第六感 1
フォーリは若様が助けを求める声が聞こえた気がして目を覚ました。そして、目を覚ますと若様とセリナが姿を消し、捕らえたはずの謎の組織の男が逃亡し、さらにベリー医師が行方不明になっていると聞き、嫌な予感がする。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
フォーリ、助けて……。
フォーリは若様が助けを呼んでいる気がして、目を覚ました。
はっとして起き上がると丸一日以上寝ていたので、さすがのフォーリも頭がふらついた。その動きに医師が振り返った。
「おや、目覚めたんですか。早いですね。ニピ族はもっと寝だめするんですが。」
ベリー医師ではなかった。嫌な予感がする。
「…若様に呼ばれた。助けを求めておられる。」
普通、そんなことを言い出したら、頭がおかしいとか思われるが、カートン家の医師はそうは思わない。ニピ族の第六感は恐怖するほど鋭いことがある。それを知っているから、馬鹿にしないと分かっていた。
「待って下さい、これを。なんとなく作っておいて良かった。」
いつか飲んだ記憶のある、頭と体が目覚める猛烈にまずい飲み薬だ。差し出された薬を、今度もまた一気に飲み干した。
「はい、これもどうぞ。」
これまた、記憶のある丸薬を渡されかみ砕いた。時間が惜しくて急いで飲み下す。
「ベリー先生は?」
医師の表情が曇った。
「若様のところへ行く。」
「お待ちを。」
医師はため息をつくと、意を決したように今の状況を伝えた。さすがのフォーリも顔から血の気が引いた。若様とセリナが忽然と姿を消したこと、謎の組織の男が逃げたこと、そして、事情を知っていると思われるベリー医師が行方不明だということ。
寝起きですぐに考えがまとまらない。若様を探しに走り出したいくらいだが、理性が待てと伝える。そうだ、まずは。
「ベリー先生は見つかっていないのか?」
「それが、まだなんです。」
「私も探す。すぐに何があったのか聞きたい。それに、ベリー先生を捕らえるということは、あの男が何かしたのだろう。だが、連れて逃げるなんて手間なことはしないはずだ。ニピ族が大勢いるから目立つ。つまり、カートン家内にまだいるはずだ。」
フォーリは言いながら、自分でも頭の中を整理していた。
「我々もそう思っていますが、まだ、見つかっていないようです。」
医師は今、若様とセリナがいた部屋周辺を探していることを伝えた。フォーリが急いで出ようとした刹那、待って下さい、と医師の声がかかった。
「知らせが…!」
フォーリは急いで窓辺から戻る。ベリー医師が見つかったという知らせだった。
ザムセーの誤算はルイスが賢かったことだ。甥のランゲルに伝わるまで、二、三日かかると考えていたが、実際にはその日のうちに伝わった。
家に帰ったルイスは、長椅子に座り生まれてくる子のために編み物をしている母のユイラに尋ねた。
「ルイス、お帰り、どうしたの?ちゃんと手洗いとうがいをした?」
ルイスは頷いた。ユイラの護衛のニピ族の女性がおやつを取りに下がった。
「…あのね、母上。もし、特別な患者さんの部屋にいる患者さんが、いなくなっちゃったら、大変なこと?」
ベリー医師に話していた時より、幼くなかった。
ユイラはがばっと身を起こした。
「どういうこと?どうしてそんなことを言い出したの?話しなさい。」
母の反応にこれは重大事件だと理解したルイスは、それでもベリー医師の言いつけを守った。
「だめだよ、言えないよ。だって…。」
口をつぐむルイスに、ユイラは厳しい声でもう一度促した。
「ルイス…!これは患者さんに関する重大なことよ。言いなさい。」
「だって、ベリー先生が父上か、ミンスにしか話したらだめだって、言ったんだもん…!」
ベリー医師の名前にユイラは、はっとした。ベリー医師は夫のランゲルの同期で、かなり親しい友人だ。最も信頼する医師の一人である。しかも、彼の患者が誰かユイラも知っている。
「スティー!緊急事態よ!」
護衛をすぐに呼ぶ。ルイスのおやつを持ったスティーがすぐさまやってきた。
「なんでしょうか、奥様。」
「すぐに主人の所に行って。緊急事態だから、夫を必ず連れて帰ってきて。宮廷医と言っても他に何人もいるわ。こっちの方が重大かもしれない。今すぐに仕事中でもいいから、連れて帰ってきて。」
「承知致しました。」
スティーはすぐに部屋を出た。カートン家にはニピ族用の通路がある。大勢の患者や医師達の邪魔をすることなく、まっすぐに走って外に出られる。出る場所は厩舎の前。すぐに指笛を鳴らす。馬がいなないて走ってきた。今は牧場にいたらしい。
ちょうど良かった。すぐに走って行ける。馬丁がスティーの姿を見て、すぐに彼女用の鞍を持ってくる。すぐに鞍を固定した。別に自分の馬でなくてもいいが、人が多い町中を走るには、一心同体の自分の馬の方がいい。
あっという間に走れる状態になり、スティーは馬に跨がった。柵が開けられると同時に走り出す。もちろん、患者達に出会うことなく道路に出られるようになっている。すぐに出て走った。
こうして、その日の夜にはランゲル医師が帰ってきた。
星河語
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