モディーミマの娘 1
地下牢に入れられたセリナは、若様のことを心配していた。そこに、モディーミマの娘が現れて……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
セリナは若様のことが心配でたまらなかった。物凄く不安だ。どうしよう。本当に具合が悪そうだった。顔色が土色に近いくらい悪かった。
地下牢はかび臭くて暗かった。明かりは一応つけられていて、小さな蝋燭の明かりがある。ないよりはましだ。どこにも座るところがないので、立ったまま牢屋内を少しだけあっちへ行ったり、こっちへ来たりしていた。空気は籠もっている上に湿気ていて、ベリー医師がいたなら、こんな部屋にいたらいけないと厳しく叱られるだろうと思う。
セリナは下腹の辺りをそっと撫でた。
(どうしよう、あなた達のお父さんが危ない目に遭っているの。助けに行けない。)
足が疲れてきたが、地下牢の床はびしょびしょしていて、妊娠中の自分が座ったら冷えてお腹の子供に良くないと思われた。
その時、上階の出入り口を開閉する音が聞こえて、セリナは緊張して身構えた。いよいよ、殺されるのだろうか。どうしよう。この子達も一緒に殺されてしまう。
誰かが下りてくる。誰だろう。男性にしては足音が軽い気がした。奥方か誰かだろうか。
(そういえば、あまり、女性がいる雰囲気じゃなかった。)
明かりがだんだん足音と共に近づいてきた。そのうち、影も見えてくる。そして、セリナのいる牢の前で立ち止まった。
ランプを持っているようで、上に掲げている。セリナは向こう側を凝視した。どうも、思った通り女性らしい。
「ねえ、いるの?」
想像以上に若い声にセリナは意外に思う。
「いるなら、こっちに来てくれる?」
「…誰ですか?」
一人で来た様子だったので、セリナは覚悟を決めて答えた。でも、近くには寄らなかった。国王軍の兵士達からいろいろ聞いていたので、格子の間から剣を刺してくるかもしれないと警戒した。女性だからと行って油断はできない。リイカ姫のような女傑だっているのだから。
「何もしないわ。あなたに危害を加える気は無いの。見える?武器を持ってないでしょう?」
確かにそのように見えたので、セリナは奥から少し近づいた。でも、何かあったらすぐに後ろに下がれる位置に立つ。
「警戒しているのね。分かるわ。父が愚かなことをしたから。」
セリナはびっくりした。あのモディーミマの娘だったのだ。
「お願い、あなたの顔を見せて欲しいの。」
言われてセリナは恐る恐る近づいた。
「…なるほどね。」
そう言って、彼女はため息をついた。よく見ると彼女は、顔に布をかけて覆っている。
「あなたみたいな人がいるのに、適いっこないわよ、最初から。父は変な夢をみていてね。困ってしまうわ。」
言っている意味が分からず、セリナは困惑した。でも、言葉の端々からなんとなく、推測はできる。もしかして、モディーミマは娘を若様と結婚させようとか考えているってこと?
「こっち来て。」
そう言って、彼女はランプを床に置くと、顔の布をほどいた。彼女の顔の右頬には大きな傷跡があった。下からの光に照らされて、それがかえって傷が痛々しく見える。思わず息を呑む。
「これ。昔、強盗に人質に取られた時の傷なのよ。幸い命は助かったけどね。この傷ができたとき、十二歳だった。ちょうど、女の子は色々と変わってくる時期でしょ。体も心も変化が起こる頃。だから、とても悲しかったわ。毎日、泣いて暮らしたの。」
「…痛かったでしょうね。体も心も。」
思わずセリナが感想を述べると、彼女は頷いた。
「…ええ。そんな折りにリイカ姫の戦勝の話を聞いたの。今までそんな話に興味はなかった。でも、傷ができてから、リイカ姫はどういう思いで戦っているのだろうって、興味を持ったの。それで、全部調べたのよ。リイカ姫の戦いを。
それで、わたし、生まれて初めて剣を握った。強くなるって決めた。剣術を習い始めるのに、決して早いほうでもなかったから、習いやすいって言うイワナプ流を習ったの。」
「…どうなったんですか?どれくらい、強くなれたんですか?」
すると、彼女は微かに笑った。
「十剣術交流試合の剣士に選ばれる程よ。」
「…すごい。凄いですよ、それ…!」
セリナは思わず力を込めて言ってしまった。お互いに名乗り合ってもいないのに、親しい友人同士で話しているかのように。
「そうでしょう?わたしもかなり自慢よ。試合の結果は二勝三敗。結構な成績だって思わない?」
「わたし、剣術のことはよく分かりません。でも、十剣術交流試合に出場できるだけで大変な名誉で、それだけで力のある剣士だという証明になると聞いています。」
セリナの答えに彼女は、とても満足そうに笑った。
「でもね、私の父はそれが気に入らなかったみたい。母が十五歳の時に病で亡くなったの。私の結婚について、どうにかきちんとして欲しいって頼まれたみたいで、不器用な父はセルゲス公と結婚すればいいって思い込んじゃったみたいなの。
わたし、セルゲス公とは結婚しないって言ったわ。以前、お見かけした時、わたし、あんな方と結婚できないって一目見た瞬間、思ったもの。生まれて初めて、あんなに整った顔立ちの方を見たわ。それでいて、優しげで憂いのある横顔で、どこか悲しそうだった。とても、苦労なさったのね。きっと。」
彼女は言って、ため息をついた。背中を牢の格子にもたれかけさせ、考え込んでいる。
「どうにかして、あなたを出したいんだけれど、鍵を父が持っているの。」
「どうして、親切にして下さるんですか?」
セリナは慎重に尋ねた。
「だって、間違っているわ。それに、セルゲス公はわたしが憧れている、リイカ姫の弟君よ。その方が選んだ相手があなただもの。だから、助けたいの。それに…心配なの。父が何か重大な過ちを犯しそうで。」
彼女は背中を格子から離すとセリナの方を向いた。
星河語
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