいるようだ。つまり、周りは火事かなんかになっている。
のんきに寝ている場合ではない。シャルブは外にいるのだろうか。寝室の外からも剣戟の音がしている。
何かが窓の外から飛んできて、壁に付き立った。矢だ。
グイニスはすぐに動けるように身構えた。久しぶりにぐっすり眠ったせいか、少し体は軽い。セリナのおかげだ。でも、このままでは彼女も危険だ。とりあえず、彼女に降りかかりそうな危険は自分が払おうと決めた。彼女はまだ眠っている。赤子を身に宿しているのだから、きっと体も大変だろう。こっそり体を動かして、セリナの頭を自分の体から下ろして、枕の上に乗せた。
その時、何かが飛んできた。とっさにクッションを盾にした。ブスッという音と軽い何かが当たった感触がした。
「おや、王子が目覚めたようだ。飛刀を防がれた。お前の隙を突いたのに。」
やはり、前に会った謎のニピ族だ。
「若様…!」
「フォーリ、私は無事だ。お前はその男に集中してくれ。彼女は私が守る。」
振り返ったフォーリにグイニスは伝える。
「はい。」
どこか安心したようだ。フォーリもあの男が相手では、決着をつけきれないでいる。相手も手練れだからだ。
ガシャンと激しい音がした。
「ベリー先生、気をつけて…!」
シャルブの声が寝室の外の方から聞こえてきた。おそらく、元親衛隊のシーク達も戦っているのだろう。まだ、グイニスが少年だった頃、いつか自分を見捨てるのだろうと言って、シークを困らせたことがあったが、その時、彼は何があってもグイニスを守ると約束してくれた。家族とグイニス、どちらかを選ばなければならなくなった時、グイニスを選ぶと約束してくれた。
フォーリやベリー医師以外の、完全な味方を得られてほっとしたと同時に胸が痛かったのを覚えている。
大勢の人が命をかけて戦っていた。
あっちもこっちも大変なことになっている。みんな自分を狙ってのことだ。グイニスは申し訳なく思う。やっぱり、田舎に行かなくては、都会ではかなり迷惑をかける。カートン家の損害は大変なものだろう。
そこまで思った時、気がついた。これは自分を狙っての攻撃なのだ。つまり、グイニス自身が傷を負うなりしないと、この全体の攻撃がやまないということだ。もし、煙が放火だとしたら…。多くの人が危険にさらされることになる。ここに寝泊まりして療養している人も大勢いるのだ。
自分一人のために、そこまで多くの人の命を賭ける必要があるだろうか。自分の命の価値は、そんなに重いのか。
グイニスはセリナの寝顔を見つめた。彼女だけは守りたい。そして、お腹の子も。不思議な気分だ。父親になると言われてもぜんぜん、ぴんとこない。恥ずかしいのに嬉しい。だって、自分の血を分けた家族が生まれるのだ。とても、不思議だ。本当は性交はとても神聖なもののはずだ。だって、新たな命が生まれてくるのだから。
どんなに頑張っても、カートン家が薬を作るように、新たな命が生まれて新たな人が誕生する訳ではない。
それなのに、グイニスは神聖なはずの行為で辱められ、体を弄ばれた。それは心の中に暗い影を落としている。今もそのことを思えば、嫌になる。発狂しそうになる。
ただ、セリナとの時はぜんぜん嫌ではなかった。幸せで満たされた。うっとりと見つめてくれる瞳を忘れられない。グイニスを呼んでくれる声も、彼女の指先も、栗色の髪の毛の艶やかさも、彼女の体温も、柔らかさも、彼女の全てを忘れられない。
愛する人だから。だから、なんとかそれを思い出して、自分をつなぎ止めた。そうしたら、贈り物があった。
なんとしてでも、この天からの贈り物だけは守らなければならない。
心から愛するセリナと子供を守るためなら、斬られたって構わない。いや、斬られない限り終わらないのだ。
グイニスはそっとセリナの額に口づけした。もしかしたら、最後のお別れかもしれないから。
静かに起こさないように寝台を下りると、布団をかけ直した。さらに音がうるさくないように、気休めだがクッション類を彼女の頭の周りに置いた。
そして、フォーリと男の戦いをじっと眺めた。フォーリはグイニスを背にしている。敵の男の方がグイニスの方を向いていた。一瞬、目が合った。途端、間合いを取ると鋭く指笛を吹いた。
星河語
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