セリナの予感 2
こんばんは。更新が遅くなって申し訳ありません。パソコンが不調で遅くなっています。
セリナはベリー医師から、若様の状態を聞くことができた。あまりにひどいことで、涙を堪えきれない。ベリー医師も一緒に泣いていた。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「……先生。大丈夫ですか?」
セリナは持っていた手巾を手渡した。
「ありがとう。すまないね、取り乱してしまって。」
気分を落ち着かせてから、ベリー医師は切り出した。
「セリナ。覚悟して聞いて欲しい。話を聞かなくても不安だと思う。でも、現実を知ったところで、その不安が消えるわけでもない。むしろ、逆に大きくなることもある。それでも、若様に何があったか聞くか?」
セリナは少し考えた。
「つまり、それだけ覚悟がいるってことは、最悪の状況だってことですよね?」
「…そうだ。君が考え得る限りの、最悪の状況を思い浮かべて欲しい。」
考え得る限りの最悪の状況。セリナはため息をついた。
「…わたしの思うに、まず、過去の記憶を取り戻してしまったんですね。つまり、そのザムセーとかいう人が、無理矢理若様の記憶を思い出させた。……最悪っていうなら、さらに…現実にも…襲わせたってことですか?」
ベリー医師は静かに頷いた。セリナはなんてひどいことを、と言おうとして唇が震えていることに気がついた。ベリー医師も涙で両目が潤んでいる。
「私は若様が幼い時から治療に当たってきた。だから、それを聞いたとき、耳を疑った。怒りよりも先に、若様が壊れてしまうんじゃないかと心配した。なぜ、あんなに素直で純粋な子にそんな非道な事ができるのか、理解に苦しむ。
だから、私も凄く胸が痛い。引き裂かれるかと思うほど胸が痛くて、久しぶりに泣いた。」
声も出せずに泣くセリナの手を、ベリー医師が握ってくれた。
「悲しい時は泣くといい。でもね、セリナ、あんまり悲しむとお腹の赤ちゃんも悲しむよ。親を心配するんだ。だから、あんまり悲しんだらいけない。」
セリナは頷いた。
「ゆっくり呼吸してごらん。」
セリナの手を握ったまま、脈を測っていたベリー医師はセリナに言った。自分が休まなくてはいけない時でも、お医者さんを始めたベリー医師がおかしくて、思わず小さく笑ってしまった。
「どうしたんだ、笑ったりして?」
「凄いなあって感心してしまったんです。先生はご自分も休まないといけないのに、わたしの診察を始めるから。」
するとベリー医師も苦笑いした。
「本当はここの所、診察されるばかりで誰も診察していないから、落ち着かなくてね。医師は私にとって天職だから仕方ない。」
「天職ですか?」
「そうだね。医者以外はできない。それしかやってこなかったから。」
あぁ、とセリナは思わず納得してしまう。
「確かにそうですね。…でも、みんなそうですよ。フォーリさんみたいになんでもできて、他に転職できそうな人ってそうはいませんよ。」
「…フォーリは若様の護衛以外、やるつもりはないと思うけど。」
思わずセリナは笑った。
「そうでしょうね、きっと。」
「セリナ、君は覚悟している?若様と別れることを。」
少しの間の後、ベリー医師が聞いた。
「……凄く悲しいけど、そうなるかのもしれないって、思ってました。だって、母さんが若様に言った言いつけだから。きっと、若様はそれを守ります。わたしを危険にさらしたと思っているでしょうから。二人の命を守るためなら、いつでも別れなさいって。」
話している間にも涙が勝手に落ちていく。
「…でも、その前に若様に会いたい。この目で無事を確認したいんです。会いたくてたまらないんです。」
しばらく、二人は何も言わなかった。
「セリナ。今は無理かもしれない。まだ、記憶を取り戻したばかりで、冷静に話ができる状況じゃないと思う。病もようやく治った所みたいだし。」
「……。」
「昨日だったか、シャルブでさえ若様に拒絶されて、シャルブは泣いたそうだ。」
「…シャルブが。きっと、凄く落ち込んでますね。」
ニピ族は主に拒絶されたり、怒ったりされると本当に落ち込む。しょげてるという表現がふさわしいかもしれない。よく見ればフォーリも、ちょくちょく落ち込んでいたと思う。
「そうだろうね。本当なら、君の護衛をするようにとフォーリに言われてそうなっているはずなんだが、君がここにいるってことは、していないということになるからね。」
それは…相当、効いたんだな、とセリナは思う。
「シャルブは若様と年齢が近い。だから、若様も見せたくないものもあるんだろう。若様だって年頃の普通の青年だ。悪夢を見た直後だったとはいえ、嫌だったんだろうと思う。」
ベリー医師はセリナを見つめた。
「セリナ。だから、君なら尚更だ。愛している女性に、他の男に襲われたってどうやって言える?今までは悪夢の内容を覚えていなかったから、君とも一緒にいられた。
でも、そんなことがあった直後に、一緒にいて欲しいと言える度胸は、私にもない。君との思い出もあるだろうから、それだけは汚したくないだろうし。」
セリナは涙が流れるままにしていた。涙を拭うことさえ今はできなかった。
「無事かどうかその確認はしたいと思う。でも、君と会う勇気が出るかどうかは分からないよ。あまりにも傷が深いから。」
セリナは頷いた。分かっている。それだけのことをされたのだから。なんてひどい人達。王位継承がかかっているからって、どうして人の人生をここまで踏みにじることができるのだろう。
「ただね、セリナ。若様は知ったそうだ。」
「…え?」
涙声で聞き返した。
「君が若様の子を身ごもったことを。」
セリナは衝撃を受けた。どういう状況で知ったのだろう。後で落ち着いてから言おうと、モディーミマの屋敷に行く前は思っていた。でも、こうなってからはいつ、言えるのかそれが心配だったのだ。
「状況としては最悪の状況で知ってしまった。でも、そのことが若様をつなぎ止めたんだ。身近な人達との絆が、若様の心が壊れるのをなんとか止めたんだと思う。フォーリの声で目覚めたんだろうね。最初は抜け殻のようになっていたそうだから。その後で、君の話を聞いた。若様は泣いて喜んだそうだ。」
セリナは号泣した。もう、我慢できなくて声を上げて泣いた。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




