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ザムセー・カートン 3

 フォーリは、マッドサイエンティストのザムセーを、殺したい衝動をなんとか堪えていた。すると、いつの間にか若様が目覚めており……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「絶対に逃がしてはならない。」

 ランゲルは秘密部隊に命じる。その声を聞いてフォーリは、そっと若様を寝台に寝かせると立ち上がろうとした。

 その腕を(つか)まれた。はっとして弾かれたように振り返る。

「…フォーリ。」

 小さな声だったが、はっきり聞こえた。

「若様!気がつかれたのですか!?」

 フォーリはまた、若様を抱きかかえると泣き崩れた。

「申し訳ありません、私のせいです。お守りできなかった。約束したのに。守れず申し訳ありません。」

 若様が動いた。手がフォーリの背中に回って、優しくさすってくれる。胸を突かれた。それは、カートン家の一同も同じだった。

「フォーリ……。」

 若様は高熱のためか、息苦しそうだ。

「…はい。」

「今の話はほんとう?」

 フォーリは涙で揺らぐ視界のまま、若様の顔を見つめた。

「セリナが、私の子を身ごもっているって……。」

「はい。あなたは…父親になられるのです。」

 高熱のために目の焦点が合っていない、若様の両目から涙が溢れた。

「セリナを…助けて。殺されてしまう。私の子供も殺されてしまう。フォーリ…。」

 フォーリは涙をマントで拭った。

「承知致しました。奥様をお助けしに参ります。」

「ううん、だめだよ、フォーリ。」

 若様は首を振った。

「私はセリナを危険にさらした。…ジリナさんに言われた。…二人の、命を、守ることを最優先にしなさいって。命を守るためなら、別れたってかまわない、添い遂げろなんて言わないって言われた。」

 若様は息を吸った。涙がいっそう溢れる。

「……ジリナさんは千里眼なのかな…。こうなるって、なんで知っていたんだろう。フォーリ。セリナと子供を守るためなら、どんな事をしたって構わない。私はセリナと別れる。結婚したら、もっとセリナを危険にさらす。彼女が死んだら、私は本当に死んでしまう。…今日だって、セリナのことを思い続けて、なんとか、耐えた。だから…。」

「若様。一言、ご命じ下さい。」

 若様は涙に濡れた目でフォーリを見上げた。

「フォーリ、セリナを守れ。」

「はっ。」

 フォーリは若様をそっと寝台に寝かせると、立ち上がった。途中、ランゲル医師の前で立ち止まる。

「セルゲス公は我々が責任を持って治療致します。叔父に拷問をかけてでも、治療法を探し出します。」

 ランゲル医師が涙声で言った。

 誰もが若様の優しい強さに胸を打たれていた。

 フォーリが部屋を出ようとすると、ザムセーが話しかけてきた。

「いいのか、私を殺さなくて。主を傷つけた者をニピ族が放置するとは。」

 我慢していた。若様の治療に影響が出るから。でも、我慢の限界だった。

 ザムセーの首に手をかけ、鉄扇を振り上げたところで思いとどまった。

 カートン家の者達が電光石火の早業に息を呑んで見つめた。

「やらないのか?」

「貴様を殺せば、若様の治療に差し(さわ)りがある。」

 なんとか、声を絞り出す。すると、ザムセーは喉を鳴らして笑い出した。思わず喉を締め上げる。その手を秘密部隊の隊長が手をかけてきて、思いとどまらせた。必死で怒りを抑える。ようやく、ザムセーから手を離した。

「…なるほど。こんなに冷静なニピ族を私は初めて見た。だから、あやつを殺せそうなほど追い詰められたのだな。」

 ザムセーはまた、笑う。

「気分がいい。ランゲルを心底怒らせた。あんなに激怒しているのを初めて見れた。ランゲル、いいだろう。その病の治療法を教えてやる。拷問は嫌だしな。」

 そんなことを言うザムセーを、秘密部隊の隊長が殴った。彼女は両目に涙を浮かべている。

「…本当に反省をしていないのですね。私は常日頃から氷の女だと言われていますが、今はその氷も溶けそうなほどの激しい怒りに、身が焼けそうです。」

 そう言って、彼女は深々とフォーリに頭を下げた。

「私も半分ニピ族です。ですから、怒りを堪えて下さった、そのお気持ちは無駄にしません。どうか早く助けに行かれて下さい。」

 フォーリは黙礼するとようやく部屋を出た。

「大変です。気を失われました。ひどい高熱です。早くしなければ、命に関わります。」

 一人の医師がそう言う声が聞こえた。それでも、フォーリは進んだ。

「早く馬車へお運びしろ。何がなんでも必ずお助けするんだ…!こんなことで命を落とされるなんて、たまらない!」

 ランゲル医師の声もした。

 フォーリは廊下を疾走した。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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